JT、あるいは「列強」の迷夢(3)
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ライター 黒川 晶
「物いう株主」にカモられる〜高配当戦略
日本たばこ産業(JT)はまた、その株主利益最優先の方針においても、「カモ」にされたふしがある。JTはM&Aに励むかたわら、株価上昇というかたちでのみならず配当を弾むことで株主に報い、投資を呼び込んできた。2005年に1株16円相当だった配当金は、連続増配で19年には154円に。なかでも11年(34円)から16年(118円)にかけての伸びは驚異的であるが、その過程で株主構成に占める外国人法人比率も高まっていったという事実は注目に値する。
JTの有価証券報告書に記載された「投資主体別の株式保有割合」をたどってみると、01年に1割ほどだった外国人株主は、まず05年に23.7%と急激に上昇。その後、27%前後で推移したのち、アベノミクス開始後の13年に筆頭株主の財務省と並ぶ3割超となった。14年3月期には35.1%にも上っている。そして、そのなかには、英「ザ・チルドレンズ・インベストメント・ファンド(TCI)」のようなアクティビストファンド=「物いう株主」がいた。
電源開発(J-POWER)株を大量に買い漁って会社に増配を激しく迫り、08年に外為法で買い増しの中止命令を食らった「前科」をもつこの外資ファンドが、今度はJTに狙いを定めて同じような振る舞いに出た件を覚えている読者もおられよう。複数のファンドを通じてJTの株式を大量に取得、10年に上位株主となるや(一時は2%近くを保有していたといわれる)、JTの筆頭株主である財務省に書面で社長交代を要求した(11年)。12年からは4度にわたり、総会で大幅増配や自社株買いの株主提案を突きつけた。
TCIの要求は株主総会で否決されたが、13年から15年にかけてのJTの動きはTCIの要求とほぼ一致するという。当時の『週刊実話』はJT幹部がTCI幹部と「密かに接触している」という「JTウォッチャー」の談を紹介しつつ、何らかの裏取引があったことを匂わせているが、いずれにせよJTは結果的にTCIに屈して増配を重ね、08年に19%ほどだった配当性向(当期純利益のうち株主配当に回す割合)は14年に50%を超えた。株主に多くの利益を還元するために、こうして投資に回すべき資金が減じられたわけだ。11年後半に1,500円程度であった株価が4,800円前後にまで上昇した15年後半、TCIは持ち株をほぼすべて売却し、キャピタルゲインをたっぷりと手に入れてJTから「撤退」していった。
加えて、その間、JTは連結純利益の過去最高を連続更新するなど好業績であったにもかかわらず、大型リストラを断行している。たばこを製造する郡山と浜松の2工場、平塚の葉タバコ加工工場、岡山のフィルター部の印刷工場という4工場を閉鎖。全国の25支店を15支店に減らし、本社勤務社員の2割に当たる1,600人を退職させた。要は、縮小の一途をたどる国内事業で大ナタをふるい、その効果で浮いた資金で「青い目ファンド」を潤したのである。JTはギャラハー買収を準備中の03〜04年にも好業績のなかでの大規模リストラ(12工場閉鎖および全社員の35%削減)を行っているが、グローバル企業としての地位を維持するために、こうして国内の市場と事業との縮小再生産ループにはまり込んでいくその様は、列強たらんという迷夢に憑かれるがままに本土の国民の富と命を削り込んでいった軍国主義時代の日本を彷彿させる。
(つづく)
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