2024年05月19日( 日 )

台湾、ベトナムと連携し、外国人材を活用 人口減少社会での福岡県豊前市のまちづくり(後)

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(株)アクロテリオン
代表取締役 下川 弘 氏

 人口減少が進行する日本。大規模災害や軍事侵攻から自国民を守り切れるのか、はたして、日本という国自体が存在していくのか、想像できうること以上の混乱に見舞われるのではないかとの懸念をもっている。こうしたなか、持続可能な社会をつくるため、外国人材の誘致、活用を図りつつまちづくりを進めている福岡県豊前市の取り組みが注目される。

 サテライトキャンパス誘致構想の概要と特徴は下記の通り。

(1)学生

 それぞれの本国にある大学が、豊前市内に日本校を設立し、豊前市に送り出し、一定期間学習・生活体験をするもので、日本人学生を入学させるものではない。

(2)自国大学のカリキュラムとインターンシップによる総合的教育

 学生は自国大学のカリキュラムを基本とするが、学内授業以外に市内の企業等でインターンシップ(アルバイト)として働き、日本の生活・文化を習得する。

(3)自国大学の履修単位への反映

 授業(カリキュラム)およびインターンシップ(アルバイト)は、日本体験学習として自国大学の履修単位に反映させる。

(4)豊前市内にある既存建築ストックの活用

 豊前市は、市内にある既存建築ストックを校舎・宿泊施設として利活用する。

(5)市民との国際交流の促進

 学生と豊前市内の小・中学生および高校生との交流を積極的に行い、若者の国際交流を促進させる。

(6)豊前市内の祭りやイベントでの地域交流

 学生に積極的に地域のお祭りやイベントに参加してもらい、地域住民とともに豊前市(日本)の文化・生活を体験させる。

(7)元教員による日本語教育

 豊前市在住で日本語指導有資格者の元教員の協力を得て、学生に日本語教育を行う。

(8)インターンシップ(アルバイト)による賃金

 インターンシップ(アルバイト)を受け入れる企業は、豊前市およびサテライトキャンパスと事前に労働条件・賃金等について協議するものとし、福岡県の最低賃金を保証する。

(9)ホストファミリー(ホストタウン)の取り組み

 豊前市在住の住民の協力を得て、まち全体がホストファミリー(ホストタウン)となり「豊前市が自分の第2のふるさと」だと思ってもらえるように、学生たちを見守る環境をつくり、ベトナム・台湾との友好関係を広げていく。

(10)帰国後の自国の発展と豊前市の紹介などに寄与

 学生たちが留学期間を終え、自国に戻った後、日本で学んだことを生かし、自国の発展に寄与する。また、自国で豊前市を紹介し、旅行客を増やすことにも貢献してもらう。

(11)将来の可能性

 再び高度人材などとして、あるいは永住権を取得して、豊前市に家族とともに定住し、働き、人口の流入を促し、豊前市での企業立地に貢献する可能性がある。

誘致に向けた取り組み

 台湾との交流においては、2021年7月に「豊前市と台北駐福岡経済文化弁事処との協定」の締結において、「学生同士の訪問および学生研修・インターンシップを促進することおよび台湾の学校が豊前市で学術拠点を設置するように協力すること」について同意した。

 これにより、66校からなる「中華民国私立科技大学校院協進会」との連携協定も締結され、コロナ開けの今年6月龍華科技大学の学生ら13名が豊前市を訪問し、歴史や文化に触れる研修に取り組んだ。7月初めには明新科技大学の学生ら17名が訪問した。まずは短期滞在ではあったが、着々と「サテライトキャンパス構想」の実現に向けて取り組まれている。

 ベトナムの大学サテライトキャンパス誘致構想については今後、準備・計画が進められる。

● ● ●

 「有事の時代」とは、軍事的な、自然災害的なものだけではない。仮にそうしたものが起こらないとしても、日本が抱える少子高齢化社会、生産年齢人口の激減、地方都市の「過疎化」や「限界集落化」は目の前まで迫ってきている。まさに「有事の時代」ではなかろうか。

 かろうじて人口増加している福岡都市圏でさえ、自然増が見込まれない今、いずれ人口減少の波が襲ってくるであろう。そうしたことを見据え今後優秀な外国人労働者に頼らざるを得ない時代がやってくるのは間違いない。

 1993年に始まった外国人技能実習制度は開発途上国への技能移転という国際貢献目的であったはずが、違法な低賃金での長時間の強制労働や、実習先で暴力を受けるケースなどが後を絶たず、実習生が相談するところもなくて逃亡するしかなく、犯罪に走ってしまうケースも生じていた。そうした実態も踏まえ、政府の有識者会議が今年4月、同制度を廃止することを提唱した。しかし、廃止したところで長時間労働や暴力がなくなるはずはなく、またお金目的の一部の外国人労働者は最低賃金の高い都市部に流れていき、人材を本当に必要とする企業や過疎地には行き渡らないだろう。

 大事なのは、きちんと日本人労働者と同様に受け入れてくれる企業だけでなく、まち全体と行政が連携して外国人労働者を見守り、サポートし、育てることで、自国に帰ってもまたこの場所に戻ってきたくなるような「彼らにとっての第二のふるさと」をつくることではないだろうか。

 豊前市の「サテライトキャンパス構想」は、まさにその「第二のふるさと」でありたいと願い、取り組んでいるところである。地方都市が悩む少子高齢化対策、空き家対策、公共既存ストック活用、新しいかたちのまちづくり、などのヒントになるかもしれない。

(了) 


<プロフィール>
下川 弘
(しもかわ・ひろし)
下川弘 氏1961年11月、福岡県飯塚市出身。熊本大学大学院工学研究科建築学専攻修士課程を修了後、87年4月に(株)間組(現・(株)安藤・間)に入社。建築営業本部やベトナム現地法人のGM、本社土木事業本部・九州支店建築営業部・営業部長などを経て、2021年11月末に退職。(株)アクロテリオン・代表取締役、C&C21研究会・理事、久留米工業大学非常勤講師。

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