【日韓問題・インバウンドへの影響】岐路に立つ九州の観光業 戦略転換で課題解消を(前)
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2018年に福岡の玄関口である福岡空港と博多港から日本に入国した外国人は延べ人数にして327万人。そのうち韓国人観光客は51.2%、およそ170万人に上る。徴用工問題に端を発した日韓関係の悪化と円高ウォン安の進行による九州の観光地への影響について取材した。
過熱した日韓の応酬
2018年10月、韓国はソウルにある大法院(最高裁判所)で戦前、戦中期の企業(現・新日鉄住金)を相手取った強制動員に対する慰謝料請求裁判が結審した。
原告の請求は認められ、被告である日本企業の韓国国内の資産は差押の対象となった。翌1月、3月には実際に差し押さえが行われ、韓国企業ポスコとの合弁会社PNRの株式が管理下に置かれた。これは損害賠償金であるとともに遅延金に該当する資産として、5月には一部を売却するよう指示が出された。
これがトリガーとなった。7月、日本の経済産業省は韓国を貿易優遇措置国(いわゆるホワイト国)から除外すると発表した。当初は「徴用工判決への対抗措置」と関連付けていたが、その後、「軍事機械への転用が可能な物品を北朝鮮に輸出していた」として、韓国の輸出管理の甘さを強調するようになった。これに対して韓国も日本の優遇措置除外を決定し、同時にこれまで日本から輸入していた半導体関連産品の自国生産を進める方針を打ち出した。
これまで、日韓関係が政治的に悪化しても、経済関係は変わらず良好であるという考えが日本では浸透していた。ところが、今回は日韓外交から経済へと波及し、さらに日米韓の3カ国による東アジア秩序を固めようという意図の元で結ばれた軍事情報包括保護協定(GSOMIA)の破棄を韓国が宣言する事態となり、その衝撃たるや大きなものとなった。
LCC、ビートル……国際便で著しく減少
日韓関係の悪化が経済関係にまで波及したことでメディアも一挙に過熱した。日本では連日韓国国内の様子が報道され、日本を非難するシュプレヒコールを挙げるデモの模様などがテレビで放送された。韓国国内でも日本政府の対応やそれに対する社会の反応が報道され、より強い対応―断交を求める右派の団体にも取材し、その模様を放送していた。
これらメディアの報道のなかで、徐々に日本への韓国人観光客の減少がみられるようになった。韓国の祝日(8/15)を含む8月9~18日の10日間のJR高速船ビートルの韓国人の利用者数は833人と前年同曜日比で30.5%にまで落ち込んでいる。
LCCでは相次いで減便が発表された。とくに著しいのは地方便で、大分や長崎など九州各地に直接乗り入れる便が運休。福岡県内でもエアプサンが9月から北九州便を週3本に減便すると発表した。
天候不順も追い打ち、観光客減少に苦渋
別府は韓国人観光客にも人気の観光地だ。筆者自身、昨年12月に同地を訪れた際は市営温泉で韓国人観光客と出会った。約2,800人の留学生を受け入れている立命館アジア太平洋大学(APU)のような国際的な大学もあるなど、外国人にも非常に開かれた街だ。
8月某日に訪問した別府は、以前と変わらず硫黄の匂いが立ち込める温泉街であった。もうもうと源泉から湯気が上がる空は鉛色と天気の悪い日であった。
別府駅の観光案内所で話を聞いた。外国人観光客向けの窓口を設け、外貨両替も行うなどきめ細やかなサービスを行っているが、韓国人観光客数について、「最近はゼロの日もありますよ」と担当者は眉尻を下げる。その窓口では1日の利用者を国籍別で集計しているといい、「今日はフリー(個人客の韓国人観光客)は1人でした」。7月以前は平日でも1日30~40人は訪問していただけに、著しい減少だ。
別府市内でも団体客の姿を見かけることはなかった。ツアー客の動向について、別府市内でロープウェイを運営する別府ロープウェイ(株)に話を聞いた。この会社がロープウェイを設置している場所で、「鶴見岳」という山がある。別府市内を眺望できる鶴見岳は別府から湯布院に向かう途上に位置している。ロープウェイで頂上まで上がることができ、そこには大パノラマが広がり四季折々の自然や風景が楽しめるニッチな観光地だ。
この会社では、「関係悪化もそうですが、天候不順に負けたというのが印象」と広報担当者の回答だった。確かに、今年の日本の主な観光施設は、梅雨明けの遅れに加え、突然の雷雨など天候不順に悩まされた。中旬まで雨続きだった7月は客足が伸びなかったところが多かった。
その広報担当者は「本日は、ツアーは1団体だけいらっしゃっていましたが、以前に比べれば人数は少ないです。個人の旅行者でも以前は、2、3人の少人数から10人ほどのグループが小型バスを借りて、という方々もいらっしゃいましたが、最近はまったく減りました」と話してくれた。
為替変動と「空気」の悪化
以上のように、韓国人観光客の減少は地方都市に大きな打撃を与えている。一方で、韓国と福岡間の減便や休止は少ないなど、福岡市内への影響はまた異なるようだ。
「福岡市内では団体客の割合はだいたい5%ぐらい。圧倒的に個人客が多いと思います」。そう語るのは韓国人向けインバウンド事業を手がけるアジアフューチャー(株)の松清一平会長。
対馬市を調査した同氏は、韓国人観光客の減少について、「基本的なツアー客の割合は、対馬60%。福岡では5%というところ。今はそれぞれでツアー客がゼロという状態ですから、相対的に福岡のほうが状態はいいでしょう。それでも個人客も減っています」。その減少については、政治的な軋轢よりも為替変動が大きいと指摘する。
「政治的な軋轢よりも円高ウォン安になったことのほうが大きいでしょう。韓国人観光客が日本旅行で求めるものは『ないもの』『いいもの』『安いもの』です。中国人の爆買いということで購買意欲が高いという話が以前はよく言われましたが、韓国人観光客は消耗品を大量に買います。韓国人と中国人の旅行者の数はほぼ同数なのですが、延べ人数でみると圧倒的に韓国人の方が多い。これは韓国人観光客の75%がリピーターだからなのです。また、昨年はむしろ出来過ぎだと思うほどの来日者数でした。むしろ今年は実数通りなのではないかと思います」と冷静な見方を示す。
一方で、政治的な軋轢によって社会の雰囲気、「空気」が悪化したことも関係しているという。「たとえば最近の若い韓国人は旅行するとInstagramにアップしたいという傾向があって、『今は日本へ行っても写真をアップできない』と避けています。韓国は日本と同じかそれ以上に空気には敏感で、社会の壁が厚い」。これに対抗できるのは、「実際に日本に住んでいた人や、日本語ができる人などの情報リテラシーがある人」に限定されるという。
(つづく)
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