検証「豊洲市場裁判」　東京地裁、日建設計の耐震偽装に踏み込まず　原告仲卸業者の請求を却下（後）

国内最大手の設計事務所「日建設計」による設計偽装

　―当社は、2019年5月、日建設計の亀井忠夫社長および構造設計の業界団体の会長で豊洲市場問題プロジェクトチーム（以下「PT」）の委員を務めた（一社）日本建築構造技術者協会（略称：JSCA）の森高英夫会長（当時）に対し、市場の構造上の問題点に関する質問状を送付しました。（質問は基本的に「はい」「いいえ」の二択で容易に回答可能な内容）2019元年6月10日付けで日建設計から回答の文書がFAXにて送付されてきた回答は以下の通りでした。

　2019年5月31日付けで当社の代表取締役社長 亀井忠夫宛に質問書（取材申し込み）を受領しました。亀井に代わり、広報室よりご連絡いたします。

　豊洲市場の建物の安全性については、市場問題プロジェクトチームにて確認済みですので、個別の質問への回答は控えさせていただきます。

日建設計 広報室

　仲盛　豊洲市場の設計者として 甚だ無責任かつ不誠実な回答です。身内同士の庇い合いの市場問題PTは、構造設計の核心部分に踏み込むことを避けており、「安全」という結論ありきの形式だけの会議に過ぎませんでした。PT自体が、豊洲市場を正当化するために東京都に忖度する者を委員とした結論ありきの会議に過ぎないにもかかわらず、その会議で確認済みという回答には誠意の欠片も感じられません。

　―PTにおいて 日建設計を擁護する発言をした業界団体（JSCA）の森高会長からは 期限までに回答がありませんでした。

　仲盛　PTにおいて設計者側の代表として説明を行った日建設計の常木康弘氏は現在JSCAの会長となっています。質問状が送付された時点で日建設計の常木氏が次期JSCA会長に内定していたことから、回答できなかったのではないでしょうか。

「検査済証が交付されている」は建物の設計の適法性を証明するものなのか？

　―日建設計は2016年12月28日付で「東京都建築主事より、豊洲市場の全街区について、建築物およびその敷地が建築基準関連規定に適合している（建築基準法第七条五項）ことを証する文書である検査済証が交付され、建築基準法に基づく構造安全性が確認されました。これらのことより、豊洲市場の建物は合法で適正な設計がなされていると認識しています。（株）日建設計 広報室 青木 雅哉」というコメントを出しています。建築確認済証や検査済証により建築物の適法性が証明されているように受け取れますが・・・。

　仲盛　建築基準法の定めにより、建築確認申請を審査し適法と確認し「建築確認済証」を、完了検査において施工が図面と一致していることを確認し「完了検査済証」が交付されます。日建設計は「検査済証が交付されているから設計は適正」とコメントしていますが、検査済証は施工と図面の整合性を確認するものであり、設計自体が偽装されていれば、偽装された図面と施工を照合するので、設計の正当性を証明するものとはいえません。

　姉歯関係の耐震偽装マンションなどにも確認済証は交付されていました。なぜ、建築確認の際に偽装を発見できないのか？それは、建築確認が「性善説」に立って行われているからです。

　建築確認の審査を行う側が「性悪説」に立っていれば、偽装を見抜くことは可能かもしれませんが、手間を要するため現実的ではないし、法令も偽装を想定していないので法令に定められた期間内で建築確認済証を交付しなければなりません。いわば、審査側には、悪意をもって偽装された設計を見抜く仕組みがなかったので、性善説に基づく建築確認は手続き的には問題ないと認識しています。

　審査側が性善説であることをいいことに、日建設計が設計を偽装し建築確認（計画通知）申請を行ったことについては、他の土俵においても解明していきたいと思います。

　―東京地裁の判決は、「行政である東京都が市場の管理者である東京都に除却などの処分を要請することはできない」としています。

　仲盛　本来は、市場の管理者である東京都が、除却や是正などの措置を決定すれば済むことですが、新市場を豊洲に決めた経緯や強引に築地から移転させたこと、有害物質などの人命にかかわる問題も抱えているので、建築基準法令違反を認めるわけにはいかなかったのだと思います。しかし、市場で働く人や来場者の安全を第一に考えるべきだと思います。

　―日建設計の基本理念の冒頭に「価値ある仕事によって社会に貢献する」とあります。

　仲盛　豊洲市場の設計における建築基準法令違反を見る限り、社会に貢献するどころか、社会を犠牲にして利益を上げている企業だと断じざるを得ません。

（了）

【桑野　健介】