2024年11月22日( 金 )

人手不足の改善狙い、「担い手3法」が可決成立(1)

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建設途中のある複合用途ビル。
順調に工事が進んでいるようだが、
人手不足に悩んでいるのが内情だ

改正法3つのポイント

 6月7日、「建設業法及び公共工事の入札及び契約の適正化の促進に関する法律の一部を改正する法律」(通称=第三次・担い手3法)が国会で可決・成立した。施行は、2025年度となる見通し。

 建設業の平均年収は417万円で全業種の平均年収(494万円、22年)より15.6%低い一方、年間の平均総労働時間は2,022時間と全業種(1,954時間、同年)より3.5%多い。こうした低賃金および長時間労働という建設業の置かれた状況が、業界における担い手確保をより困難にしてきたことが、法改正の背景にはある。なお、建設業就業者数と全産業に占める割合は、1997年の685万人(10.4%)から22年は479万人(7.1%)にまで減少している。

 国交省では改正法による目標と効果について、24年度から29年度までに全産業を上回る賃金上昇率の達成、29年度までに技能者と技術者の週休2日の割合を原則100%とすることを掲げている。

 以下、改正法の内容について、①労働者の処遇改善、②資材高騰にともなう労務費へのしわ寄せ防止、③働き方改革の推進と生産性の向上という、3つのポイントに沿って確認していこう。

違反者は社名公表も

 まず、1番目の「労働者の処遇改善」では、建設業者は労働者の知識・技能・能力についての公正な評価に基づいた適正な賃金を支払うこと、加えて労働者の適切な処遇を確保するための措置を効果的に実施するよう努めなければならない、と明記した。上記はあくまで「努力義務」ではあるが、労働者の処遇改善を明確に法律に明記したことは、国による建設業界の人手不足解決への本気度がうかがえることだ。

 具体的には、国交省が取り組み状況を調査・公表し、中央建設業審議会へ報告。同審議会は「労務費の基準」を作成し、勧告する。そのうえで、適正な労務費等の確保とその周知が徹底されるように、著しく低い労務費などによる見積もりや見積もり依頼を禁止。国土交通大臣などは、違反発注者に勧告と公表を行い、違反建設業者には現行規定により指導監督するとしている。少なくとも違反者は、社名を公表されるというペナルティを負うわけだ。加えて、建設工事を施工するために通常必要と認められる原価に満たない金額の請負契約を締結してはならないと、請負事業者へのただし書きも盛り込まれている。【図①】

【図①】労務費確保のイメージ
【図①】労務費確保のイメージ

「標準労務費」を設定
しっかり確保し職人の給与に反映

    このたびの改正建設業法に、「標準労務費」を中央建設業審議会が勧告することが明記されました。

 なぜ、「標準労務費」の設定が必要になったのか──。その原点をよく考えて、これまでの請負金額の決定過程を大きく変える転換点に立ったことに気が付くべきだと思います。どの産業も持続のためには担い手が必要であり、業界が魅力ある姿に映らなければ、若手を確保できません。建設業は他産業よりもかなり良い処遇にする必要がありますが、景気が良いときでも、過去の閑散時の安値競争が頭に浮かんで、経営者として固定給は上げられない企業がほとんどでした。

 今後は、労務費を安値競争の原資にしないよう、標準的な請負額を設定してもらうことになるため、確保できた労務費相当額は、職人給与にしっかり反映させていく取り組みを業界全体で実践していく必要があります。もちろん、発注者にも理解を得て進めていく必要があり、完全実施には時間を要すると思いますが、単に「安い」では仕事を取れなくなる競争環境の改善に向けた強力な旗印が上がったことに大きな期待をしています。

 これを業界内で共有して浸透させることができなければ、建設業界の将来の発展はないものと考えています。

(一社)建設産業専門団体連合会
会長 岩田正吾(いわた・しょうご)

(つづく)

【田中直輝】

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