経済小説『落日』の面白い読み方
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栄枯盛衰
ディスカウトカウントストア大手トライアルホールデイングス(福岡市東区)が21日、東京証券取引所グロース市場に上場した。初値は公開価格の1,700円を30%上回る2,215円をつけた。会社設立は2015年9月。9年間、一途に上場を目指して快進撃を続けてきた。前期(23年6月期)の売上高は6,531億円で、24年6月期の売上高は7,110億円に達する見込みである。
この会社の特色はITシステムを駆使して組織を拡大してきたことだ。データプラットホーム「MD-LINK」を開発し、データを共有し全体最適を共有しながら全体最適を図るためのオープンイノベーションを実施してきた。このように流通パイオニアの先輩たちとは異質の組織づくりに着手して、飛躍のチャンスをじっくりと待った。
他方で、流通先発の経営者たちは2000年を境にして行き詰っていった。ダイエーが典型的な例である。閉店・倒産が続出する。その空き店舗を居抜きで借り上げていった。それにともなって売上は急増していった。現在、NetIB -Newsで連載している経済小説『落日』に登場する朱雀屋は、ピーク時は九州でトップを走るスーパーマーケットであった。同社の行き詰まりに乗じて各地区にあった店舗を居抜きで借り上げたのもトライアルだ。大規模な栄枯盛衰が進行したのである。
20年前の鮮明な記憶を告知する
20年前、ちょうど九州スーパー(仮称)と朱雀屋との統合話があった(九州スーパーは現在も年商2,000億円規模を誇っている)。筆者は当社流通記者と同社の社長に取材するため会った。「朱雀屋と合併するのですね」と詰め寄った。社長は「確かに合併する意向である」と断じた。ここで嫌な予感を覚えた。同社はオーナー経営ではなく、経営6人衆による共同経営であった。そのため意思疎通を密にし、巧妙に根回ししないと経営方針が流れることが多々あった。
この社長に懸念を伝えた。「朱雀屋との合併に関する秘密の保持は守られているのか?」と迫った。「いや覚書は交わしていない」と明かした。「社長、先方は上場会社ですよ。いろいろな記者会見でコメントを求められます」と伝えた。そのとき、この社長は筆者の意味するところを理解していなかった。「相手は間違いなく信用を繕うために近々、御社との合併話を公にします」と断言した。
この社長の顔は一瞬にして青ざめた。「これは困ったことになった」とため息をついた。まだ経営6人衆との話し合いを十分にしていなかったのである。案の定、この取材日から6日後に朱雀屋は「九州スーパーとの統合話」を公にした。おかげで合併話は藻屑のように消えていった。トライアルの躍進の基盤が出来上がったのである。
この経済小説『落日』が10年前に発刊されたならば、そのインパクトは100倍だったであろう。
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