百貨店解体新書(1)西武池袋本店が百貨店の旗を降ろす日!(前)
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風雲急を告げる。セブン&アイ・ホールディングス(HD)の百貨店子会社そごう・西武(東京)の売却問題は大混迷に陥った。
セブン&アイは3月30日、そごう・西武の売却を再延期すると発表した。これまで「3月中」としてきた譲渡時期については、手続きが完了するまで明らかにしない。
セブン&アイはそごう・西武を米ファンドのフォートレス・インベストメント・グループに売却すると決定。当初、譲渡予定日は今年2月1日だったが、3月中に先送り。さらに、期限未定のまま延期した。売却先の米ファンドが西武池袋本店の低層階に家電量販店大手ヨドバシカメラを出店させる計画をめぐり、地元や地権者が反発。調整がつかなくなったからだ。
「物言う株主」が突き付けた井阪社長らの退任要求
醜態というほかはない迷走に、大株主の米投資会社バリューアクト・キャピタルが、最後通牒をつきつけた。井阪隆一社長ら取締役4人の退任を求める株主提案をセブン&アイ側に送付した。5月の定時株主総会で諮られる。報道各社が3月24日、一斉に報じた。
バリューアクトが提案した取締役選任案のうち、井阪社長と後藤克弘副社長、社外取締役・伊藤邦雄氏(一橋大学大学院経営管理研究科特任教授)と米村敏朗氏(元警視総監)ら4人の現職取締役が含まれておらず、事実上の退任要求だ。可決には株主総会で過半数の賛成が必要となり、委任状争奪戦に発展することになる。
バリューアクトはコンビニの切り離しも求める
バリューアクトは「物言う株主」として知られ、セブン&アイの発行済株式の1.9 %(2023年2月28日現在)を保有する大株主だ。ロイター通信(3月24日付)によると、バリューアクトが井阪社長ら4人の再任に反対したのは「企業戦略の失敗」を理由にしているという。
バリューアクトは1年前の2022年1月25日にセブン&アイに送付した書簡を公開した。社外取締役のみで構成する戦略検討委員会を設置し、部門の売却やスピンオフ(分離・独立)、または第三者との事業統合を検討するよう求めた。
不採算部門である百貨店のそごう・西武と総合スーパーのイトーヨーカ堂を売却して、稼ぎ頭であるセブン-イレブン・ジャパンのコンビニに事業を集中せよ。もしくは、コンビニのグローバル戦略を進めるために、セブン-イレブンを分離して上場させ、上場益でイトーヨーカ堂の再建資金に充てたらいい。そういうことを検討せよと要求した。
だが、セブン&アイが手をつけたのは百貨店の売却のみ。イトーヨーカ堂の売却、セブン-イレブンのスピンオフは梨のつぶて。しかも、そごう・西武の売却は暗礁に乗り上げた。バリューアクトが「企業戦略の失敗」を理由に、井阪社長・後藤副社長と社外取締役2人の退任を要求したわけだ。
海外コンビニが全体の営業収益(売上高)の75%を稼ぐ
バリューアクトの意図を読み解いてみよう。狙いはズバリ、コンビニ事業だ。
セブン&アイの2023年2月期の売上高に相当する連結営業収益は前期比35%増の11兆8,113億円だった。日本の小売業で初めて10兆円を超えた。
海外コンビニエンスストア事業で21年に2兆3,000億円で買収した米石油スタンド併設型コンビニ、スピードウェイの統合効果が出たほか、ガソリン価格の高騰が寄与した。全社の営業利益は31%増の5,065億円だった。
コンビニ事業の営業利益は36%増の5,217億円と全体の営業利益を上回る。とくに業績を牽引した海外コンビニ事業において、営業収益は70%増の8兆8,461億円、営業利益は81%増の2,897億円。全体に占める割合、営業収益では75%、営業利益では57%を占める。セブン&アイは、かねてコンビニ一本足打法と言われてきたが、今や、海外コンビニにオンブにダッコが経営実態だ。
バリューアクトの狙いは、まさに海外コンビニ事業にある。コンビニ事業をスピンアウト(分離・独立)させて、米国市場で上場。バリューアクトはコンビニ会社に投資して、しっかりリターンを得るシナリオだ。
(つづく)
【森村 和男】
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