「帝国の慰安婦」著者に無罪判決 地獄の淵で泥沼が続く(前)
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ソウル東部地裁は1月25日、名誉毀損罪に問われていた朴裕河(パク・ユハ)世宗大教授に対して、無罪を言い渡した。彼女は自著『帝国の慰安婦』で、元慰安婦たちの名誉を傷つけたとして、懲役3年を求刑されていた。「学問の自由」を、憲法の基本的権利と明記した、合理的かつ知性的な判決である。韓国司法が「地獄の淵」でやっと立ち止まったような判決だ。釜山の慰安婦像をめぐって混迷局面にある日韓関係に好影響を与えればいいが、韓国情勢はそんなに生易しいものではない。憲法裁判所による「朴槿恵(パク・クネ)大統領に対する弾劾訴追案」審判が、3月上旬に予想される。今後も「学級崩壊」状態のなかで、前代未聞の泥沼が続くのは間違いない。
今回の拙稿では、日韓メディアを時評したい。
「朴裕河無罪」を26日の朝刊社説で取り上げた日本の主要紙は、読売と産経だけだ。朝日、毎日、日経、東京といった新聞社の国際的センスの欠如には、本当にあきれてしまう。国境を超えた日韓両国版ハフィントンポストの丹念で重厚な報道ぶりとは、対照的なていたらくだ。
とくに、朝日新聞の罪過は大きい。自ら撒いた種で、韓国に間違った慰安婦像を移植した。その虚妄を学問的に指摘した朴裕河「帝国の慰安婦」日本版を、自社系列から出版したにもかかわらず、懲役3年を求刑された被告に対する無罪判決には、なんらの論評も加えない。朝日は「死せる新聞社」ではないのか。
韓国大手紙も一切、社説で言及がない。「人権派」を自称するハンギョレも、音沙汰なしだ。産経ソウル支局長の起訴に関して、社内合議の末、「社説で取り上げない」と決めた朝鮮日報は、やはり、今回も押し黙ったままである。
読売社説は穏当だ。「朴氏は著書で、日韓の資料に基づき、慰安婦問題を『大日本帝国』と植民地の歴史のなかに位置づけた。(中略)。著作に関する公権力の介入は、抑制的であるべきだ。名誉毀損問題は当事者間の民事訴訟で争うのが、民主国家の常道だろう」。この程度の社説は、成熟した民主主義社会において、当然の論調だ。「河野談話は日韓の妥協の産物だった。クマラスワミ報告は、虚偽証言を引用するなど瑕疵が多い」と指摘したのも、妥当である。
一方、産経「主張」は、「法よりも国民感情が優先する韓国の『情治』に歯止めをかけた」と見出しをとった。しかし、そんなに簡単な話でないのは、先刻ご存知のはずではないか。今回の無罪判決も韓国メディアの扱いは小さい。むしろ、判決に不満な関係者たちの「怒り」を伝えたメディアが多いのが実情だ。今回の無罪判決が、韓国人の間違った慰安婦イメージに与える影響は、極めて限定的だと見た方がいい。
(つづく)
<プロフィール>
下川 正晴(しもかわ・まさはる)
1949年鹿児島県生まれ。毎日新聞ソウル、バンコク支局長、論説委員、韓国外国語大学客員教授、大分県立芸術文化短期大学教授(マスメディア論、現代韓国論)を歴任。国民大学、檀国大学(ソウル)特別研究員。日本記者クラブ会員。
メールアドレス:simokawa@cba.att.ne.jp関連キーワード
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