(株)INTERMEDIA
代表取締役 佐々木信明 氏

中大規模(非住宅)木造建築物は、2021年施行の「都市の木造化推進法」が最大の転換点となり、その普及スピードが加速するようになった。しかし、そのずっと以前から設計を手がけていた先駆者もいる。長崎県島原市にある意匠系設計事務所である(株)INTERMEDIA・代表取締役の佐々木信明氏が、その代表的な1人だ。四半世紀にわたり中大規模木造建築の分野で活躍する同氏に、携わるようになったきっかけやこれまでの実績、<有料区切り>円滑に事業を進めるための秘訣などについて話を聞いた。
出身地・島原が取り組みの原点の1つ
──近年、中大規模木造建築物への関心が高まり、その普及も少しずつ進んでいます。早くからこの分野に取り組まれていますが、そのきっかけは何だったのでしょうか。
佐々木 私が中大規模木造建築物の設計に初めて携わったのは、1990年代初頭のことです。「森山町図書館(現・諫早市立森山図書館)」のプロジェクトに参加したのが始まりでした。延床面積1,200m2を超える大規模木造建築で、当時としては非常に先進的な取り組みでした。そのころ、滋賀県に建設された日本初の大規模木造平屋図書館といわれる施設を見学する機会がありました。実際にその空間に触れ、木造建築が持つ可能性の大きさを実感したことが、その後の設計姿勢に大きな影響を与えたと思います。
また、私の出身地が長崎県島原市だったことも大きかったですね。島原には古くから優れた職人文化があります。江戸時代に島原藩へ入った松平家が、京都から大工や石工、板金職人らを連れてきた歴史があり、その技術が現在まで受け継がれています。今でも高い技術を持つ職人が多く、日常的に顔を合わせながら仕事ができる環境があります。そうした人たちに支えられてきたからこそ、中大規模木造建築という分野に比較的スムーズに取り組めたのだと思います。
──木造建築には、どのような魅力があるとお考えですか。
佐々木 まず挙げたいのは快適性。木材には優れた断熱性能や調湿性能があり、人が心地良く感じる室内環境を自然につくり出してくれます。木造建築に入った人が「木の香りが良い」「落ち着く」と感じるのは、単なる印象ではなく、木材が持つ特性によるものです。音環境にも優れています。木は音を適度に吸収・拡散するため、図書館やオフィスなどでも静かで落ち着いた空間をつくることができます。
安全性も大きな魅力です。木造建築は鉄骨造(S造)や鉄筋コンクリート造(RC造)に比べて軽量であるため、地震時に建物へ加わる力を小さくできます。適切な構造設計を行えば、高い耐震性能を確保することが可能です。さらに、デザインの自由度も高い。一般流通材でも6m程度のスパンであれば十分対応できますし、より大きな空間が必要な場合には集成材やトラス構造、あるいは鉄骨とのハイブリッド構造を活用することで、多様な表現が可能になります。
近年はコンクリート工事費の上昇もあり、延床面積1,500m2程度までの建築物であれば木造のコスト優位性も高まっています。環境面だけでなく経済性の観点からも、木造への注目は高まっていると感じています。
地域コミュニティとつながる建物
──これまで手がけられた建築物のなかで、特徴的なものを教えてください。
佐々木 まず挙げたいのは長崎県大村市の「ミライon図書館」(長崎県立・大村市立一体型図書館)です。建物自体はS造ですが、空間の木質化を積極的に図った事例です。ここでは、対馬産の杉材を大量に活用しました。直径約360mmの原木から芯材を4本取り、その周囲から90mm角の材料を効率良く製材する方法を採用しました。90mm角の材料は木材とスチールを組み合わせた書架のフレームなどに利用し、天井材にも活用しています。公共図書館という用途のなかで、地域材をできるだけ無駄なく使い切りながら、木に包まれた空間を実現できたことは非常に意義深い取り組みでした。
(右)島原市の障がい者施設の外観 (撮影:中村絵)
もう1つは、島原市の障がい者支援施設です。この施設では長崎県産材を80%以上使用することが求められました。県産材の調達には苦労しましたが、3mグリッドを基本とした構造計画によって、住宅のような親しみやすい空間を実現しました。家具にも県産杉を積極的に採用しています。この施設で特徴的なのは、建物が地域コミュニティの拠点として機能していることです。障がい者施設でありながら、地域と隔絶するのではなく、むしろ積極的につながることを目指しました。
たとえば、天井をすっきり見せるために空調を床下吹き出し方式とし、圧迫感のない空間を実現しました。その結果、完成後には子ども食堂が開催されたり、近隣の小学生がクラブ活動の集合場所として利用したりするようになりました。当初の用途を超えた「地域の居場所」として機能していることは、設計者として大きな喜びです。この四半世紀で、木造建築を取り巻く環境は大きく変化しました。かつて木造は住宅中心のものでしたが、現在では環境性能やデザイン性だけでなく、地域コミュニティを育む社会的価値も評価されるようになっています。
