【コロナ禍で明暗分かれるラーメン業界(5)】巣ごもり需要で生まれた変化 カップ麺から袋麺へシフト進む
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コロナウイルスの感染拡大は、さまざまな業界に大きな影響をおよぼしている。「ステイホーム」や「テレワーク」「人流抑制」といったコロナ対策は人々に行動変容を求め、結果として外食産業が没落し、内食・中食が一般的なものとなった。こうした変化は内食の代表格である即席麺業界には追い風だ。日清食品ホールディングス(株)と東洋水産(株)を参考に業界の現状を見てみよう。
業界2トップ
日清食品ホールディングス(株)(以下、日清)は1948年、魚介類の加工・販売などを目的に設立。創業者の安藤百福氏は、58年に世界初のインスタントラーメン「チキンラーメン」を開発した稀代のヒットメーカーだった。2008年には持株会社制へ移行し、現在は国内31社、海外41社(有価証券報告書による)で日清グループを形成、業界のトップに君臨する巨人だ。
東洋水産(株)は1953年、冷凍マグロの輸出と国内水産物の取り扱いを目的に設立。冬場向け商品として即席麵の開発に取り組み、61年に同社初の即席麺「マルト印ラーメン味付け」が誕生した。即席麺以外の事業である水産食品、低温食品、加工食品、冷蔵なども手がけ、国内22社、海外10社で東洋水産グループを形成する。
海外戦略が重要な位置に 市場評価は日清に軍配
両社ともに国内即席麺市場を主戦場としながらも、グローバル展開を進めてきた。日清はBRICs(ブラジル・ロシア・インド・中国)、東洋水産は米国・メキシコが重要な販売拠点だ。海外売上の割合は日清が23.5%(アジア・欧州を除く)、東洋水産が22.5%と、両社とも海外戦略が経営戦略上の重要な位置を占めていることがわかる。
広告宣伝費は、売上対比で日清が3.2%、東洋水産が1.0%を充当。日清の人気商品「どん兵衛」で展開したCMは、21年2月度のCM好感度ランキングで8位に入賞した(CM総合研究所調べ)。一方、東洋水産は地域に根差した商品の開発に注力。「赤いきつね」と「緑のたぬき」シリーズだけで、それぞれ東、西、関西、北海道と4種類の異なる味のラインアップをそろえる。
コロナ禍を追い風に、両社とも業績は右肩上がりだ。とくに日清の売上高の伸びは大きく、21年3月期は5,000億円を突破した。財務内容の比較では、東洋水産の堅実さが際立つ。東洋水産は流動比率など静態比率で日清を上回り、現預金保有率も高い。借入金も少なく安定性でも勝るものの、一方で堅実性は保守性の表れとも読み取れる。
資本に対しどれだけの利益を生み出しているかを計るROA値は、19~21年で、日清が2.68ポイント増の6.15%、東洋水産が2.09ポイント増の6.82%で、いずれも上昇。株主の投資額に比してどれだけ効率的に利益を獲得したかを計るROE値は、19~21年で、日清が5.89ポイント増の11.47%、東洋水産が2.71ポイント増の9.11%だった。こうした数値が評価されてか、株式時価総額(6月15日時点)は東洋水産が4,000億円台であるのに対して、日清は8,000億円台と突き放す。
行動変容と社会変容
九州で数十店舗を運営する小売チェーンによると、即席麺全体で売上高は増加しているものの、カップ麺売上高は減少傾向にあるという。当小売チェーンにおける日清、東洋水産からのカップ麺の21年3月期仕入額は、それぞれ前期比7.7%減、7.5%減とどちらも減少した。カップ麺と袋麺の売上高前年比は、19年4月ではカップ麺が106%、袋麺が98%だったが、1回目の緊急事態宣言が発出された20年4月はカップ麺が90%、袋麺が126%と逆転している。逆転現象の背景にあるとみられるのが、政府が主導したテレワーク推進だ。職場でカップ麺を食べる機会が減ったことに加え、調理が簡単で安価な袋麺が好まれたことなどが考えられる。
即席麺業界の需要は今後大きく落ち込むことはないだろう。ただし、今後は意外なところから競争相手が生まれる可能性もある。「フードテック」と呼ばれる食品開発テクノロジーが猛烈なスピードで変化しており、代替肉や植物由来のマヨネーズ、牛乳など、健康志向と相まって海外で急拡大中だ。中期的にはこうした環境変化に対応していく力が、両社の行く末を決めていくことになるだろう。
【立野 夏海】
<COMPANY INFORMATION>
日清食品ホールディングス(株)
代 表:安藤 宏基
所在地:東京都新宿区新宿6-28-1
設 立:1948年9月
資本金:251億2,200万円
売上収益:(21/3連結)5,061億700万円東洋水産(株)
代 表:今村 将也
所在地:東京都港区港南2-13-40
設 立:1953年3月
資本金:189億6,900万円
売上高:(21/3連結)4,175億1,100万円関連キーワード
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