2024年11月24日( 日 )

久々の受注増にも喜べない韓国造船業界(後)

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日韓ビジネスコンサルタント
劉 明鎬 氏

韓国造船業が抱えている懸念材料は

    受注が増加することは嬉しいニュースだが、中国の追い上げだけでなく、水面下で韓国の造船業が抱えているいくつかの課題もある。まず、韓国造船3社が競合しており、とくに中国企業の低価格攻勢をかわすため、韓国企業も受注価格を下げざるを得ないという現状がある。黒字を計上しているのは3社のうち韓国造船海洋(現代重工業グループ)だけで、大宇造船海洋やサムスン重工業は赤字状態である。長期不況による低価受注がまだ尾を引いている。

 2つ目は中国の追い上げが尋常ではない点である。昨年韓国は世界のLNGタンカー発注170隻のうち、69%に当たる118隻を受注した。問題は数年前まで一桁であった中国の市場占有率が30%近くなったことだ。2021年には7.8%に過ぎなかった市場占有率は1年で4倍近く跳ね上がった。その反面韓国のシェアは92.2%から67.9%に落としている。

 LNGタンカーは受注から引き渡しまでだいたい3年程度かかるが、韓国のドックは26年の建造分まで予約が入っていて、納期を優先するバイヤーは、中国の造船会社に発注し、このような現象が起きていると分析する専門家もいる。しかし、中国造船業は中国政府の主導でLNGタンカーの研究開発に力を入れており、建造経験をベースに中国も技術を蓄積していく可能性がある。中国企業は中国政府の金融支援をバックに低価格攻勢にも積極的である。

 最後に韓国造船業界が抱えている構造的な問題である。造船産業は元受け(大手造船会社)、下請会社、孫請け会社などのように垂直構造をしている。契約、設計、監督などの仕事は、大手造船会社でやるが、その他の仕事はほとんど低賃金で雇われている下請会社が請け負うことになる。

 船舶の寿命は10年くらいで、造船産業には、どうしても好況と不況のサイクルがある。不況が訪れると、不況を乗り越えるため、大手造船会社は固定費を削減するため、自分で抱えている人員は減らし、下請会社などを活用する。それで現在のような垂直構造が出来上がった。ところが、造船不況が長期化したため、下請会社も耐え切れず、倒産したり、人員を減らしていて、その結果、現在は仕事があっても労働者を確保するのも難しくなっている。

 一方ではサプライチェーンの崩壊で原材料価格が高騰し、造船会社の利益を圧迫している。大宇造船海洋の場合、21年に売上高は4兆4,866億ウォンであったが、当期赤字額は1兆7,000億ウォンであった。累積赤字は7兆7,000億ウォンに上り、収益構造が脆弱である。

今後造船産業が目指すべき方法は

 国際海事機関(IMO)は対08年比で、30年までに平均燃費を40%低減し、温室ガスの総排出量は50年までに50%削減するという目標を掲げている。このような流れを受けて、韓国の造船会社も今後は、環境に優しいスマート船舶の技術開発に積極的に投資し、LNGタンカーの次の船舶といわれている水素燃料や電気で航行する船舶を開発する必要があるだろう。韓国政府も30年までに炭素排出ゼロの船舶を商用化しようとしている。これに先立ち26年までに、乗組員なしで遠隔制御で航行が可能な自律航行船舶の商用化を急いでいる。

 韓国の造船産業は中国にこのまま市場を奪われていくのか、それとも技術格差を広げてシェアを維持していくのか、激しい攻防戦が繰り広げられることが予想される。

(了)

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