2024年11月13日( 水 )

「ロシア・ゲート疑惑」を8割がた乗り切ったトランプ大統領(4)

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SNSI・副島国家戦略研究所 中田 安彦

 それでは、「フリン問題」についてはどうか。そもそもフリン補佐官が2月13日に辞任したのは、不正を認めたからではなく、ペンス副大統領にロシア大使との面会について嘘の説明をしていたことが理由となっている。ただフリン個人については政権移行期と政権発足後に、ロシアとのつながりだけではなく、トルコの代理人をやってカネまで受け取っていたにも関わらず、必要な届け出すらセず、しかも、トルコの意見を代弁して反イスラム国政策に介入した疑惑がある。さらにフリンの息子は政権移行チームにも入っていたが、筋金入りの陰謀論者であるので、トランプとしては早く更迭して正解だったとも言える。

 しかし、トランプにとっての「フリン問題」とは、彼がフリン解任の翌日に、コミー長官をホワイトハウスに呼び、側近などを人払いした上で、コミーに行った行為の違法性の有無である。「彼は良いやつだ。捜査をやめてフリンを自由にしてくれないか」と要請し、トランプが彼に対して何度も「忠誠心」を求め、数回に渡る要請をコミーが無視したあとで、トランプが長官を解任したことが、「司法妨害」に相当するかどうか、という問題だ。

 コミー証言の前日に公開された証言冒頭の声明文では、メディアに流出した「コミー・メモ」と同じ内容が述べられていた。その中では、あくまでコミーの印象としてメモには「大統領は自分との間にパトロネージュ関係を作ろうとしていた」と述べているが、これは要するに「暴力団の親分が子分に取らせる盃の関係」という意味である。まあ、FBI長官としてはそんなこと認められるわけがない。

 議会証言では、トランプが「希望(hope)」という言葉を使って、フリンへの捜査をやめることで、政権の前に立ちはだかった暗雲を取り払ってほしい旨を要請したとコミーは答え、しかし、大統領が二人きりでの場を含めて、電話を含めて何度も要請したことを考えると、「命令(order)ではないが指示(direction)ではあったろう」と判断している事を述べた。

 これだけなら、むしろトランプの疑惑が深まったように見えるが、コミーはいくつか批判を浴びそうな事を言っている。同時にコミーは、例のメモを流出させたのは自分であると明言し、しかもそのメモを知り合いのコロンビア大学のロースクール教授を通じて「ニューヨーク・タイムズ」に流したとあけすけに語った。メモを取ったのも1月初旬のブリーフィングの態度から記録を残して証拠としておく必要があると判断したと語った。しかも、メモの流出が特別捜査官を司法省に指名させるのが目的だったとまで語ったのだ。この発言を受けてトランプとその弁護士は「コミーがリークの情報源だったとは」とツイートや記者会見で糾弾を始めた。だが、メモに書かれた内容には慎重に機密情報が含まれないように配慮したとコミーは語っており、政権側がこのリークを違法性のあるものや職務権限違反として訴えることはできない、というのは司法関係者のほぼ一致した見方だ。

 同時に、コミーは、共和党の穏健派上院議員であるスーザン・コリンズの質問を受けて、驚愕すべきことを語っている。コミーが去年の7月初めに突如、「ヒラリー・クリントンの私的メール使用問題について訴追しないように司法長官に申し入れた」と記者会見をしてトランプ陣営を激怒させたが、その前に「リンチ司法長官から、この問題を事件ではなく事案(a matter)として扱うように圧力を受けていたことを暴露したのだ。トランプと異なり司法経験が長い司法長官は、事の理非曲直には当然詳しくなければならない。しかも、リンチ長官は、コミーの会見の直前に、アメリカの地方飛行場でヒラリーの夫であるビル・クリントン元大統領と面会したことがスクープされてしまった。これがコミーが記者会見を開かざるをえないと判断した背景だったというのだ。コミーがわざわざメモを残そうとするのも、このリンチ事件だけではなくさまざまな場面で政治家に対する不信感があったのかもしれない。このリンチの圧力の発言と、証言で明らかになった、コミー解任時点では「トランプ本人は捜査対象ではない」という発言は、トランプにとっては有利なものだろう。トランプはコミー解任時のコメントでも「彼は自分に3回、自分が捜査対象ではないことを確認してくれた」と述べていたので、それがあながち間違いではなかったわけだから。

(つづく)

<プロフィール>
nakata中田 安彦(なかた・やすひこ)
1976年、新潟県出身。早稲田大学社会科学部卒業後、大手新聞社で記者として勤務。現在は、副島国家戦略研究所(SNSI)で研究員として活動。主な研究テーマは、欧米企業・金融史、主な著書に「ジャパン・ハンドラーズ」「世界を動かす人脈」「プロパガンダ教本:こんなにチョろい大衆の騙し方」などがある。

 
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