【視点】最低賃金とロボット化のはざまで ビルメン業転換期(前)
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(株)朝日ビルメンテナンス
ビルメンテナンス業界は、従来業務である建物の清掃管理業務を中心に、今では建物の保全・管理に関する業務全般にまで領域を広げている。建物を使用するテナントや企業が滞りなく事業を行うためには、設備管理、建物・設備保全、警備防災など想像以上に細やかな保全業務が必要で、コロナ禍においてはとくに衛生管理が重視されるため、ニーズも高まっている。
ビルメン業平均売上は約16億円
国内ビルメンテナンス業界の平均売上高は2018年度が約15億円、19年度が約15億8,000万円で、成長率は5.3%(第51回実態調査報告書より)。17年度→18年度の成長率2.7%からほぼ倍増したものの、20年度の売上高見通しは、全体では「昨年度をやや下回る」が36.3%で最多。次いで、「横ばい」が25.7%、「昨年度を大きく下回る」が18.0%となった。
業界が抱える慢性的課題として常に上位に挙げられるのが、人手不足問題だ。現業作業員の不足は他業界でも同様だが、ビルメンテナンス業においてはより深刻で、(公社)全国ビルメンテナンス協会(以下、全国協会)が実施している調査では直近8回連続で「現場従業員が集まりにくい」が最も深刻な課題としてトップになっている。
30~50歳の常勤従業員の中途採用時の平均賃金は上昇傾向に転じており、平均月給は一般清掃で約19.2万円、設備管理で約23.3万円、警備で約19.2万円。20年度に昇給を実施した企業は37.0%と、前回調査の46.8%から9.8ポイント減。コロナ禍の業績不振などを背景として人材不足感は軟化傾向がうかがえるという分析もある一方、賃金が上昇傾向にあるなかでコロナ禍の業績見通しは厳しく、賃上げに慎重な姿勢を示す事業者が増加している状況にある。
SDGsでビルの付加価値を向上させる
JR博多駅前、朝日新聞福岡本部など朝日新聞社系列の企業が複数入る「朝日ビル」内に、(株)朝日ビルメンテナンスは本社を置く。現代表である金子誠氏(69歳)の父親である金子肇氏が1950年に創業した金子商会を前身とする「朝日」系列から独立した企業だ。
同社は福岡県におけるビルメンテナンス業界のリーダー的存在としても知られ、金子代表は業界団体である(公社)福岡県ビルメンテナンス協会の会長を歴任したほか、全国協会の役員も務める業界の中心人物で、業界のさらなるけん引役として期待する声は大きい。業界の抱える課題を中心に話を聞いた。
──コロナ禍でも業績堅調で、今期売上は18億円に届きそうですね。
金子誠氏(以下、金子) お取引いただいているお客さまのおかげだと思います。顧客に優良企業が多く、そこがベースになっていますので、たいていのことは乗り越えられるような経営になりました。
──福岡市のビルメンテナンス業界では草分け的存在です。
金子 おかげさまで創業72年目を迎えました。創業時は「町の掃除屋さん」的な存在として業を興しましたが、ゼネコンの竹中工務店さんとのご縁があったことで、昭和の高度経済成長期に大きく成長しました。ビルを建てたときに行われる大規模な清掃作業(竣工清掃)があるのですが、その仕事を大量に受注したことで母体が大きくなったのです。その流れで朝日新聞さんとのお付き合いが始まり、パナソニックさんや福岡銀行さん、九州勧業さんなど非常に優良な顧客を得ることができました。いま本社が入っている朝日ビルができるときに地場のビルメンテナンス業として初めて設備管理業務を任せていただく機会を得ましたので、現在はその2本柱で進めています。ほかの付帯業務もありますが、清掃業務と施設管理業の割合はおよそ半分ずつになります。子会社で建設業許可を取っていたのですが、「朝日ビルメンテナンスの名前のほうが大きな仕事を出せる」というビルオーナーさんたちの意向もありまして、本体の方で登録しました。
業界の大きな流れとして、ビルオーナーが「脱炭素」にはっきりと舵を切っている動きがありますので、従来の設備管理と省エネ事業に加えて建設をハイブリッドにして、中小のビルオーナーに対して「丸ごと総合管理」というパッケージで差別化を図り、高品質なサービスを提供できると思います。
──財務内容を見ても、隠れた優良企業という印象があります。顧客を獲得する営業力が強み?
金子 我々の強みは、長い時間をかけて、さらに地べたを這うようにして積み上げてきた「信用」の力だと思います。現場の方たちが真摯に仕事に向き合い、懸命に働くことで会社としての信用をつくってきたという1点に尽き、それこそが最大の付加価値になっているのだと思います。清掃業は最低賃金しばりの業態であることが社会的評価も含めた価値観を包括しているわけですが、そのなかでも当社に入社していただいた以上はハッピーリタイアメントまで勤めていただきたいという先代からの思いがあります。その積み重ねをお客さまが見ていただいたのだと思いますね。
──コロナ禍では消毒作業などの煩雑な業務が増え、大きな影響を受けたのでは?
金子 私たちの仕事も、厚生労働省の分類によるといわゆる「エッセンシャルワーカー」(社会に必要不可欠な労働者)に該当します。医療・介護関係や廃棄物回収などと同様に必要不可欠で、感染したくないから現場に行かないというわけにはいきません。ですから、自分たちのなかからクラスター(大規模感染)を出してしまっては意味がありません。コロナ禍に入ってからは細心の注意を払ってきましたので、それで鍛えられた部分もありますし、社会的認識としても清掃作業は社会に必要不可欠だと、ある程度わかっていただけたのではないかと思います。そういう面ではコロナ禍はプラスの効果もありました。
ただし病院清掃などでは病院から感染情報をいただけなかったこともあり、「やはり末端の仕事なんだ」と現場が感じてしまったのは残念なことでした。当社では医療施設を管理する責任者の資格を設けていますが、それに加えて全国協会では感染予防の資格を新たに設けました。
制度面としては雇用調整助成金という大きな支えをいただけたことは非常にありがたかったですね。もともと業界として慢性的人手不足に悩まされていますが、雇用はそれほど痛むことなく、当社でもコロナ禍を理由とする解雇は1人も出していません。社会から支えていただいたことについては返さなければなりませんので、少しずつ還元していこうと思います。
(つづく)
【データ・マックス編集部】
<COMPANY INFORMATION>
代 表:金子 誠
所在地:福岡市博多区博多駅前2-1-1
設 立:1959年9月
資本金:5,000万円
売上高:(21/3)16億7,261万円法人名
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