政治経済学者 植草一秀
私の見立ては正しかったように思う。高市首相が多数の疑惑で揺さぶられてきた背景が消費税減税潰しであるとの見立て。国会終盤に至り、高市疑惑が噴出。この高市疑惑を徹底追及すれば高市内閣は終わる。
誹謗中傷動画、サナエトークン、経歴詐称、サナエタオル配布。何一つ疑惑は解消されていない。しかしながら、国会における厳しい追及は行われていない。野党の追及も不完全燃焼。疑惑噴出の中核的背景は消費税減税問題にあると見られる。
食品消費税率を2年限定で1%に引き下げ、1%分は現金給付等を行う案が提示された。高市首相の主張に沿う提案。国民会議がこれを決定し、秋の臨時国会で法制化する。この流れが提示されたなかで財務省が徹底抗戦。消費税減税潰しに総力を結集。主要メディアも加担した。
政党のなかで財務省別動隊として行動しているのがみらいと国民民主。他方、れいわは「事務所総出」で潰された。
消費税減税を掲げる高市包囲網を形成。従わなければ高市内閣打倒のカードが示されたと見られる。
首相で居続けることが高市首相の最優先目標。7月15日の党首討論で白旗を上げたと見る。大義名分は「君子豹変」。みらいが「君子豹変」を持ち出して高市氏が乗った。台本通りの党首討論だったと見られる。
援護射撃を行ったのが国民民主。玉木雄一郎氏は首相の座を目指して財務省別動隊を率先して演じている。国民民主はこれまで「消費税減税」を掲げたことはあるが全部ウソ。2024年総選挙で消費税減税が争点化した。石破自民が大敗して野党が結束すれば消費税減税を実現できた。これを壊したのも玉木国民民主である。
消費税減税を「103万円の壁」にすり替えて大規模減税を「限りなくしょぼい減税」に変質させた。2年限定の食品消費税率1%を実施する場合、2029年4月に税率を元の8%に戻すことは極めて難しい。統一地方選があり、衆院総選挙実施の可能性も高いからだ。
消費税減税を実施すれば恒久減税になる。だからやるべきだが、財務省は総力を結集して消費税減税潰しに突き進んでいる。他方、歳出面での高市内閣方針は財務省方針と完全に一致する。利権財政支出激増の方針が示されている。
財務省は利権財政支出拡大を全面推進する。その一方で、社会保障支出を徹底的に削減する。一般国民に利益を付与しても財務省の利益にならない。しかし、利権補助金をバラまけば必ず財務省に見返りがある。だから、財務省は社会保障支出を切り、利権補助金をバラまく。
高市首相は「成長投資、強い経済を作る」と述べて利権補助金バラマキの方針を示す。安倍内閣と同じ。安倍内閣も「成長戦略」を掲げた。しかし、日本経済の成長力はまったく高まらなかった。発生したのは企業利益の激増と労働者実質賃金の激減だった。
利権補助金をバラまけば企業利益は拡大するが日本の経済成長は高まらない。企業が肥える分、労働者はさらに搾り取られるだけになる。2026年5月の単月の経済統計だけを用いて、低いインフレ率と高い実質賃金伸び率と主張した高市首相は天性の詐欺師と言って過言でない。
両数値は瞬間的な異常値に過ぎない。高市首相が「豹変」して消費税減税を取り下げる可能性が高いが、これが高市内閣支持率暴落の引き金になることは間違いないだろう。
高市疑惑は何一つ解決していない。経歴詐称疑惑の核心は高市氏が米国での職名を「米国連邦議会立法調査官」としたこと。これは明白な「経歴詐称」である。高市氏は米下院のシュローダー議員事務所で「研修員」として無給で籍を置かせてもらっていただけである。“fellowship”は私的にいくらでも創設できるもので、“fellow”の肩書が与えられていたとしても不思議ではない。
しかし、その“fellow”と権威のある正式の“congressional fellow”とはまったく違う。問題は職名の日本語訳にある。「米国連邦議会立法調査官」は米国議会に所属し、米国議会から給与が支払われる正式公職=公務員を示す職名。一議員の私的な研修生の職位を「米国連邦議会立法調査官」とするのは「経歴詐称」である。
この問題について二つの記事がネットで流布されている。
『女性自身』による
「「しいて言えば、奨学研修者」高市首相“肩書問題” 「立法調査官」命名者の“大物女優の父”が33年前に語っていた「真相」」
https://x.gd/mbA4P
と、『NEWSポストセブン』による
「「結論として“詐称”ということはできない」高市首相の経歴問題を生んだ誤解の連鎖を元朝日新聞記者・今野忍氏が解き明かす」
https://x.gd/Loxl4
二つの記事の目的は同じ。「経歴詐称とは言えない」との結論を示していること。しかし、「経歴詐称にならない」根拠が何も示されていない。前者は正体不明の「政治部記者」の見解を紹介し、後者は今野忍という人物の「主張」を示す。
後者記事は「立法調査官」という経歴について「とっくに使うのをやめている」として高市氏を擁護しているが、いつ経歴詐称をやめたのかが問われているのではなく、経歴詐称していたかどうかが問われている。
高市氏は正規の選挙公報に「日本で初めての米国連邦議会立法調査官として活躍」と記載していた。

この「記載」が「経歴詐称」に該当するかどうかが問われている。
権力の側に立って尽力すれば見返りが期待できるのだろう。これを背景に「提灯記事」が流布される構造になっていると考えられる。
「サナエトークン」では刑事告発の責務を負う金融庁が暗号資産を無認可で発行した発行体を刑事告発しない。このことが国会で厳しく追及される必要があるが放置されている。
2,000円のサナエブランドタオルを選挙区の有権者に無償配布していれば公選法違反に該当する。穴の開いたうちわ風のモノを配布した松島みどり法相は辞任に追い込まれた。線香を無償で配布した小野寺五典議員は議員辞職に追い込まれ有罪判決を受けた。
「サナエタオル配布問題」を放置することはできない。これらの疑惑が山積しているが国会での追及が行われていない。高市氏が消費税減税を撤回すれば「高市疑惑」が一気に雲散霧消する可能性があると見られるが容認できない。
高市内閣が示す施策のなかで唯一正当性があるのが消費税減税。本来は税率を5%ないしゼロに引き下げるべきもの。2年限定の食品税率1%は邪道だが、やらないよりはましだ。しかし、財務省と新聞業界と国民民主、みらいが連携して消費税減税潰しに全力を注ぐ。消費税減税潰しが成功すれば国民とみらいは論功行賞に預かるのだろう。日本政治は骨の髄まで腐敗が進行している。
<プロフィール>
植草一秀(うえくさ・かずひで)
1960年、東京都生まれ。東京大学経済学部卒。大蔵事務官、京都大学助教授、米スタンフォード大学フーバー研究所客員フェロー、早稲田大学大学院教授などを経て、現在、スリーネーションズリサーチ(株)代表取締役、ガーベラの風(オールジャパン平和と共生)運営委員。事実無根の冤罪事案による人物破壊工作にひるむことなく言論活動を継続。経済金融情勢分析情報誌刊行の傍ら「誰もが笑顔で生きてゆける社会」を実現する『ガーベラ革命』を提唱。人気政治ブログ&メルマガ「植草一秀の『知られざる真実』」で多数の読者を獲得している。1998年日本経済新聞社アナリストランキング・エコノミスト部門第1位。2002年度第23回石橋湛山賞(『現代日本経済政策論』岩波書店)受賞。著書多数。
HP:https://uekusa-tri.co.jp
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