ソフトバンクの孫社長が「後継者候補」にアローラ氏を指名した狙い(前)
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ソフトバンクの孫正義社長(57)が後継者に指名したのは、インド出身のニケシュ・アローラ氏(47)だった。5月11日の決算発表会見で、7月1日付で社名をソフトバンクグループ(SBG)に変更すると発表。合わせて、6月19日付で、昨秋、米グーグルから引き抜いたアローラ氏を代表権のある副社長に抜擢する人事を明らかにした。
孫社長が自身の後継候補を明言するのは初めて。SBG体制では、孫社長が最高経営責任者(CEO)に、アローラ氏は日本語の肩書は副社長だが、英語の肩書がプレジデント(社長)となり、ナンバー2の最高執行責任者(COO)を兼ねる。携帯ビジネスの挫折。スプリントが2,500億円の減損損失を計上
孫社長の後継者指名は驚きをもって迎えられたが、孫社長の目指す方向性が見える人事であった。兆候はいくつかあった。
キーワードの1つ目は、スプリント。2月10日の2014年4~12月決算(国際会計基準)の会見で、孫社長は、米携帯電話子会社のスプリントが減損損失を計上したことについて「厳粛に受け止めている」と神妙な面持ちで語った。
スプリントは10~12月期決算(米国会計基準)で、総額21億3,000万ドル(約2,500億円)の減損損失を計上し、営業損益は25億4,000万ドル(約3,000億円)の赤字に沈んだ。
しかし、ソフトバンクは減損処理をしなかった。両社の会計基準が異なるためだ。減損処理していれば、ソフトバンクの最終損益は大幅な減益になるはずだ。
孫社長は「本質的には減損すべきだと認識しているが、(ソフトバンクが適用している)国際会計基準では減損したくてもできない。減損したつもりで経営すべきだ」と述べ、減損処理しなかったことを釈明した。ソフトバンクは06年にボーダフォン日本法人を買収して携帯電話に参入した。孫社長が大勝負に打って出たのが13年の米携帯電話3位のスプリント買収だった。1兆8,000億円を投じた。「自分の頭と時間の90%以上を通信事業に集中した」(孫社長)。
スプリントを子会社化したのは、業界4位のTモバイルUSを買収して、合併することが前提だった。3位、4位連合で一気にトップの座を奪取する狙いがあった。しかし、米規制当局の認可が難しいことから、14年8月にTモバイルの買収を断念した。
これで合併シナリオが崩れ、スプリントは事業計画の修正を余儀なくされた。スプリントが減損処理した理由だ。Tモバイルを買収できなかったことで、携帯電話で世界一になる孫氏の野望は潰えた。スプリント売却の可能性について、孫氏は「上場会社なので、余計なことはあまり言わない方がいい」とコメントを避けた。早晩、スプリントを売却して、米国の携帯電話市場から撤退するとの見方が有力だ。
スプリント買収に挫折したことで、孫社長によれば、「趣味のように続けてきた」というネット分野の投資に「もう一度戻る」ことにした。IT王国インドに1兆円を投資する
キーワードの2つ目はインド。孫氏は決算発表会見で、インドについて、こう述べた。
「インドは13億人の人口のうち、25歳未満の人口が約5割。学校教育のほとんどが英語。世界最大の英語圏は、もうじき米国を抜いてインドになるだろう。若い人は英語を話す。ソフトウェアエンジニアが世界最大。この3つの要素が中国のファンダメンタル(経済の基礎的条件)よりも強い」。孫氏の、インドへの思い入れは強い。
インドを訪問した孫正義社長は14年10月27日、モディ首相やプラサド通信情報技術相と会談し、インドに今後数年間で100億ドル(約1兆1,000億円)を投資する考えを表明した。インド政府の発表によると、孫氏はプラサド氏との会談で、「インドはソフトバンクにとって最優先だ」と発言し、通信と電子商取引の分野の成長に強い期待を示したという。
ソフトバンクは14年11月、インドの通販ネット最大手、スナップディールに約680億円を出資。同年11月、インドで配車システムを手がけるANIテクノロジーに約230億円を出資。同年12月、インドの不動産仲介サイトのロコン・ソリューションズに約110億円を出資した。いずれも筆頭株主になった。3社とも、ニケシュ・アローラ氏が提案した投資案件だった。
(つづく)
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