2024年12月24日( 火 )

中国が狙うイランの原油と天然ガス~支払いはデジタル人民元で(後)

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国際政治経済学者 浜田 和幸

フェイクニュースで 非難を浴びたマイニング

 そうした背景もあり、ビットコインやその普及を支えているブロックチェーン技術で世界をリードする中国企業が、相次いでイランに拠点を構えることになった。「イラン中国共同商工会議所」が音頭を取り、中国のマイニング業者の呼び込みに熱心に取り組んできた。イラン経済にとって、原油に代わる新たな収入源になると好意的に受け止められ、気温の低い高原地帯の地方都市がこぞって誘致に動いた。多くのコンピューターが大量の熱を出すため、冷却にも電気が必要となる。寒冷地の方が電気遣用の効率が良いというわけだ。 

 しかし、「好事魔多し」ではないが、思わぬ問題が発生してしまった。イラン各地で電力不足が発生し、テヘランなど主要大都市で停電が頻発するようになったのである。その原因として名指しで批判を浴びるようになったのが、ビットコインのマイニング業者にほかならない。 

 実際には、マイニング業者が使用する電気量はそれほど大きくない。政府の発表によれば、イランの総発電量の2%程度がマイニングに使用されているという。そうであれば、ためにする批判との側面が大きいのだが、ネット利用者の多いイランでは、1種の「フェイクニュース」が瞬く間に拡散することになった。 

 そのため、中国をはじめトルコ、ロシア、ウクライナなど外国からイランに乗り込んできたマイニング業者が目の敵にされてしまい、非難の嵐を前にして、イラン政府も介入せざるを得なくなったようだ。結果的に、多くのマイニング業者への送電が中断され、使用していたコンピューターが没収されることになった。今年1月だけでも、マイニング業者の1,620カ所の施設に閉鎖命令が出された。そのうえで、4万5,000台のコンピューターが没収されたという。 

 実際には、イランにおける電力不足の真の原因はコロナ禍であった。感染を防止するため、外出制限が幅広く施行され、自宅で過ごす時間が急増したわけだ。しかも、今年の冬は異常な寒波のせいで、暖房器具がフル稼働になったことも電力不足に拍車をかけたようである。例年の同時期と比べ、電力需要は10%近く増加したことからも想像に難くない。 

 さらに追い打ちをかけたのが、公害の拡大という環境問題である。急激な電力需要に対応するために品質の劣る天然ガスを大量に燃やしたことから、排気ガスが大量に発生し、昼間でも空が曇るという異常事態に襲われてしまった。問題は、そうした状態をもたらした原因が「海外からやってきたビットコインのマイニング業者の仕業に違いない」との噂が、ネット上で拡散したことである。

中国はイランを試金石に

 イラン政府はこの機会に、マイニングの許認可制度を強化する決定を下した。というのも、悪徳業者も混じっていたため、政府公認の業者に絞ることで根拠のないビットコインやマイニングの悪評を排除しようとの考えのようだ。中国がもっとも力を入れている分野でもあるため、イランとしては経済支援を受けている立場上、中国企業にとって不利益となる事態は極力避けようとしているようにも見える。 

 世界のビットコイン市場の7割近くを押さえているのが中国であることから、当然の配慮であろう。将来的には「ペトロ・ダラー」に代わる「デジタル人民元」構想を実現するためにも、中国はイランを試金石として、現代版シルクロード計画「一帯一路」を仮想空間にも広げようとしている。 

 これではますます、アメリカとのデジタル覇権争いは激化する一方であろう。日本も「デジタル社会への移行を目指す」とかけ声だけは勇ましいが、どこまで米中の覇権争いの狭間で独自の活路を見出せるのか。本腰を入れて取り組まなければ、米中の後塵を拝するだけであり、かつての「円の国際化」での失敗を繰り返すことになりかねない。 

(了)

<プロフィール>
浜田 和幸(はまだ・かずゆき)

 国際未来科学研究所主宰。国際政治経済学者。東京外国語大学中国科卒。米ジョージ・ワシントン大学政治学博士。新日本製鐵、米戦略国際問題研究所、米議会調査局などを経て、現職。2010年7月、参議院議員選挙・鳥取選挙区で初当選をはたした。11年6月、自民党を離党し無所属で総務大臣政務官に就任し、震災復興に尽力。外務大臣政務官、東日本大震災復興対策本部員も務めた。最新刊は19年10月に出版された『未来の大国:2030年、世界地図が塗り替わる』(祥伝社新書)。2100年までの未来年表も組み込まれており、大きな話題となっている。

(中)

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