傲慢経営者列伝(6)ヨーカ堂の体たらくが招いたセブン&アイの買収劇(後)
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「祇園精舎の鐘の音、諸行無常の響きあり。沙羅双樹の花の色、盛者必衰の理をあらわす。驕れる人も久しからず、ただ春の夜の夢のごとし。猛き者もついにはほろびぬ、ひとヘに風の前の塵に同じ」。『平家物語』の有名な書き出しである。現代では、M&Aの鐘の音が、盛者必衰の理を告げる。
創業者の死によって、
イトーヨーカ堂の抜本的解決に動くセブン&アイの井阪社長は、祖業である経営不振の総合スーパー・イトーヨーカ堂の再生策を次々と打ち出した。23年3月、「イトーヨーカドー」の店舗126店舗体制から、26年2月末までに93店舗へ縮小し、祖業のアパレル事業から撤退するとした。
今年2月には撤退する店舗名を明らかにした。北海道、東北、信越エリアの9店舗を閉店し、うち7店舗をロピアの親会社OICグループに譲渡することを発表した。かつて総合スーパーのトップを走っていたイトーヨーカ堂の店舗を、安売りで急成長している食品スーパーのロピアが手に入れることは、「小売業の新旧交代」と話題になった。
さらに4月、イトーヨーカ堂を核とする祖業のスーパー事業を分離し、27年度以降に株式を新規に上場させる方針を発表した。経営不振のイトーヨーカ堂や、東北地盤のヨークベニマルなどの食品スーパー事業を担う中間持株会社を設立して上場させる。アパレルも扱う総合スーパーから食品スーパーに特化して再生を図るシナリオだ。
セブン&アイはセブン-イレブンを展開する主力のコンビニ事業に経営資源を集中する。ヨーカ堂を分離する案には、「物言う株主」米投資ファンド、バリューアクト・キャピタルがコンビニ事業への集中を再三要求していたことが後押しとなった。
創業家の伊藤順朗氏は序列2位の地位
事業構造の改革に合わせて、創業家出身の伊藤順朗氏を24年5月28日に開催した定時株主総会で代表取締役副社長に選任した。伊藤氏はスーパーストア事業を管掌する。この人事はヨーカ堂を分離した上場会社のトップに据える布石と受け止められた。ヨーカ堂は創業家である伊藤家に大政奉還するわけだ。
「カリスマ経営者」鈴木体制下では、創業家の子息たちは厚遇されることはなかった。ところが、セブンのドン・鈴木氏の失脚で、伊藤順朗氏は復権してきた。16年12月に取締役となり、経営中枢に入った。今や、代表権をもつ序列2位の地位だ。
伊藤一族の資産管理会社・伊藤興業はセブン&アイの8.05%を保有する2位の大株主(筆頭株主は信託口)。井阪社長が打ち出したのは、ヨーカ堂は切り離して伊藤家に、セブンーイレブンはセブン&アイに残すというバーター取引だ。
セブン&アイは買収提案に徹底抗戦の構え
そこに、カナダのコンビニ大手クシュタールが買収を提案して割って入ってきた。セブン&アイは買収提案を受けていたクシュタールに「買収提案価格は不十分」などとする書簡を送った。9月6日、報道各社が一斉に報じた。
ロイター通信は
〈クシュタールが提示した買収価格は1株14.86米ドル、全株を現金で取得するというものだった。提案を公表した8月19日の為替、1ドル147円付近で換算すると、5.7兆円規模の買収総額となる。現在のセブン&アイの時価総額は5.6兆円〉
と伝えた。
株式市場では、株価に上乗せされるプレミアムへの期待からの株価が膨らんだ。セブン&アイが政府に対して、外国為替及び外国貿易法(外為法)において、最も厳しい「コア業種」分類への格上げを申請したとの報道が伝わると、セブン&アイ株は反落した。
セブン&アイの井阪社長はクシュタールによる買収に徹底抗戦の構えだ。ヨーカ堂を切り離して上場にこぎつけることができるかが今後の注目点だ。
(了)
【森村和男】
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