2024年11月22日( 金 )

海外で生き残りを賭ける製薬業界(後)

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社債・借入金について

 【別表5】は、社債および長短借入金残高の順位表である。

 社債・借入金残高のトップは武田薬品工業で、1兆2,267億円(前期比3,563億円増)。同社の借入金の増加は、M&Aによるもの。2008年にミレニアム(米国)を約9,000億円で買収したほか、11年にはナイコメッド(スイス)を約1兆1,000億円で買収。さらに今年2月には、6年ぶりにガン領域に強みを持つアリアド(米国)を公開買付けで完全子会社化。買収額は約6,200億円が大きな要因と見られる。
 武田薬品の有利子負債比率は月商の8.5倍で、要注意の目安とされる6倍を超えている。ひとえに企業買収の目利きが、今後は問われることになろう。

 第2位は第一三共で2,901億円(前期比883億円増)。第3位は大塚HDで2,891億円(前期比▲377億円)。第4位はエーザイで2,160億円(前期比92億円増)。この3社が2,000億円台となっている。第2位以下の有利子負債比率を見ると、エーザイが健全の目安とされる4倍を超えた4.8倍となってはいるが、他は健全な水域にとどまっており、財務面では問題はなさそうだ。

 トップの武田薬品工業と第2位の第一三共、第3位の大塚HDとは、約1兆円の差がある。ここから見えるのは、武田薬品工業は自社の研究開発とともに、M&Aによって世界最先端のバイオ新薬を開発していく二面作戦を取っているように見える。一方、アステラス製薬や大塚HD・第一三共などは、あくまでも自社で新薬の開発を進めていく方針のようだ。

 中外製薬の決算短信における連結財政状態計算書は、資産および純資産は実数を記載しているが、負債の非流動負債および流動負債は差引を記載している。そのため担当者に実数を問い合わせると、これも当期純利益(予想)と同様に「非開示」との返答だった。

研究開発費について

 【別表6】は日本の製薬企業の研究開発費の順位表である。製薬メーカーにとって得意分野における新薬の開発が、企業存続の大きな鍵となっている。

 16年度の研究開発費が前年度より増加したのは、第一三共など5社。減少したのは武田薬品工業など5社となっているが、大きく減少したのは大塚HDで、339億円減の1,688億円。

 国内トップは武田薬品工業で3,123億円(前期比235億円減)。第2位は第一三共で2,143億円(前期比57億円増)。第3位はアステラス製薬で2,081億円(175億円減)。この3社が2,000億円を超えている。

 売上高比率が高いのは第一三共で22.4%、次いでエーザイの20.9%。一番低いのは大塚HDの14.1%だった。なお平均は17.6%であり、このあたりの数値が1つの目安となっているようだ。

 17年度(予想)を見ると、増加はアステラス製薬を含む5社。減額が武田薬品工業を含む4社で、非開示は中外製薬の1社となっている。
 このうちエーザイが前期比19.1%増、田辺三菱製薬が前期比13.5%増と、研究開発費を増加させているのが目立つ。

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世界の製薬会社について

 【別表7】は、世界の売上高順位表(含む研究開発費)である。

 世界トップのファイザー(フランス)の売上高は約5兆7,000億円、第2位のロシュ(スイス)は約5兆5,600億円。第3位のノバルティス(スイス)が5兆2,400億円。このように、世界のベスト3はいずれも売上高5兆円を超えている。

 世界のトップ10のうち、研究開発費が前年比マイナスだったのは第10位のアストラゼネカだけだった。一方で日本勢を見ると、世界第18位の武田薬品工業、第20位のアステラス製薬、第24位の大塚HDの3社とも、前年比マイナスとなっている。
 このことからわかるように、日本の製薬会社が世界の製薬会社と競っていくには、銀行系列の枠を超えてさらなる経営統合を進め、「オールジャパン」として結束するしか生き残る道はないように思われる。

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(了)
【(株)データ・マックス顧問 浜崎裕治】

 
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