難航している米債務上限の交渉(後)
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日韓ビジネスコンサルタント
劉 明鎬 氏難航している理由は
コロナパンデミックで景気浮揚のために莫大な財政支出が行われ、2020年の初めから昨年までに増加した政府債務は約8兆ドルを上回るようになった。その結果、米政府の累積債務は31兆ドルを超えるようになった。債務上限の引き上げを行わなければ米国はデフォルトに陥ることになるが、上限引き上げ交渉が難航しているのはなぜか。
昨年の中間選挙で野党共和党が下院で過半数の議席を獲得し、「ねじれ議会」が生じている。すなわち、政府と上院は与党の民主党が、下院は共和党が、各々優位を占める構図となっているのである。とくに下院は、共和党のなかでも強硬派で占められている。そのため、上下両院で債務上限の引き上げを決めるには、両党が歩み寄る必要がある。しかし現状では、歩み寄りの兆しはなかなか見られない。
共和党は、メディケアを始めとする4兆5,000億ドルの歳出削減を交換条件に、債務上限を最大1兆5,000億ドル引き上げる案を、4月26日に下院で可決させた。これに対し、バイデン民主党政権は、条件なしで債務上限を引き上げるよう共和党側に求めている。共和党の狙いが、歳出削減を通じて選挙で有利な状況をつくり上げることにある一方、民主党は予算が削られて景気が悪化すると選挙に勝利できないため、互いに一歩も譲れない状況である。
ただ、6月初旬までに債務上限の引き上げがないと米政府はすぐデフォルトになるかというと、そうではない。財務省はデフォルト回避のための特別措置を講じている。しかし、債権による資金の借り入れができないためにキャッシュだけで対応することになるので、支出の大きい国防などにはどうしても支障が出やすい。
妥結が遅れるほど金融市場に打撃
また、交渉が難航してデフォルトに近づけば近づくほど、2011年のような格付けの下落などが発生する可能性も排除できない。仮にこういうことが発生すれば、米国だけでなく、全世界の金融市場を揺るがす事態になりかねない。
2011年にもS&P500は7月22日から8月8日までなんと16.8%も暴落したし、その後6カ月間市場は回復しなかった。国債金利も2011年4月に3.46%まで暴騰した。株式市場や債権市場とは対照的に、金と米国短期国債は安全資産として急騰した。今回も同じようなことが発生するかもしれない。
しかも、世界で最も信用力が高いとされてきた米国債の格下げは、金融市場に大きな混乱をもたらした。株価は大幅に下落し、消費者心理の悪化もあいまって、経済に悪影響を与えたのである。今回交渉が難航し、米国債の格下げで長期金利が上昇すれば、銀行が保有する債券の含み損が再拡大し、金融不安が再び強まる可能性があるだろう。
この問題は米国にとどまらず、世界の経済、金融市場、金融システムの安定を脅かしかねない大きなリスクであろう。それに、金融市場が不安定な中、米連邦政府が債務上限の引き上げ問題で議会との交渉に難航すれば、米ドルの信認が揺らぐことにもつながる。米中の覇権争いが進行し、中国が米ドルを揺さぶりたいこの状況にあって、デフォルトの可能性が取り沙汰されることそれ自体、米国の信用低下や各国のドル離れを招き、ドルを基軸通貨とする金融システムの弱体化につながるだろう。
インフレ抑制、景気鈍化、銀行破産など、いくつの課題が突きつけられている米国政府だが、債務上限の引き上げを早期に実現し、経済界を覆う不安を払拭すべきだ。債務上限の引き上げがきっかけで米国政府がデフォルトになったことは今まで一度もないので、今回はデフォルトは避けられると思うが、対応の仕方によっては世界経済に大きな波乱が生じることが予想される。
(了)
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