JR東海のドン・葛西名誉会長が遺した「負の遺産」(後)
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JR東海(東海旅客鉄道)の金子慎社長(67)の後任に4月1日付で丹羽俊介副社長(57)が就任する。丹羽氏は1989年の入社、87年の旧国鉄分割民営化後の入社組が社長に就任するのは本州3社で初めて。目標とする2027年の開業が困難な情勢にあるリニア中央新幹線の建設推進に取り組むことになる。リニア中央新幹線は「JR東海のドン」として君臨した(故)葛西敬之・名誉会長が遺した「負の遺産」である。
政府がリニア中央新幹線に3兆円融資
葛西氏が「政商」として手腕を発揮したのは、リニア中央新幹線だ。葛西氏は2015年10月に日本経済新聞に『私の履歴書』を連載。リニア中央新幹線について1章をあてている。
「東海道新幹線の旅客から得た収入は、リニア中央新幹線を通じて将来の旅客に還元されるべきだ。これが07年に中央新幹線の東京-名古屋間を自己負担で建設する決断をした大義である。(中略)14年10月、東海道新幹線が50年を迎えたその時に工事実施計画の認可を受け、次なる50年の飛躍を発進した」総事業費9兆円。JR東海は当初「自己資金で建設する」としていたが、工事が遅れ、資金が足りなくなった。
助け舟を出したのが「盟友」の安倍首相だった。安倍首相は16年6月1日の記者会見で、リニア中央新幹線の名古屋から大阪間の延伸を従来の2045年から前倒しして、財政面で支援すると表明した。財政支援として3兆円融資する。
JR東海のリニア計画では、27年に東京(品川)-名古屋間の路線を開業、大阪までの延伸区間は45年に完成する。総工事費は東京-名古屋間で5兆5,000億円、東京-大阪までの全線で9兆円を見込む。
長期債務残高を適性水準と見込む5兆円以内にとどめるため、JR東海は東京-名古屋間の開通8年間は大阪延伸に着工せず、経営体力が回復した後の35年に着工する計画だった。政府の3兆円支援によって、最速で37年の開業を目指すことになる。
政府の融資は「アベ友優遇」と批判
安倍氏がリニアに白羽を立てたのは、アベノミスクの象徴になる投資先を探していた政府、選挙公約の目玉が欲しい自民党、リニアの大阪までの早期開業を主張していた関西政財界といろいろ条件がそろった結果であったが、葛西氏と安倍氏の関係は衆知の事実で、“アベ友優遇”と非難された。
安倍政権は、日本の成長戦略として、社会インフラの輸出を打ち出した。その柱が、JR東海の東海道新幹線の輸出。パッケージ輸出という丸ごとインフラをつくる時から、その後の保守点検までしっかり教えるスタンスが、日本の国益にかなうと安倍首相は考えた。
安倍首相は17年2月、ホワイトハウスで会談した就任間もないトランプ大統領に、リニアを売り込んだ。「日本は新幹線やリニア技術など高い技術力で大統領の成長戦略に貢献できる。新たな雇用を生み出すことができる」。リニアは国策の色合いを一気に強めた。
JR東海も中央官庁も「必ず赤字になる」と腰が引けていた
リニア建設を国策として位置付ける狙いがある半面、JR東海が主導してきた事業に対する国の関与拡大は問題を残した。財務省や総務省は、リニア中央新幹線は国が関与を控える民間事業との見方から慎重論が強かった。
しかも、それだけ公的資金を投入しても、その金を回収できるか甚だ疑問だ。というのも、JR東海の山田佳臣社長(当時)が13年9月の記者会見で、「(リニアは)絶対にペイしない」と公言していたからだ。
リニア新幹線は、JR東海も中央省庁も「必ず赤字になる」と腰が引けていた。にもかかわらず、安倍首相がリニア新幹線を国策に引き上げたのは、ブレーンのJR東海名誉会長・葛西氏がリニア新幹線の計画を主導したからだ。社内の反対を押さえ込みリニア新幹線を立ち上げ、安倍首相との人脈で3兆円の融資を引き出したのだ。
『国商』によれば、
〈入院中の葛西を安倍と国家安全保障局(NSS)長を務めた北村滋がふたりで3度も見舞ったという。葛西は安倍に「国家の行く末を頼む」と話したというが、その安倍も7月8日に凶弾に倒れた〉
品川-名古屋間を40分で結ぶリニア中央新幹線の計画は静岡県内での工事が滞り、米国でもリニア導入を進めるが着工に至っていない。稀代の“政商”葛西氏は、日米でのリニアの完成を見ることなく逝ってしまった。
(了)
【森村 和男】
法人名
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