2024年12月22日( 日 )

都議選、3人の勝者(中)

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SNSI・副島国家戦略研究所 中田安彦

第2の勝者・山口那津男

 公明党は自公政権を十年以上継続し、連立政権にとっての要になっているが、自民党にとっては、衆議院選挙の時には、公明党の支持母体の創価学会の会員たちが小選挙区票のの積み増しをしてくれるなど非常にありがたい存在である。しかし、「安倍一強」の体制が続くなか、保守色の強い安倍自民党は、公明党と大阪を地盤にする地域政党の日本維新の会を天秤にかけているようなところが近年見られた。都議選についても、今年の3月14日の「産經新聞」電子版で、公明党が知事与党である都民ファーストと都議選で選挙協力をすると表明したことに対して、安倍首相が「公明党抜きの単独で勝利するいい機会だ」と述べたと報じている。

 共謀罪の国会審議でも、安倍首相は、公明党と維新にそれぞれ政権への忠誠度を試しているようなところがあった。菅義偉官房長官なども「橋下徹の生みの親」(ジャーナリストの森功氏の著作)と言われるなど、橋下氏や松井一郎大阪府知事との関係を誇示するところがあった。

 ところが、私はこの「公明党冷遇」をおかしいと思っていた。小選挙区で公明党の票が消えれば、野党共闘の候補には自民党は絶対に勝てないだろうと思っていたからだ。案の定、今回の都議選では公明党は擁立した候補、全42中の21選挙区に立てた23人の全員当選という「完全勝利」を果たした。一方で、自民党は57⇒23の大惨敗。これまで安保法制や共謀罪など公明党は自民党の言いなりになってきた感が強かった。公明党の中にも安倍・菅と共鳴し、連携するグループがいるのだろう。しかし、公明党・創価学会も一枚岩ではなく、内部では「平和の党」路線を否定するかのような現在の路線に批判的な勢力は居ることだろう。今回の都議選は「公明党無しの自民党の実力」を示したものともいえる。自公連立政権の中で、公明党の発言力は増して行く。したがって、憲法改正を性急に行う路線は修正されるだろう。それに比例して、橋下徹元大阪市長を失った「日本維新の会」は低迷していくだろう。

第3の勝者・麻生太郎

 そして、3人目の勝者は麻生太郎副総理兼財務大臣である。第二次安倍政権発足後、総理経験者である麻生は副総理の座に甘んじてきた。しかし、今回、安倍首相が都議選で大惨敗を喫したことで、麻生がポスト安倍を選ぶキングメーカーになることが確実になった。

 森友学園問題では、安倍首相が国会で野党の質問に激高して、「売り言葉に買い言葉」になる状況を常に閣僚席から、終始ニヤニヤしながら見つめていたのは麻生だ。麻生は財務大臣だから、森友問題の交渉記録を保全するように部下に指示も出来たはずだ。しかし、ここでは安倍を守った。
 また、加計学園の獣医学部新設問題では、麻生と菅の獣医師会をめぐる代理戦争の要素もあった。鳩山邦夫元総務相死去後の光景を選ぶ福岡6区補欠選挙においては、麻生は日本獣医師会会長の福岡県議の長男を推し、菅官房長官は、鳩山の息子である二郎を推したと報じられた。菅官房長官は、鳩山死後に、鳩山が結成した緩やかな安倍支持グループである「きさらぎ会」の顧問に就任し、百人以上いる「きさらぎ会」の主導権を握るとも見られていた。結果、補選では二郎が当選した。鳩山二郎は、菅が連携を深めている二階俊博幹事長のグループ「志帥会」入りした。だから、加計学園問題は、安倍政権内では、「麻生・石破 対 安倍・菅・二階」の権力闘争の面もある。

 ところが、加計学園問題では、文科省前事務次官の前川喜平氏が、安倍政権によって行政が歪められたと告発し、並行して総理の友人であるジャーナリストが準強姦疑惑に官邸が関与したのではないかとする疑惑が発覚し、次に、加計問題が総理の側近である萩生田光一官房副長官に飛び火していった。さらには都議選の最中には、下村博文都連会長が文科大臣時代に、加計学園の秘書室長からパーティ券代金としてまとめて2年連続で合計200万円を受け取っていたことが内部文書とともに『週刊文春』で報じられた。

