あえて言おう、「小選挙区制度は日本の政治を焼け野原にした」(1)
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SNSI・副島国家戦略研究所 中田安彦
安倍首相夫妻の「関与」の有無が大きな争点になった学校法人森友学園への小学校建設用地の格安払い下げ問題や、稲田朋美防衛大臣の指導力の欠如を露呈させた南スーダンの陸上自衛隊派遣部隊の日報の隠蔽問題で大揺れに揺れた通常国会は、結局、安倍政権からは一人の閣僚辞任者もだすことなく、3月末に本予算が参議院で可決、成立し、新年度以降は後半戦に突入している。
そんななか、4月7日に突如、野党第一党である民進党に所属する長島昭久元防衛副大臣が、離党するという報道が流れた。その直前に長島議員の地元選出の都議会議員が民進党ではなく小池百合子都知事の率いる政治集団である「都民ファーストの会」に移って今年の7月の都議選に挑戦する事がわかり、その責任取って長島議員が民進党都連幹事長を辞任すると報道されたばかりだった。その辞任会見が10日に議員会館で開かれた。その理由は「共産党と組む衆院選での野党共闘は保守政治家として容認できない」というものだった。
「本日、一人の政治家として『独立』を宣言いたします」という言葉から始まった会見は、安保法制をめぐる党内の議論のあり方に対する違和感や野党共闘で共産党に接近しすぎた執行部に対する批判にあふれていた。メディアは、小池都知事との連携か、それとも思想的に近い自民党入りを目指すのかことにスポットを絞って、取材し報道していた。確かに、政局的にはそうなるのだろう。ただ、共産党に引っ張られたくないという長島議員の保守としての主張はわかるが、今の政治状況で野党が失地を回復して自民党に対抗するには、積極的な選挙協力とまでは行かなくても、最低限、共産党を含めた野党が候補者調整をしなければ、小選挙区制度では結局共倒れをしてしまう。
視点を変えると、私はこの「離党会見」があぶり出したものは、単に民進党のガバナンスが問題である
とかそういう表層的な話ではなく、日本の今の政治システムがはらんでいる根源的な問題であると思う。そもそも長島議員は、「政権交代可能な二大政党制のダイナミズムが日本に必要だ」と長年主張してきた政治家である。それが「独立」を宣言するというのは、「政党政治の敗北」ではないかと私は思うのである。メディアは長島議員が「リベラルの不寛容」について批判したと記事で書いているが、その他に保守の側にも自制を求めたことは報道していない。記者会見の趣旨は「真の保守をこの国に確立したい」というもので、実際、次のように、今の安倍政権を支える「保守」と呼ばれる人々に対する批判もしている。
保守の側も昨今劣化が激しく、籠池(泰典)さんのように、教育勅語を信奉していれば保守だといわんばかりの粗雑なキャラクターが際立っています。 私は、「真の保守」というのは、国際社会でも通用するような歴史観と人権感覚を持ち得なければならないと考えております。不寛容なリベラルも、粗雑な保守も、1度立ち止まって国内外の現実を直視し、それぞれの議論を整理し直すべきではないかと考えております。
http://www.sankei.com/politics/news/170410/plt1704100017-n3.htmlつまり、「保守もリベラルも劣化が激しい」と言っているのである。真の保守と真のリベラルが育っていないと言っているわけだ。私はどちらかと言うと鳩山由紀夫元総理が体現する「リベラル」の立場に立つので、長島議員のような「親米保守(リアリズム)」とは考えが違うし、批判的だ。しかし、保守もリベラルも反省しろという主張は全くその通りだと思う。保守のネトウヨ化、左翼リベラルの先鋭化とでも言うべき左右の政治勢力がラディカルになっている現状は、日本の大多数の支持政党なしのノンポリ大衆を置き去りにしている。
そのような政治の左右の先鋭化は、インターネットによって加速されている面は否めない。SNS、ツイッターを通じて政治の議論が行われるとき、左右が似たような意見を持つアカウント同士でクラスター化(タコツボ化)し、論争相手がどのような意見を持っているのかを考えようともしなくなり、相手の良い点を評価することもしなくなる。右にも左にも多様化した意見が存在しなくなり、とにかく相手を敵視し、罵倒するようになってしまう。周りが同じような意見に偏りがちなツイッターやフェイスブックのような空間では、偏った主張でもそれが正しいと思い込んでしまう。このことの問題点については、私も2014年暮れに上梓した『ネット世論が日本を滅ぼす』(KKベストセラーズ)で指摘した。特定の支持層だけにはウケるが、それ以外の人が見ればドン引きする議論がネット上では展開されているわけだ。
ネットでの人格攻撃はアメリカでも深刻な社会問題になっている。アメリカのネットでも、政治問題について「トローリング」といって保守(オルトライト)とリベラル(ラディカル)が互いに人格攻撃を繰り広げており、去年の大統領選挙のさなかも、ツイッター上の荒れようはひどいものだった。トランプ候補が駆使するツイッターでのメッセージ発信のなかには現在のアメリカ政治の問題点を鋭く射抜いたものをたくさんあったが、同時に低劣な表現も多数見られた。
長島議員も会見のなかで、アメリカの分断状況を例に上げながら、「日本社会における保守とリベラルの分断、亀裂は抜き差しならないところまで行く」と警告を発している。ネットでの議論はツイッターの場合、最大140字という限られた字数で、しかも、生の人間の交流がない記号同士のやりとりになるので、コミュニケーションがやりにくい。細かいニュアンスが伝わらず、必然的に一かゼロというように先鋭化する。これは保守とリベラル双方が認識すべき点だろう。
(つづく)
<プロフィール>
中田 安彦(なかた・やすひこ)
1976年、新潟県出身。早稲田大学社会科学部卒業後、大手新聞社で記者として勤務。現在は、副島国家戦略研究所(SNSI)で研究員として活動。主な研究テーマは、欧米企業・金融史、主な著書に「ジャパン・ハンドラーズ」「世界を動かす人脈」「プロパガンダ教本:こんなにチョろい大衆の騙し方」などがある。関連キーワード
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