2024年11月21日( 木 )

日本が世界半導体産業ではたすべき役割とは 日本の製造装置のシェア低下が止まらない(前)

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微細加工研究所
所長 湯之上 隆 氏

「日本半導体産業の復活」は間違い

 日本の斜陽産業の代表格だった半導体にスポットライトが当たるようになった。そして、「日本半導体産業が復活する」という世論が盛り上がっている。しかし、筆者はその世論に賛同できないし、そもそも「復活する」という認識自体が間違っている(【図1】)。

 1980年代中旬に、日本が半導体の世界シェア50%を占めていた時代があった。このとき日本は、半導体メモリのDRAMで世界シェア80%を独占していた。つまり、80年代中旬の「世界シェア50%」は、ほぼDRAMによるものだった。

 ところが、90年代に日本のDRAMのシェアは急速に低下し、2000年ごろに、日立製作所とNECの合弁会社エルピーダメモリ1社を残して、日本はDRAMから撤退した。そのエルピーダも12年に経営破綻して、米マイクロン・テクノロジーに買収された。

 DRAMから撤退した日本半導体産業は、演算などを行うロジック半導体に舵を切った。しかし、そのロジック半導体も壊滅的になった。その結果、日本半導体は、斜陽産業となったわけである。

 そのようななかで、21年10月に台湾のファウンドリのTSMCが熊本に進出することを発表した。さらに22年11月に新会社ラピダスが「27年までに2nmのロジック半導体を量産する」と発表するなど、日本半導体業界に大きなニュースが相次いだ。

 そして、「日本半導体産業が復活する」という世論が形成されるに至った。しかし、TSMC熊本工場やラピダスが生産しようとしているのは、1980年代中旬に世界シェア80%を独占したDRAMではなく、過去強かったことがない先端ロジック半導体である。

 従って、現在日本に起きているブームは、「復活」ではなく、「(これまで弱かった)ロジック半導体への新たな挑戦」ということになるだろう。では、その挑戦は成功するのだろうか?

半導体ブーム到来のきっかけ

 20年にコロナの感染が世界に拡大し、21年には世界的に半導体が不足してクルマなどがつくれなくなった。そのため、クルマを国の基幹産業としている日米独の政府は、台湾政府を経由して、TSMCにクルマ用半導体の増産を要請する事態となった。

 半導体が注目されるきっかけはここにあった。20年まで半導体に見向きもしなかった日本政府や経済産業省は態度を一変させた。そして、経産省は、このままいくと30年には、日本半導体産業の世界シェアが0%になると危機感を募らせた。その結果、先端半導体工場の新増設を支援する改正法が21年12月20日に国会で可決し、成立した。その後、改正法に基づいて次々と半導体工場への助成が発表された(【図2】)。

 それでは、この政策で、日本半導体のシェアは向上するだろうか?

日本の半導体産業のシェアは上がるのか

 まず、TSMCにはソニーとデンソーが資本参加する。TSMC熊本工場は、12/16~22/28nmのロジック半導体の受託生産を行う。そして、日本政府が4,670億円を助成する。

 しかし、TSMC熊本工場は日本向けの半導体を優先的につくるわけではない。また、日本には設計を専門に行う半導体メーカーのファブレスがほとんどない。従って、TSMC熊本工場ができても、日本のシェアはあまり上がらない。

 次に、経営破綻したエルピーダメモリを買収した米マイクロン広島工場には、合計2,465億円が助成される。しかし、同工場は米国籍の企業であるため、ここでDRAMを生産しても、日本のシェアへの寄与は厳密に0%である。

 さらに、NANDフラッシュメモリを生産している四日市工場と北上工場を共同運営しているキオクシアと米ウエスタンデジタル(WD)には929億円が助成される。ところが、WDがキオクシアを買収する模様である。この買収が成立すると、四日市工場も北上工場も米国籍になるため、そこで生産されるNANDはすべて米国製となり、日本のシェアへの貢献度は0%になる。

 そして、22年11月に「27年までに2nmのロジック半導体を量産する」と発表したラピダスには、合計3,300億円が助成される。しかし、次に述べるように、ラピダスが2nmのロジック半導体を量産することは不可能である。従って、ラピダスに補助金を投入しても、日本のシェアへの貢献は0%である。 

(つづく) 


<プロフィール>
湯之上 隆
(ゆのがみ・たかし)
1961年生まれ、静岡県出身。ジャーナリスト、コンサルタント。87年京都大学大学院工学研究科修士課程(原子核工学専攻)修了。京都大学工学博士。日立製作所で半導体の微細化に携わる。エルピーダメモリ出向などを経て、2010年、微細加工研究所を設立、CEO兼所長に就任。著書に『日本型モノづくりの敗北――零戦・半導体・テレビ』、『半導体有事』(文春新書)など。

(後)

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