フェンスのない保育園を
設計コンセプトに
──保育施設の設計も数多く手がけられています。
佐々木 福岡県那珂川市の「南畑ピノキオ森のこども園」は、設計段階から理事長や地域住民とのワークショップを重ね、多くの人と一緒に計画を進めました。最大の特徴は、「フェンスのない保育園」であること。通常、保育園では安全確保のためフェンスを設けますが、この施設では地域とのつながりを重視し、あえて境界を曖昧にしました。建物は6mスパンを基本としながら、屋根形状に変化をつけることで多様な空間を創出しています。高い天井と木に囲まれた内部空間は、まるで森のなかにいるような感覚を与えてくれます。
完成後には、地域住民による朝市も開かれるようになりました。地元農家が野菜を持ち寄り、近隣住民が集う光景を見ると、この施設が単なる保育施設ではなく、多世代が交流する地域の拠点になっていることがわかります。印象的だったのは、ある保護者から聞いた話です。子どもの入園先を検討する際、RC造の近代的な園舎とこの木造園舎とを見学したところ、午後にこの園舎へきた子どもが「ここがいい」と言ったそうです。大人は設備や利便性を比較して判断しますが、子どもは木の空間が持つ居心地の良さを本能的に感じ取るのかもしれません。
一方で、設計実務では法規制との調整も避けては通れませんでした。大規模木造建築では、防火規制や内装制限によって木材を見せることが難しくなります。そこで、防火上重要な部分には不燃処理を施した木材を使用し、それ以外には通常の木材を使うことで、木の質感を最大限に生かす工夫を行いました。行政担当者とも協議を重ねながら、設計意図を実現していきました。
次も絶対に木造建築で
私たちが運営している保育施設は長崎県と福岡県、関東に20数カ所ありますが、木造・木質化に取り組んだのは「南畑ピノキオ森のこども園」が初めてです。開園から4年ほどになり、今では入園待ちが出るほどの人気があるこども園となっています。木の環境のなかで過ごすことで、子どもたちの育ち方に違いが現れること、木の匂いが子どもたちの感覚を刺激し、同時に安心感を与える効果があることを感じています。そうした経験から、次にこども園をつくる機会があれば、絶対に木造にしようと考えています。
(社福)正道会 副理事長 松尾正次郎 氏
■南畑ピノキオ森のこども園
所在地:福岡県那珂川市大字埋金811-1
TEL:092-951-0777
大切なのは人と人のつながり
──今後、木造建築に精通した設計者がさらに増えることが期待されますね。
佐々木 現在は木造建築にとって、追い風の時代だと思います。RC造と比較してコスト面での優位性も高まり、中規模施設であれば木造を提案するメリットは確実に大きくなっています。ただし、大学などで木造建築を体系的に学ぶ機会は、まだ十分とはいえません。木造建築は梁や垂木、合板、仕上げ材など無数の部材が組み合わさって成立しています。それぞれの役割を理解し、ボルト1本、仕口1つまで意識しながら設計する必要があり、それが醍醐味なのです。
私は職人との対話を通じて、そうした感覚を身につけてきました。また、高度な木造建築を実現するためには、構造設計者との連携が欠かせません。幸いなことに、この10年ほどで木造建築の経験を持つ優秀な構造設計者が増えてきました。彼らは意匠設計者の思いを理解しながら、構造的な裏付けを与えてくれます。そうした専門家同士の協働が、新しい木造建築を生み出しているのです。
最後に、重要なのは人と人とのつながり、仲間の存在です。職人や木材加工会社、建設会社、構造設計者など、多くの人が力を合わせて初めて良い建築が生まれます。顔の見える関係のなかで技術を磨き、新しい挑戦を続けていくことが、これからの建築文化を豊かにしていくのだと思います。そのことを若い設計者にも伝えていきたいですね。
【田中直輝】
<COMPANY INFORMATION>
(株)INTERMEDIA
代 表:佐々木信明
所在地:長崎県島原市有明町湯江甲263
(水脈オフィス)長崎県島原市万町503-5
TEL:0957-65-9020
FAX:0957-65-9023
URL:https://www.intermedia-co.jp
<プロフィール>
佐々木信明
1957年長崎県島原市生。80年に長崎総合科学大学工学部建築学科を卒業し、89年に「Inter Media一級建築士事務所」を主宰。2014年に(株)INTERMEDIA代表取締役に就任した。個人住宅から、公共施設、保育施設など、工法を問わず幅広い建築物の設計を手がけてきた。島原市役所、長崎県立図書館「ミライ on 図書館」などの設計にも携わってきた。

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