アメリカ大統領選挙後の世界秩序を模索する!(4)
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「国際アジア共同体学会(ISAC)年次大会」が11月7日(土)、「ポスト・コロナを生きる日本の道」をメインテーマとして、東京・日比谷の現地会場とオンラインのハイブリッド形式で開催された。
同大会の後援者は、朝日新聞東京本社、(公社)日本中国友好協会、共催者は(一社)アジア連合大学院機構、日本ビジネスインテリジェンス協会、日本華人教授会議。第3部「グリーン・ニューディールの制度設計と日本の道」
第3部の「グリーン・ニューディールの制度設計と日本の道」では、下記の3名の報告が行われた。
(1)松下和夫氏(京大名誉教授)
テーマ:「ネットゼロへの世界の潮流と日本の課題」(2)范云涛氏(亜細亜大学大学院教授)
テーマ:「『環境戦略最先端国』中国の動向と日中関係への提言」(3)李秀澈氏(名城大学経済学部教授)
テーマ:「文韓国政権グリーン・ニューディール戦略の展開」松下氏は世界の環境政策の潮流について、范氏は中国の環境政策、李氏は韓国の環境政策について語った。ここでは、「ネットゼロへの世界の潮流と日本の課題」と題して語った松下氏のエッセンスを以下に紹介する。
世界ではネットゼロにコミットする国が増えています
コロナ対策と環境対策という2つの厄介な問題についてお話します。
「ネットゼロ」とは、二酸化炭素などの温室効果ガスの排出量を実質ゼロにすることです。これは「パリ協定」に基づき、気温の1.5℃の上昇抑制を達成するうえで不可欠の目標となります。
今、世界ではネットゼロにコミットする国が増えています。韓国では4月の選挙で、与党は韓国版「グリーン・ニューディール」、アジア初の炭素中立、石炭火力からの撤退などをマニフェストに掲げて勝利。文在寅大統領は7月14日に、環境分野での雇用創出などを目指した「グリーン・ニューディール」政策に114兆1,000億ウォン(946億ドル)を投じることを表明しました。
中国の習近平国家主席は9月22日の国連総会で、二酸化炭素(CO2)排出量を2030年までに減少に転じさせ、60年までにCO2排出量と除去量を差し引きゼロにする炭素中立(カーボンニュートラル)、脱炭素社会の実現を目指すと表明しました。
日本も、遅ればせながら、菅義偉首相が10月26日に、第203回臨時国会の所信表明演説において、50年に温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする「カーボンニュートラル」、脱炭素社会の実現を目指すことを宣言しました。
世界経済の再起に、脱炭素社会への取り組みも併せて行う
世界は、コロナ禍に直面しています。コロナと気候変動は、ともにグローバリゼーションや人口集中などがその原因と言われています。さらに、コロナは気候変動による、生態系の破壊によって起こされることも指摘されています。危機は社会の不平等と格差によって増幅され、もっとも影響を受けるのは社会的弱者や貧困に苦しんでいる人々です。いずれも人類の生存に関わる問題で、国際的な協調が必要です。
一方で、コロナ禍のなか、どうやって不況経済を回復させるか、という課題があります。しかし、従来の炭素社会の枠組みでの経済回復では進歩がありません。そこで提唱されているのが、「グリーンリカバリー(緑の復興)」や「ビルドバック・ベター(より良い復興)」といわれる方法です。
グリーンリカバリーとは、新型コロナウイルス感染症の流行で冷え切った世界経済の再起を図ることに際し、脱炭素社会など環境問題への取り組みも合わせて行うアフターコロナの政策の1つで、もともと環境意識が高いヨーロッパを中心に提唱されています。
国際エネルギー機関(IEA)の事務局長は3月に行った演説で、コロナ危機からの復興の中心にクリーンエネルギーの拡充と移行を置くことが「歴史的な機会」であると述べ、7月には「クリーンエネルギーへの移行に関するサミット」を開催しました。
IEAが公表したポスト・コロナの未来をつくる「グリーンリカバリー」の報告書では、電力、運輸、ビル、産業、燃料などの部門ごとに、コロナ禍に対応した持続可能な経済復興を実現する詳細な対策が提案されています。
たとえば、太陽光や風力などの再生可能エネルギーや省エネ、電気自動車の購入補助などに、今後3年間で3兆ドルを投じれば、世界のGDPを年平均で1.1%増加させることができ、失われた雇用を900万人規模で回復、または新規に生み出し、加えて温室効果ガスの排出の減少が可能としています。
グリーンリカバリーは、欧州連合(EU)の取り組みが注目に値します。EUは2019年12月にフォン・デア・ライエン新委員長のリーダーシップの下、「欧州グリーンディール」を発表しました。EUはその後、コロナ禍による景気後退にもかかわらず、「欧州グリーンディール」を堅持し、着実に推進することを明らかにしています。
欧州グリーンディールでは、経済や生産・消費活動を地球と調和させ、人々のために機能させることにより、温室効果ガス排出量の削減(30年に55%削減、50年に実質排出ゼロ)に努め、雇用創出とイノベーションを促進する成長戦略です。その実施のために1兆ユーロ(124兆円)規模の持続可能な欧州投資計画を策定しています。
バイデン氏勝利で、アメリカは直ちにパリ協定復帰
米国も、民主党のバイデン氏は大統領就任後直ちに、「パリ協定」に復帰するとしてします(※)。バイデン氏の選挙公約は、「2050年までに経済全体で温室効果ガスのネットゼロ排出を目指す」「持続可能なインフラとクリーンエネルギーに投資」「温室効果ガスの排出規制とインセンティブの再強化」「環境正義の実現」となっています。
コロナ禍から教訓をくみ取り、脱炭素で持続可能社会への速やかな移行を進めることが,
世界で求められています。これは気候戦略というよりも「国家の発展戦略」です。日本が「2050年ネットゼロ宣言」をしたことは評価できます。ただし、現状の延長上では「50年に実質ゼロ」達成は不透明です。その実現には、30年の目標の強化(少なくとも温室効果ガスの排出量を45%減)、石炭火力からの撤退、再生可能エネルギーの抜本的拡大(30年に再生可能エネルギー電力が45%程度を目標)、カーボンプライシングの本格的導入、原子力の段階的停止などを明確する必要があります。
(つづく)
【金木 亮憲】
※:バイデン氏は大統領就任当日にパリ協定に復帰することを公約の1つに掲げていた。 ^
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