 加計問題、安倍首相が所属する細田派の二回生議員の豊田真由子衆議院議員が秘書に強烈なパワハラを行っていた問題、さらには稲田朋美防衛大臣が「自衛隊」の名前を出して都議選候補者を応援するという公職選挙法違反の行為が発覚する中、安倍首相は劣勢を挽回しようと都議選最終日に秋葉原駅前で候補者の応援演説を行ったが、ここには麻生氏の姿がなかった。

 選挙戦の最終日に2012年の政権交代を印象づけた、オタクの聖地・秋葉原での自民党の街頭演説というのは、大小の日の丸が乱舞する。右翼団体の集会ではないかというほどに宗教的な熱気を帯びたイベントだ。毎回、安倍首相と麻生財務大臣が、アキバの駅頭に立って国民に訴えてきた。秋葉原のアニメ・マンガオタクの間で、麻生太郎がマンガ好きであるということが十年前に広まって以来、「麻生と言えばオタク、オタクと言えば秋葉原」という連想で、麻生を駆り出すことでオタク文化には全く縁のなさそうな安倍が若者への支持を訴える趣向だった。

 今回の都議選では麻生は最終日は安倍と行動をともにしなかった。代わりにやってきたのが、安倍首相の側近であり、党選対委員長である古屋圭司衆議院議員。当の麻生氏はというと、秋葉原から遠く離れた三多摩地区で遊説をしていた。安倍首相が応援した千代田区の新人候補は「都民ファースト」に惨敗したのに対して、麻生が応援した中で、立川市の自民党現職候補は僅差で元民進党の現職を破って議席を守った。

 安倍首相の最終演説では、「安倍辞めろ」という大きな横断幕を掲げ、「安倍辞めろ」の掛け声が終始、四方八方から鳴り響いた。メディアでは一角だけから響いたという報道がされているが、これは間違いである。横断幕やプラカードを掲げていない人たちも散発的に呼応して野次を飛ばしていた。さらには昭恵夫人から受けた小学校建設に関わる100万円の寄付を返却しようとした籠池泰典・森友学園前理事長なども乱入し、安倍首相に対して野次を飛ばすなど、大混乱の状況に陥った。私もこの現場にいて、あまりの自民党のここ最近の不祥事に対する反省のなさに、喝を入れるべく、ヤジを飛ばした口だ。私も自分で参加しておいて言うのもなんだが、こんなヤジで盛り上がった街頭演説は見たことがない。

 安倍首相は、国会の予算委員会のときと同様にヤジに感情的に反応し、「演説を妨害する行為」と筋違いの批判をしただけではなく、「こんな人たちに負けるわけにはいかない。こんな人たちに都政を任せるわけにはいかない」などと口走った。つまり、安倍批判のやじを飛ばしている、「一般市民や活動家」と、都政を担う「都議選候補者」を区別できないほどまでに「錯乱」して、マイクを片手に聴衆を指差して批判したわけだ。私も含めてテレビで「安倍暴言事件」を知った人も含め「こんな人たちで悪かったな」と思った有権者は多かろう。当然の惨敗となった。批判を予測し、自民党や官邸は、SPによく似た格好をした職員を大量に配置して混乱を抑止しようとしたり、「安倍辞めろ」の横断幕を隠すべく、党青年局スタッフを動員したが、首相の「こんな人たち」という暴言ですべては台無しになった。(写真:筆者撮影)

(つづく)

<プロフィール>
nakata中田 安彦(なかた・やすひこ)
1976年、新潟県出身。早稲田大学社会科学部卒業後、大手新聞社で記者として勤務。現在は、副島国家戦略研究所(SNSI)で研究員として活動。主な研究テーマは、欧米企業・金融史、主な著書に「ジャパン・ハンドラーズ」「世界を動かす人脈」「プロパガンダ教本:こんなにチョろい大衆の騙し方」などがある。

 
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