2024年11月22日( 金 )

『脊振の自然に魅せられて』すばらしい脊振のブナ林

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 脊振山系にブナ林があるのを、ご存知の方は少ないと思う。
 ある夏の日、脊振の気象レーダー付近から椎原峠へ続く縦走路そばのブナ林で、一本の大きなブナが目に入った。幹廻りは2m以上、高さは15mほど。根元から数本に枝分かれして、どっしりと地面に根を降ろしている1本のブナである。
 クマザサの繁みに分け入り、このブナの幹に寄っていった。福岡県側の緩い谷を下って50mくらいの場所である。
 大きく仁王立ちしている幹を何とかカメラに収めたくて、撮影に夢中になる。
今では珍しくなったミノルタの二眼レフ、ファインダーを上から覗いてアングルを決めピントを合わせる。
 しばらくすると、空が急に暗くなり大粒の雨が降り出した。私は急いで二眼レフをザックにしまい、雨具を着た。大粒の雨は高いブナの小枝から太い枝へと数本の小川のように集り、一本の川となって太い幹から根元に流れ落ちていた。私はブナに雨水が流れ落ちるさまに圧倒され、しばらく見続けた。ブナの表皮が雨を集める、これがブナの保水力だと思い、感心していた。
 雨の中で、その光景の撮影を一眼レフで試みたが上手く表現することはできなかった。
 しばらくすると雨は小止みになり、私は感動を胸に納め、その場を後にした。そんなわけで、私はブナの魅力にいっぺんに虜になってしまった。

 脊振山系では小爪峠から金山(1055m)へ向かう縦走路の中間地点にすばらしいブナの原生林がある、そのほか雷山(955m)~雷神社上宮間でもブナ林が見られる。

 ブナは美しく高く聳えるものあり、根元から枝分かれしていて独特の形をしたものもあり、それぞれ魅力的である。小爪峠~金山縦走路間は緩く登り降りしているが、歩くのにはすばらしく快適な場所でもある。
 このブナ林には環境省の看板があり、脊振の樹木の植生について表記してある。
 もう古くて朽ちる一歩手前であるが、何とか文字は読み取れる。海抜800m付近にブナが見られる、とある。この周辺ではカシ、シデ、カエデ、シロモジも見られ、6月頃に花の咲く樹木のドウダンツツジ、エゴ、ヤマボウシ、カマツカ、タンナサワフタギ、ヤマツツジもあり、歩くにはとても興味深い所である。
 梅雨時に歩くと雨上がりの中にブナも含めて、これらが霧の中にシルエットとして浮かび上がって幻想的な光景が見られる。

 今年6月11日(日)に、この縦走路で『脊振の自然を愛する会』の会員で観察会を行なった。『ブナという漢字は無い』と植物に詳しいT氏が歩きながら言っていた。帰宅して調べてみるとやはりブナの漢字は無かった。ネットで調べてみると、使い道の少ない樹木であり楢(ナラ)に劣るから無楢とも言われていたとか。
 しかしその保水力はNO.1である。脊振のブナ林と豊富な自然林が福岡県と佐賀県の有力な水資源であり、糸島方面の牡蠣漁場や有明海の海苔漁場にとって、これらから生み出るミネラルが大切な栄養源なっていることは周知の通りである。
 日本では白神山地がブナ林で世界遺産に登録されている。北限は北海道札幌付近、南限は九州本土の鹿児島県までで、九州で一番高い屋久島にはない。

 美しいブナの幹に触れてみませんか、聴診器を幹にあてると、ごうごうと水を吸い上げる音が聞こえてくるかも知れませんよ。
 また、山歩きを愛される方には、梅雨時分に歩かれることもお奨めします。雨具を準備して歩いてみましょう。幻想的な光景に出会うことができるかも知れません。お天気の日ばかりが山歩きではありません。

脊振の自然を愛する会 代表 池田友行

 

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