2024年12月22日( 日 )

福博の街を形成する新旧二大巨頭の今~福岡地所

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 2015年9月1日現在の人口153万1,919人。今なお人口が増え続けている福岡市。この九州最大都市が形成されるプロセスにおいて、決して忘れてはならないのが、紙与産業と福岡地所の2社である。明治時代から福岡市の発展に多大な貢献を収め地名にその名を残した渡邉家の紙与産業グループ。そして、複数の大規模商業施設とオフィスビルで、福岡市の都市機能を力強くバックアップする福岡地所。ここでは福岡地所(株)のオフィスビルを中心に調査を行い、各種データから推定の年間賃料収入を試算。それぞれの沿革と現状と共に検証した。

保険代理業から天神・博多の再開発へ

呉服町ビジネスセンター<

呉服町ビジネスセンター

 福岡地所(株)は1961年7月に設立され、保険代理業からスタートした。現在の総合不動産業の足がかりとなったのは1974年のサンライフ第1ビル竣工、サンライフシリーズマンション3棟、第2プリンスマンション分譲を手掛けたことである。その後、現会長の榎本一彦氏がキャナルシティ博多一部用地(鐘紡工場跡地)取得し、同社の事業展開は都市開発の方向へと大きく舵を切っていく。
 1980年代、榎本一彦氏は、その流れを加速化し、高宮、香椎浜、百道浜地区の土地を取得し、次々と事業を実現させていった。分譲マンションは、サンライフシリーズから、高級感あふれる洗練された分譲マンションのブランド「ネクサスワールドシリーズ」へと変わり、ホテル事業においても、高級志向のハイアットリージェンシー福岡などを開業させていった。
 そして同社の歴史でハイライトとなるのが、96年4月のキャナルシティ博多の開業である。同社をよく知る関係者は、「現在のイムズの案件は、85年に三菱地所とのコンペになったが、“見えない力”で福岡地所はコンペに敗北した。天神地区の再開発を地場の企業で行いたいという不退転の意思があった」と語る。このイムズの経験から11年後、福岡・博多の商業施設の代表格となるキャナルシティ博多を開業させた。前述の用地取得からキャナルシティ博多のプロデュースなどの実務は、一彦氏の側近であった藤賢一氏が取り仕切って見事に成就させたという。
 その後、同社はマリノアシティ福岡、パークプレイス大分、リバーウォーク北九州などの商業施設、博多駅前ビジネスセンター、呉服町ビジネスセンターなどのオフィスビルの建設および運営に着手する。その後、同社は、財務体質の健全化を図るため、保有物件を証券化した。2004年8月に設立され、05年6月に東証に上場した日本初の地域特化型REITである福岡リート投資法人により、同社の保有するほとんどの物件がハンドリングされている(物件の運用、資金調達などは資産運用会社である(株)福岡リアルティに委託)。
 現在グループ会社として不動産関連を中心に11社を傘下に有し、グループ合計で約500億円の規模と推計される。そして2014年8月に、一彦氏の長男・一郎氏が代表取締役社長に就任した。榎本一族では、四島一二三氏から数えて4代目となる。

明治通り再開発で注目の天神ビジネスセンター

福岡地所(株)の主たる物件の概要 福岡地所(株)の主たる物件の概要

 【表Ⅳ】の通り、同社の保有物件のうちオフィスビルだけで賃料収入は、推定で56億円を超えた。どのビルも天神・博多地区の中心地およびその周辺で、ほとんどが稼働率100%の優良物件である(福岡リアルティが運営する福岡リート投資法人が組成されているので、56億円のすべてが同社の収入ではない)。今回、その資産価値は650~800億円と試算。キャナルシティ・センタービル148億円、呉服町ビジネスセンター129億円など、100億円超と推測するビルも含まれている。
 福岡市は15年2月、新たな空間と雇用を創出する天神再開発プロジェクト『天神ビッグバン』を発表した。12年1月、福岡市の都心地域を、特定都市再生緊急整備地域(約231ha)に指定する政令が閣議決定され、博多駅周辺、ウォーターフロント地域(博多ふ頭・中央ふ頭)とともに天神・渡辺通り地区がその対象となった。その再開発の重要事業が、天神地区における明治通りの再開発である。
 明治通り周辺(約17ha)は、約100棟のビルが軒を連ねる。2022年度内を目処に建て替えられる予定にある、西日本鉄道(株)が保有する天神1丁目の福岡ビル(1961年12月竣工)をはじめ、建物の半分近くが築年数40〜50年と老朽化が進んでいる。福岡地所は、明治通り地区に、西日本ビル、福岡日興ビル(現カラオケ館)、天神セントラルプレイス(旧福岡三和ビル)を所有。3棟とも築年数は50年超。これら3棟は、6行の金融機関を債権者として合計120億円の債権額が設定されている。すでに天神セントラルプレイスは解体された。
 業界関係者は、「明治通りの3棟の裏にある福神ビルと因幡ビルも福岡地所が事実上手中に収めた。これらをすべて解体し、新たなオフィスビルの建設を計画している。福岡市が『天神ビジネスセンター』と銘打ち、事業主体者を福岡地所としている。現在ビル内に構えるテナントとの交渉など諸事情が絡むが、16年には解体を始め19年に新ビルの開業を目指している。福岡地所は地元・福岡では高い実績を有しており、手がけてきたどの開発も順調な業績を積み上げている。明治通り再開発においても同社に寄せられる期待はかなりのものだ」と語る。
 同社は、その都市再開発のノウハウが秀逸であると内外から高い評価を受けている。「天神ビジネスセンター」という新オフィスビルは、最新鋭のソフトとハードが備えられたビルであり、その建設が、明治通り再開発の先陣を切る。天神地区の今後の発展は、同社の双肩に掛かっていると言っても過言ではないだろう。そして同社の再開発が成就した時、九州一はもちろんのこと、日本有数の都市開発のエキスパートとしての地位を不動のものとすることになる。

【河原 清明】

▼関連リンク
・オフィスビル収入で福岡地所が抜く
・福博の街を形成する新旧二大巨頭の今~紙与産業

<COMPANY INFORMATION>
福岡地所(株)
代 表:榎本 一郎
所在地:福岡市博多区住吉1-2-25
設 立:1961年7月
資本金:40億円
業 種:総合不動産業
売 上:(15/5)240億円

 

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