2024年12月23日( 月 )

【視点】最低賃金とロボット化のはざまで ビルメン業転換期(後)

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(株)朝日ビルメンテナンス

 ビルメンテナンス業界は、従来業務である建物の清掃管理業務を中心に、今では建物の保全・管理に関する業務全般にまで領域を広げている。建物を使用するテナントや企業が滞りなく事業を行うためには、設備管理、建物・設備保全、警備防災など想像以上に細やかな保全業務が必要で、コロナ禍においてはとくに衛生管理が重視されるため、ニーズも高まっている。

ビルオーナーの資産価値を向上させる

金子 誠 代表
金子 誠 代表

   ──現場では高齢の作業員も多い。

 金子 清掃業務についてはとくにそうですね。高齢者が非常に多く、70歳を超えても現場でみんなを引っ張っている方もいます。非正規の短時間パートという働き方もありますが、昼は清掃で夜は飲食店で働くなど、ダブルワークの方が多いのも実情です。

 残念なことではありますが、業界全体としてはコストを抑えるなかで業を回してきたという実態があります。20年続くデフレ基調のなかで賃金を上げないことが常態化し、それを当たり前だと思ってきました。今後は最低賃金のあるべき上昇にどう取り組むのかを考えなければならず、それが後ろ向きだと経営がきつくなってくるでしょう。

 外国人の働き手も現場では普通の光景で、ビルクリーニング業は特定技能1号の対象となっています。指定にあたっては、厚労省が実数データをきちんと把握したことが大きかったと思います。推定100万人が従事する業界ですが9万人くらい不足するので、そのうち半分を外国人雇用でやろうということで始まりました。これで人材供給が安定すれば、業界としては同質化競争から抜け出すための工夫が必要になりますし、ビルオーナー目線でのベネフィット(利益)を提案しなければなりません。たとえば付加価値としての人材教育が必要になるでしょうし、横並びでみんなが何とか食べていけるという時代は終わる気がしています。

 ──ビルオーナーが求めるものはどう変わっていくのでしょうか。

 金子 まずは、基盤になる考え方としてSDGs(持続可能な開発目標)が避けられなくなるでしょう。SDGsには17の目標がありますが、そのうち5つくらいは我々の業界に関連するものです。水の問題であったり、衛生管理、雇用や就労弱者まで。SDGsの目標は四角く色分けされて表現されますが、これを循環させて実装し、転がしていくために丸く設計し直す必要があります。それを加速させるのがカーボンニュートラル(※)の取り組みです。
(※)温室効果ガスの排出量と吸収量を均衡させること。

 国際的な枠組みのなかで企業はこれまで以上に脱炭素経営を迫られますが、それが現場レベルでローカルのビルサービスとして何ができるのかまで考える必要があります。そうしたサービスをつなげることでビルの潜在的価値を向上させ、ビルオーナーの資産価値を向上させる。これをビルの総合管理と呼んでいますが、これまでは清掃や設備管理の分業を寄せ集めただけで、それが連関したサービスにつながっていませんでした。今後は、こうした個別の業態をどのようにつなげればカーボンニュートラルを実現できるのかという発想になってくるでしょう。

 そういうサービスをパッケージとして提供して、はっきりと顧客ベネフィットをつくるパートナーとしてお付き合いできるのではないか。これは絵空事ではなく、確実にそうなってくると思います。鹿児島の同業者には再生エネルギーに果敢に取り組まれている企業もいらっしゃいますが、一方で我々は清掃業で業務を起こしてきた身として、就労弱者の雇用を支えるという社会的使命もあります。常にそこに立ち返らないと業界全体で勘違いしてしまったら現場に報いられなくなります。

シンギュラリティーを越えて~オールドビルメンの終焉

 ──ミャンマーから技能実習生を受け入れていらっしゃいますね。

 金子 非常に優秀ですよ。外国人労働者の出身国は中国からベトナムにシフトしてきていますが、中国に関してはあと5年もしたら日本人が中国に出稼ぎに行く逆転現象が始まるでしょう。ベトナムも少しトラブルが多くなってきました。ミャンマーはクーデターなどのカントリーリスクがありますが、人柄がとても良く非常に優秀です。採用に当たっては、私が直接現地に足を運んで学校見学なども行っています。

 ──普通の家庭でお掃除ロボットを見ることも珍しくなくなりました。清掃業のロボット化が進み、将来的には「人が不要」という時代も来るのでしょうか。

 金子 むしろ役割分担が進むと思います。自走型掃除ロボットやAIを搭載していない自立型清掃ロボットは大規模施設やビルの夜間清掃での運用が考えられますが、トイレ清掃など細やかな作業が必要になる部分については人手をかけることで付加価値をつくっていく。そのほかにも、たとえば介護従事者が腰につけるパワーアシストのようなかたちで労務を軽くするロボットなどは積極的に取り入れるべきだと思います。

 実際の現場では清掃事業者が清掃ロボットを導入するよりも、ビルオーナーが清掃ロボットを購入して業者に貸し出し、その分のコストをカットするということが多いですね。ほかにも、たとえばビルの照明器具のLED化が進んでいます。これまで照明器具の交換はビル管理の重要な業務でしたが、LEDの寿命は長いのでその業務がほぼなくなることになります。オーナー目線や地球環境のことを考えればLED化は当然の流れでしょうが、業界としてはジレンマもある。ただし、そうした業界事情を越えてお客さま目線に立たないと業者として選ばれるはずがないので、新たな価値の創造について社内で議論を進めています。

 ──業界の課題は?

 金子 最低賃金を上げなければならないでしょうね。東京の実質賃金は時給1,500円ですが、鹿児島なら800円にも届かない。そうなったときに地方で働く外国人がいるのかということですね。

 ビルメンテナンス業が産業化して60年経ちますが、社会的雇用を支えていく産業という認識が行政にもあったので助成金などで何とか業界自体が伸びてきました。いまはちょうど業界の転換点だと思っていて、たとえば2045年に到来するとされるシンギュラリティー(技術的特異点)が来れば単純労働がなくなる可能性もあり、ビルメンテナンスの主体業務も変わってくるでしょう。そうなるとあと20年で「オールドビルメン」の時代は終わることになります。それまでに我々の仕事をどう組み変えるのか。

 たとえば水道料金の検針作業を日本では人手に頼っていますが、パリなどでは自動検針のスマートメーターに置き換わっています。こうしたことは全体としての効率化になりますが、もし水道検針の現場で汗をかく方のために仕事を温存していくという決定をすれば、「それなら、あなたたちには頼まない」となる可能性もあり、そもそも仕事がなくなる覚悟もしなければなりません。ロボット化にしてもAI化にしても、そこから逆算して考える必要があると思いますし、いまは業界が存続していけるかどうかの分水嶺にあると思います。

(了)

【データ・マックス編集部】


<COMPANY INFORMATION>
代 表:金子 誠
所在地:福岡市博多区博多駅前2-1-1
設 立:1959年9月
資本金:5,000万円
売上高:(21/3)16億7,261万円

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