2024年11月03日( 日 )

SCの経年陳腐化とリニューアル~キャナル・イーストビル解体によせて(前)

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縮小均衡から衰退へ?

 2021年に建設された全国のショッピングセンター(SC)数が、それまで最少だった東日本大震災の翌年の35カ所を下回る24カ所となり、2008年以降で最低を記録した。大きな原因は適正立地の減少だ。小売事業の成否は立地でほぼ決まる。どんな業態でも立地が悪ければその結果は失敗ということになる。そこに手法の入り込む余地はない。立地が良ければ平凡なリーダーでも成功するが、立地が悪いといかに秀逸なリーダーでも成功は遠い。

 好立地の消失を言い換えると、オーバーストアだ。その典型を、アメリカのSC競争に見ることができる。

 1970年代に日本の大型小売店が大挙して見学に訪れたのはKマートやシアーズといった単独の大型店だったが、80年代になると視察先がSCに変わった。ゲームのルールが変わったのだ。新しいルールに従って、彼らもSCにキーテナントとして参加した。

 すでに成熟した車社会だったアメリカでは都市間高速道路のインターチェンジ周辺を中心に住宅地が開発され、それを見込んだ大型SCの出店が進んだ。そんなSCは商業的収益だけでなく、投資不動産としても売買されたため、全米各地に多数の大小SCが現れた。

 その数は、今や全米で4万7,000カ所を超える。日本の15倍だ。そんなSCが今、危機を迎えている。2007年ごろまで5%前後だったSCの空き室率が、この15年は8~9%台と高止まりしているのだ。とくにNSCといわれる中型の主力SCのそれは、10%を超える。オンラインショッピングの普及や大手専門店チェーンの経営不振で、毎年5,000~6,000店を超えるテナントがSCから撤退する現実を見れば、空き室率の改善はもはや望み薄だ。

 とくに大型専門店や百貨店などのキーテナントが抜けると、その部分を埋める後継テナントが見つからない。閉鎖部分はシートや壁で区切られ、SCの魅力は半減する。そんなイメージ低下とそれによる収益悪化で、この数年間で4,000カ所を超えるSCが閉鎖に追い込まれている。そして、そのいくつかは再利用されることもなく、デッドモールという廃墟に変わる。

対岸の火事が川を渡る?

 日本のSCにも似たような現象が現れ始めている。埋まらない空きテナントコーナーの出現だ。とくに問題なのは、それが郊外型で頻発する事態に至ることだ。

 都心の場合なら、異業態による引き継ぎや施設の再利用としてマンションやオフィスビルに建て替えるという方法もあるが、郊外型だとそんな代替えはきかない。考えられるのはせいぜい配送センターとしての機能の付加程度だ。もちろん、それも抜本的な解決策にはならない。

 ザ・モールからアクロスモールに名前を変えた、春日市のザ・モールなどはその典型だ。ウォルマートに代わった楽天グループとデベロッパーが期間をかけて改造を施したが、結果として訪れる買い物客に新たな創造と感動を提供することはできなかった。改装で施設の外観イメージこそ大きく変わったが、店内は新旧の売り場と配送コーナーが併存し、ある種の殺伐とした荒涼感すら漂う。そんな売り場に、遠方からわざわざ足を運んでくるような魅力はない。新たな試みがお客のニーズとずれているからだ。では新たな試みとは何かというと、常識を外れた驚きだ。だが、従来型の発想でそれをつくり出すのは不可能だ。

 たとえばキャナルシティ博多だ。1996年、キャナルは常識の裏を行く斬新な発想と規模で、必ずしも好立地とはいえない場所に開業し、事前の低評価を一蹴する立地創造をはたした。その後はインバウンドの効果もあり、キャナルは福岡市のSC界でそれなりのポジションを確保し続けた。

キャナルシティ博多 イメージ    しかしそのキャナルも、いまや施設全体の視的老朽化はぬぐいようがない。小さなニューアルを重ねてはいるが、建物自体が古くなると、部分的な改修や改装を重ねてもそのイメージを一新するのは難しい。

 一方で、キャナルには福岡市の中心街にあるというメリットもある。福岡市は九州で数少ない人口増を続ける都市で、県内外の企業の営業拠点が集中する地域だ。福岡市の試算によると今後10年間は人口増が続くというから、そこには小売以外にも住宅やオフィスなどの需要がある。

 キャナルの場合、小売以外の付加価値が検討できる都心型SCだから、トリアスのようなルーラル型や旧ザ・モールのような準アーバン型SCに比べると、転換手法に幅をもたせることができるだけ有利だ。これも、ある種の立地の優位性といえる。

 しかし、そこには違った問題もある。まずはエリア内の競合激化だ。天神ビッグバンに見られるように、天神・博多エリアは再開発が目白押しとなっており、新次元の競合が発生する。もともと競争が激しい都心型SCは、競争を生き抜くために店舗刷新の頻度が高い。それに乗り遅れるとラインアップの陳腐化が亢進する。小型専門店の導入が思うようにできない問題に対する解決策の1つ、有力な大型テナントの導入にしても同じだ。

 いま、SCに出店できる大型小売業は限られている。ユニクロやニトリ、MUJI(無印良品)といったところだろう。しかしユニクロやニトリはロードサイドに単独で出店してきたから、すでに消費者の目に馴染んだブランドだ。お客に対して、利便性以外のインパクトは小さい。SCにとっては賃料の優位性も期待できないだろう。今後、キャナルやイオンのショッパーズ型が、どんな発想と手法で新たなSCのかたちを生み出すかが問われている。

(つづく)

【神戸 彲】

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(後)

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