2024年12月22日( 日 )

都議選、3人の勝者(前)

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SNSI・副島国家戦略研究所 中田安彦

 都議選が終わった。小池百合子都知事が率いた地域政党「都民ファーストの会」が、公認候補は一人を除いて49人当選するなど圧勝した。一方で、安倍晋三首相率いる自民党は選挙前の57議席から半減する23議席と大惨敗した。
 開票から一夜明けて、私が考えたことを書く。この都議選には、大きな意味で、3人の勝利者がいて、2人の敗者がいる。
 3人の勝者というのは、小池百合子都知事、山口那津男公明党代表、そして、麻生太郎副総理兼財務大臣であり、2人の敗者というのは、安倍首相と松井一郎・日本維新の会代表だ。民進党の蓮舫代表と共産党の志位和夫代表は、それぞれ敗者、勝者であるが、ここでは触れない。
 3人の勝者の動向は、今後の国政を占う上で非常に重要である。

第1の勝者・小池都知事

 都議選は小池都知事が都知事選で勝利して初めて下る選挙民の審判となるのだから、そこで公認候補をほぼ全員当選させた小池氏が勝者であるのは当然だ。都議会自民党の執行部(幹事長、政調会長、議会議長)を全員落選させ壊滅的に打撃を与え、さらには自らの陣営に下村博文都連会長の元秘書の平慶翔氏を引き込み、下村氏の地盤である板橋区で、下村秘書軍団の二人の現職を破ってぶっちぎりで当選している。
 そして、都議選前に発表した、「豊洲・築地併用案」というメディアには「玉虫色」と批判された、築地移転案の「アウフヘーベン(止揚)」案についても、半数以上の有権者が選挙期間中や出口調査でも支持を表明した。小池都知事の「大バクチ」は成功した。結局、この移転問題は、「市場関係者」の中での争いでしかない、と都民は判断したようだ。
 そして、小池都知事は「都民ファースト」の掛け声で圧勝したことで、今後、国政進出を含めたオプションを得ることができた。小池都知事は都知事の職務に専念する立場からファーストの代表を辞任して、その座を前の代表だった側近の野田数(のだかずさ)氏に返した。知事独裁という声が自民党から高まるのを予想して先手を打って、中立性を確保したわけだ。

 小池氏が当選したのは2017年の都知事選で、次の選挙は2020年のちょうどオリンピック直前に行われる。この間に小池氏が国政に出る、つまり都知事を辞任して、国会議員になるということはほぼありえないと見ていいだろう。任期途中で辞任するというのは、「放り出し」としか見られないからだ。かつて、新党結成を囁かれ続けた、作家の石原慎太郎元知事も、なかなか国政への転出ができなかった。最低でも1期はやらないと小池都知事としても格好がつかないだろう。だから、国政進出は最短でも2020年以降ということになる。
 もちろん、その間に、都民ファーストの国政版である、「国民ファースト」の党ができるか、という問題は残る。首都圏を中心に民進党の人気低迷に嫌気が差した国会議員が5人集まれば、たしかに新党はできる。しかし、いま結集しそうな政治家といえば、小池氏の側近として都知事選から応援した元検事の若狭勝衆議院議員、元みんなの党代表で維新から比例代表で当選した渡辺喜美参議院議員、民進党に離党の意志を示し、除名された長島昭久衆議院議員、それから、新生党から次世代の党まで政党を渡り歩いた、元神奈川県知事の松沢成文参議院議員である。この他、何人かの名前が上がっているようだが、一見すればわかるように、残念ながら幾つかの点で党首である条件を備えていない。
 渡辺喜美、松沢成文の二人は参議院議員であり、長島氏は衆議院であるが比例復活組である。民進党の蓮舫代表が、今ひとつ盛り上がらないのは、本人の悲壮感を全面に出した演説スタイルが、明るい百合子スマイルと対照的で国民にイメージが良くないのもあるだろうが、やはり参議院議員であるからだ。

 国政政党の看板は、「衆議院議員」であり「小選挙区当選者」でなければならない。これは民進党の代表選挙のときに散々いわれたことだが、正しいと思う。無所属議員の中で、都市型の小池国政新党の党首の座についても違和感がない人材というのはなかなかいないし、民進党の中にもいない。大阪維新のように、地方自治体のトップが党首を兼任するというやりかたもないではないが、それでも国政の側に「華」がいないと、政権交代を目指す政党にはなりえない。ネット上では、今は衆院で自民会派に所属し、かつてみんなの党の共同代表だった、浅尾慶一郎氏はどうか、という意見(「国会を読む」ブログの著者の指摘)もあった。なるほど、と思う。だが、過去に報道された渡辺喜美氏との確執もあったので、今の段階では未知数である。「ウルトラC」としては、元維新の橋下徹氏が新党の代表に付くというものがあるが、これも「頭の体操」程度の話にとどめておきたい。

 小池氏は国政、つまり国の行政に対して強力な発言力を得た。それは石原都知事と同じだと思うが、小池新党の国政化という点については今のところ政権交代の起爆剤にはならない。せいぜい、都市部で民進党を食って、自民党支配に貢献することになる、という話だろう。

(つづく)

<プロフィール>
nakata中田 安彦(なかた・やすひこ)
1976年、新潟県出身。早稲田大学社会科学部卒業後、大手新聞社で記者として勤務。現在は、副島国家戦略研究所(SNSI)で研究員として活動。主な研究テーマは、欧米企業・金融史、主な著書に「ジャパン・ハンドラーズ」「世界を動かす人脈」「プロパガンダ教本:こんなにチョろい大衆の騙し方」などがある。

 
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