TSMCの進出で熊本空港アクセス鉄道計画や「大空港構想」見直しへ(前)
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世界大手の半導体メーカー「台湾積体電路製造」(TSMC)が11月、熊本県菊陽町への進出を表明。政府は、同社への工場建設補助金など約6,000億円を盛り込んだ21年度補正予算案を編成し20日成立した。
これに呼応して、熊本県は工場進出地近くのJR豊肥線と熊本空港とを結ぶ「空港アクセス鉄道」の建設計画や、一帯を含む熊本都市圏東部地域の将来像を描く「大空港構想」の見直しに着手した。TSMCとソニー・セミコンダクタ・ソリューションズ(SSS、神奈川県厚木市)は11月9日、子会社「ジャパン・アドバンスド・セミコンダクター・マニュファクチャリング」(JASM)を熊本県に設立、SSSがJASMに資本参加すると発表した。菊陽町の第二原水団地21.3haに自動車や家電などに使うロジック半導体の量産工場を22年度に着工、24年末までに生産を開始する。工場建設に政府の補助金4,000億円を含め総額8,000億円を投じ、1,500人規模の新規雇用を見込む。
これに対し熊本県は7月、鉄道運輸機構に委託していた空港アクセス鉄道の総事業費や需要予測などの調査結果を公表した。鉄道は熊本市街地と空港のアクセス改善が目的で県などが出資する第3セクターが経営する。
計画では、ルートは豊肥線三里木駅(菊陽町)から県民総合運動公園(熊本市)経由で空港を結ぶ延長9km。全区間電化し運動公園に駅を設置。所要時間は熊本駅と空港間で約40分。
概算総事業費は車両費込みで435億円。出資金で20%賄い、残る80%のうち国、県が各18%補助、残りは長期借入金。ただ開業後の豊肥線の増益額の一部を総事業費の3分の1を上限にJR九州が拠出することで県と合意している。
工期は8年。開業は29年度。空港を経営する熊本国際空港(株)が予測する51年度旅客622万人(18年度実績346万人)を前提に1日平均利用者5,000人、片道運賃420円と仮定した結果、開業後40年以内の累積資金収支の黒字化は見込めないとした。
その一方で国と県の補助率を各3分の1に引き上げ、他の条件が同一なら開業33年後の黒字化が見込めるという。ただ国の補助率引き上げの見通しが立たず計画は宙に浮いた。
ところがTSMCの進出表明以降、JASMの設立、補正予算の成立、工場周辺インフラの整備などが次々に進む。熊本県側でも蒲島郁夫知事が「空港アクセス鉄道は新たな違うステージに入った」と判断。豊肥線の分岐駅を三里木駅とするルートを事実上白紙に戻し、工場に最も近い原水駅(菊陽町)と電化区間終点の肥後大津駅(大津町)から分岐する2ルートを追加、総事業費や採算性などを比較する調査に着手する考えを明らかにした。
調査は鉄道運輸機構に委託するが、追加調査で有力案に浮上するとみられるのが肥後大津駅からの分岐ルート。観光地の南阿蘇を走る3セク鉄道の南阿蘇鉄道(高森町-南阿蘇村、17.7km)が23年夏に肥後大津駅まで乗り入れる予定で、総事業費も三里木駅分岐ルートより100億円程削減可能という。
今月14日に開かれた12月県議会の特別委員会。推進、慎重両論が飛び交う中、高橋太朗企画振興部長は「22年中に必ず調査結果を報告する」と答弁した。
同県の企画振興部長は財務省の派遣ポスト。JR九州の拠出金を引き出したのは、高橋氏の前任だった。高橋氏は昨年7月、理財局政策調整室長から赴任しており、国交省との協議が“腕の見せどころ゛になる。
(つづく)
【南里 秀之】
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