2024年12月22日( 日 )

生産性革命元年となった2017年 避けては通れないテクノロジー変化の波(後)

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テクノロジーと向き合う

 イノベーション不足で世界から取り残されてきた日本だが、個別企業では興味深い動きも出てきた。設立5年で今年9月に上場したマネーフォワードは、上場前の売上高が15億円程度にもかかわらず、株式公開後の時価総額は600億円規模に達した。当初から200~300億円が想定されていたが、予想を大きく上回った。家計簿アプリやクラウド会計を軸としたフィンテック企業であり、その希少性が人気を集めた。

 H.I.Sの澤田会長が再建したハウステンボスでスタートした「変なホテル」(運営はH.I.Sホテルホールディングス)も注目だ。2015年にオープンしたが、ロボットなどのITを駆使して生産性を追及するスタイルで、高収益ホテルに変貌を遂げつつある。70室余りのホテルを当初は30名程度でオペレーションしていたそうだが、段階的に人数を減らし、6~7名でのオペレーションも可能となった。ホテル運営のかたちがほぼ完成し、今後は本格的に全国、世界への展開を始める。すでに福岡への進出は決まっているが、構想では100カ所以上が検討されているという。

 AIやIT、IOT、ICTなどの言葉が飛び交い始めるとともに、経済格差問題の議論が深まった年でもあった。便利さと引き換えに、さらなる格差社会の到来が予想されており、ベーシックインカムの導入が現実的な選択肢になりつつある。「人はどのように働き、どのように生活するべきか」こうした命題に向き合わなければならない時代に入ったのだ。

業界の垣根崩壊と広がる情報格差

 「アマゾン・エフェクト」が流行語になった年でもあった。ネット通販のアマゾンが、既存の小売業に大きな影響を与え始めたことを表す言葉で、ITやクラウドなどの環境変化が背景にある。ただ、業界の垣根の崩壊は、ずいぶん前から始まっていた。アマゾンが全米で、TSUTAYAが日本で、それぞれ最も本を売る会社になったのは、すでに昔話だ。セブンイレブンがあっという間に日本で最もコーヒーを売る会社になってからも数年が経っている。 またアップルがアップルウォッチの売上高でロレックスを上回り、世界で最も腕時計の売上高が多い会社になった年でもあった。

 このように、もはや従来の業界の構図は通用しない時代だ。しかも変化が速い。日本唯一のユニコーン企業(未上場だが株式時価総額が10億ドルを超える企業)であるメルカリが台頭したが、同社に代表されるフリマ市場の拡大は、従来の質屋、金券ショップなどの業界に大きな影響をおよぼすだろう。

 今年もさまざまな企業を取材したが、痛感するのは企業間による情報格差の拡大だ。インターネットの普及で一時的に情報格差は縮小したが、膨大な情報が溢れる時代となり、情報リテラシーが必要となった。リテラシーが低い個人は情弱と呼ばれるが、その状況が企業間でも生まれつつある。怖いのは、そのことに気づいていない経営者が多いことだ。

 ITツールの重要性は多くの経営者が認めるところだが「若手に任せればいい」は間違った判断だ。子どものときからITが身近にあった世代でも、自社の生産性向上のために、どんなIT技術やツールが必要かを考えることは難しい。ビジネスモデルや業務フローは、たとえ同業者であっても異なるもので、会社ごとに個性があるし、理解が深くなければ、どのツールがどこで使えるか分からない。一方で、汎用型のITツールの登場を待って活用しようという判断では遅すぎる。

 経営者自らがAIやITへの造詣を深め、業務経験が豊富な社員の中からITリテラシーの高い社員を養成していかなければ、環境変化から取り残されるのは必至だ。逆に上手に使えば、大手やライバルとの戦いを有利に進めるチャンスも生まれる。振り返れば17年は企業の生産性革命の幕開けの年だったようだ。

(了)
【緒方 克美】

 
(前)

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