アフターコロナ・インバウンド再開で観光業はどう変わるか(後)
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(株)ホテルオークラ
福岡相談役 水嶋 修三 氏
(株)西日本日中旅行社
代表取締役 治田 敏 氏コロナ禍の影響で長らくストップしていたインバウンドが、ついに再開した。10月11日、政府は観光目的の個人旅行による入国を再開することを決定。1日当たりの入国者数上限も撤廃され、いよいよ外国人観光客が戻ってくる。10月19日に日本政府観光局(JNTO)が発表した9月の訪日外国人数は20万6,500人。コロナ禍以前の2019年9月は227万3,000人だったことと比較すればまだまだ少ないが、福岡の市街地でも外国人観光客の姿を見る機会も増えてきた。
この現状をどう見るのか。また、今後の観光業界はどう変わっていくのか。長年福岡の観光・旅行業界に携わってきた(株)ホテルオークラ福岡相談役・水嶋修三氏、(株)西日本日中旅行社代表取締役・治田敏氏にお話をうかがいながら、今後の展望を紐解いていく。
転換点を迎えた日本の旅行業界
──今後の観光業界は、どう変わっていくでしょうか。
水嶋 旅行代理店という業種は、大きな転換点を迎えていると思います。修学旅行など、大口の団体旅行は残る。しかし、一般の個人旅行を取り扱う部門はどんどん縮小していくでしょう。旅行代理店の部署でいえば、法人営業の部門は残ります。法人営業は、官庁、民間企業、各種団体などが行う研修旅行に加え、展示会やコンベンションなどのイベント開催、地方自治体が行う地域マーケティングや観光客誘致施策など、一般的な旅行代理店のイメージとは違う仕事も含みます。それこそ、自治体から委託を受けて新型コロナウイルスワクチン接種の事務局運営をする、という仕事もある。
──なるほど。旅行代理店は、旅行以外の事業も展開しているんですね。
水嶋 ただ、一般のお客様向けの窓口営業は、この先難しくなっていきます。かつて、「旅行に行こう」と思い立ったお客さまは、まず旅行会社の窓口に行って相談し、旅行代理店社員のアドバイスを受けて旅程を決め、交通手段や宿泊などを手配してもらって、旅行に出かけるという仕組みでした。ですが、今や個人で旅行に行こうという方は、チケットや宿の予約はインターネットを通じてお客様自身が行う、というやり方がほとんどになりました。
大手ホテルに入っている旅行サロンのような、高所得者層向けの窓口は別ですね。顧客の好みを把握した担当者がオーダーメイドで旅行をプロデュースする、そういう業態は残ります。「お客さまは大自然のロケーションがお好きでしたね。前回は北海道、その前は信州にお出かけでしたから、今回は富山から立山黒部アルペンルートをめぐる旅はいかがですか?」という具合に、顧客のかゆいところに手が届くようなサービスを提供するスタイルです。
──デパートでいえば、店頭の販売フロアはなくなっていくけれど、外商部門は残る、というイメージですね。
水嶋 そうですね、しかしこれはあくまでも特殊なかたちです。一般のお客さまが旅行代理店の窓口で旅行の手配をする、という入り口は、限りなく少なくなっていくでしょう。
観光業の未来は、インバウンドだけではない
──外国人観光客を呼び込むインバウンドと、日本人が海外に出ていくアウトバウンドとでは、もともと規模が大きく違いましたよね。
治田 比較にならなかったですね。もちろん、日本人の海外旅行のほうが圧倒的に大きな市場だった。2014年9月に訪日外国人旅行者数が日本人出国者数を上回ったが、これは1970年以来40年ぶりのことでしたから。
──旅行収支(※)で見ても、1990年代は3兆円台の赤字が続き、ようやく黒字に転換したのが2015年のこと。当然、日本の旅行代理店も日本人の海外旅行をターゲットにしてきました。
治田 だから、これまではインバウンド顧客は現地系の日本法人が扱うことが多かった。韓国人観光客であれば韓国系の会社、中国なら中国系の会社が扱っていました。アウトバウンドに比べれば数が少ないし、日本の大手旅行代理店からすると扱うメリットが少なかった。
水嶋 今後も、日本人の国内旅行は堅調に推移するでしょう。ですが、「旅行」という行動が持つ意味が変わってくると思います。宿泊先にしても、一昔前のように大きな鉄筋コンクリート造の旅館ではなくて、昔ながらの風情のある旅館が求められる。つまり、かつて団体旅行でにぎわった人気温泉地がさびれていく一方で、小ぶりな旅館が復権していく。旅行先に求める魅力とはどういうものか、考え直す必要がありますね。
治田 インバウンドという言葉の定義を、もう一度考え直した方がいいかもしれません。インバウンドとは、本来は「外から内に入ってくる」という意味。「外国人が日本に来ること」だけがインバウンドではなくて、たとえば北海道や東北に住んでいる人が福岡に来ることだってインバウンドになるし、福岡から東京や大阪に旅行するのはアウトバウンドでしょう。「インバウンドを推進する」なら、相手は外国人だけじゃないはずです。
水嶋 そうですね。そこをちゃんと考えて、我々旅行業界と地元の自治体や地元企業がしっかり手を結び、地域の魅力をもっと磨いていく。観光地としての魅力があるのは、東京~富士山~京都をめぐる、いわゆるゴールデンルートだけではありません。日本全国津々浦々に、その土地ならではの魅力がある。それを掘り起こしていくことが、観光業界の未来につながっていくのではないでしょうか。
※旅行収支:日本人旅行者による海外での消費を支出、訪日外国人旅行者が日本で行う消費を収入として、収入から支出を引いたもの。 ^
(了)
【文・構成:深水 央】
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