2024年12月22日( 日 )

都議選、3人の勝者(後)

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SNSI・副島国家戦略研究所 中田安彦

「ポスト安倍」への動きが本格化か

 官邸と自民党の中では、「THIS IS 敗因」として「T(豊田真由子)、H(萩生田光一)、I(稲田朋美)、S(下村博文)」と都議選の敗因を総括する声もあるが、全員、安倍首相の所属する清和会の議員たちだ。本当は「THIS IS A 敗因」でA(安倍晋三)が最大の敗因として含まれていなければおかしいと思ったが、案の定、ワイドショーではそのような指摘が相次いでいた。

 そのような、安倍惨敗の出口調査が出始めているなかで、安倍、菅、麻生、そして甘利明元経済財政担当大臣の4人は、新宿区の(麻生氏行きつけの)高級フランス料理店で食事をしている。副総理である麻生はともかく、なぜ甘利氏が同席したかがよくわからなかったが、翌日3日に山東派(かつての高村派)と谷垣派の佐藤勉・前国対委員長ら6人が合流した「新麻生派(志公会)」の結成式で、最前列に甘利氏が座っていたのを見て合点がいった。甘利氏はもともと山崎派(現在は石原伸晃・経済財政担当大臣がリーダー)にいたが、今年の2月に甘利氏とその側近ら神奈川県内選出の議員でまとめて麻生派入りしていたのだ。安倍を秋葉原で見捨てた麻生が、第二派閥としてポスト安倍となる候補を支えることをこの場で事実上表明したのだろう。敗戦を確信し打ちひしがれていた安倍は、側近であったはずの麻生にも圧力をかけられ始めた。知らぬ間に自分自身が「包囲」されていたことにようやく気づいた。

 現在の自民党の最大派閥は細田派(安倍派)の96人だが、新しい麻生派は全部で59人と、旧竹下派の額賀派の55人、池田勇人の宏池会(岸田文雄外相がリーダー)46人、二階派43人、石破派19人、石原派14人、谷垣派20人となっている。現在、自民党は衆議院288人、参議院122人の国会議員がいる。衆参で60人位の無所属議員もいる。(数字は「朝日新聞」7月4日付)

 麻生氏は、3日の派閥の結成の記者会見でも、「安倍政権をど真ん中で支えていく」と表明したものの、安倍首相の求心力の低下には、そもそも総理自身の性格や人柄、知性のなさに起因しており、上を見て育った「安倍チルドレン」の馬鹿さ加減にあることくらいは、学習院大学政治経済学部卒で会社経営者出身の麻生氏ならとうに理解しているだろう。 安倍同様に、麻生も石破も「日本会議国会議員懇談会」のメンバーであるが、それぞれカトリック、プロテスタントの信徒であり、安倍首相のような無教養な右翼主義者とは一線を画している。

 このあと、加計学園問題をめぐる国会の閉会中審査があり、秋には内閣改造を行った上での臨時国会が予定されている。内閣改造では小泉進次郎氏の名前も上がるが、次期政権になれば重要ポストが得られるだろうから、彼は入閣を渋るのではないか。また、加計問題では都議選の最中に、加計学園理事長が岡山県の自民党支部の代表であったことや、支部が学園の経営する学校の中に存在したことも市民の有志の調査により発覚し、獣医学部新設は「長年の友人」である同理事長に対する文教族である安倍首相からの「恩返し」であることは否定しようもない事実となってきている。国家戦略特区という制度そのものを利用した不正事件の疑いではないと証明しなければ、規制緩和そのものが進まなくなる。最低限、加計理事長の証人喚問は必須だろう。

 そういえば、麻生氏は竹中平蔵・元総務相(国家戦略特区諮問会議民間議員)をかつて街頭演説で「竹中っていう経済の分かってない人がいた」(2012年8日、千葉県内の街頭演説、朝日新聞電子版で報道)と批判したことがあった。

 重要なのは、都議選で大敗北を喫した安倍首相に対して麻生氏がフリーハンドを得たことだ。派閥の拡大で「キングメーカー」になった麻生氏は、自らがポスト安倍に名乗り出るか、あるいは岸田・石破という有力候補を派閥でバックアップするか、それとも安倍政権を麻生派によって意のままにあやつることで「黒幕」としての地位を確保するか、選択肢がいくつもある。ただ、麻生氏自身も都議選翌日に、「大臣規範」に違反したゴルフ会員権の購入の事実をマスコミにリークされている。そう考えると、麻生氏自身は、安倍首相や菅官房長官を支持する勢力との「全面権力戦争」を避け、静かに党内の実権を奪取する動きに出るのではあるまいか。マフィア映画「ボルサリーノ」に登場するデザインの帽子をかぶったニヒルな麻生太郎氏の動向は、今後とも要注目だ。

 ただ、本当に安倍首相は内閣改造を成し遂げることができるのか。スキャンダルが更に噴出したら、秋に総裁選を1年前倒しして実施する可能性はあるのではないか。私はその可能性は5割以上に高まったと見ている。これは政権瓦解シナリオだ。さあどうなりますやら。

(了)

<プロフィール>
nakata中田 安彦(なかた・やすひこ)
1976年、新潟県出身。早稲田大学社会科学部卒業後、大手新聞社で記者として勤務。現在は、副島国家戦略研究所(SNSI)で研究員として活動。主な研究テーマは、欧米企業・金融史、主な著書に「ジャパン・ハンドラーズ」「世界を動かす人脈」「プロパガンダ教本:こんなにチョろい大衆の騙し方」などがある。

 
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