「中興の祖」の役割を担った西部ガス元会長 田中優次氏
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激動・大競争時代転換期に攻撃能力を発揮
昔々、福岡の財界には「七社会」と呼ばれる長閑な組織が存在していた。九州電力、金融機関=福岡銀行、西日本銀行、福岡シティ銀行そして、西日本鉄道、西部ガス、九電工を指す(2004年に西日本銀行と福岡シティ銀行が合併したので、現在は空いた1枠をJR九州が担う)。「七社会」の企業に共通しているのは政府による庇護産業ということで、民間の激烈な競争で立ち上がった企業はなかった。
西部ガスは「七社会」の下部クラスに位置して身分相応に横ならびで地域貢献に努めてきた。いわばおっとりした公家集団としての社風がしっかりと確立されていたのだ。この安定時代が継続できていれば田中優次氏が「中興の祖」として活躍することはなかったであろう。
西日本銀行と福岡シティ銀行の合併という信じられない出来事があった。業種は違えど「政府による庇護政策は終わった。それぞれに自力で経営をやれ!」という通告を受けたのと同じことであった。
平易にいえば「本業のガスを売っておれば会社が安泰という時代の終了」ということである。そして競争相手は同業種ではなく異業種となる。福岡、九州でいえば九電がライバルになるのである(2000年初頭で連結10倍の開きがあった)。
21世紀になって九電の攻勢が顕著になった。「オール電化」を旗印にガス利用の領域を浸食するようになってきた。ここに至って「田中優次の活用」という神託が下されたのである。
大殊勲:八仙閣のM&A
この非常事態を迎えて社内で激論が展開された。結果、「本業・ガス利用を増やすには、こちらから攻めなければならない」という社内コンセンサスには至った。だが「具体的な方策は何か?」となると途方に暮れていたのも事実であった。
「ガス需要発掘」主義の旗頭・田中優次氏(当時、取締役)はある日、「八仙閣は後継者をめぐる深刻な悩みを抱えており、混迷している」ということを耳にした。
八仙閣は福岡を代表する中華料理店である。同氏は「中華料理店におけるガス使用量は半端ではない。また、この店を買収できたら絶大な広告塔の役割をはたしてくれる」と強かな計算をした。早速、オーナーに接近を図った。すると田中氏の人柄がオーナーの琴線に触れ、企業買収交渉はトントン拍子に進んだ。04年のことだ。そして、同氏は新生八仙閣の初代社長に就任したのである。
八仙閣は今でも変わらず繁盛している。また掌握した博多駅東の場所は西部ガスグループの拠点機能も担っているのだ。
このM&Aの貴重な経験を全社で共有し、その後の企業買収に生かした。そして何よりも「ガス需要を拡大させるにはこちらから攻撃をかけるしかない」という社風に激変。「公家集団」と囁かれていた体質は溶解してしまったのだ。
次なる挑戦へ、誰が第二の田中優次になるのか
11年3月、東日本大震災で痛手を被った九電も攻勢への立て直しに余念がない。「七社会」のメンバーであるJR九州・西鉄・九電工は事業規模4,000億円に躍起になって挑戦している。筆者が高く評価しているのは西鉄国際物流事業である。ヨーロッパ各都市に駐在員をおいて事業展開をしており、当面、1,000億円規模の国際物流事業を目指しているという。
筆者は西部ガスの26年度の事業目標に『売上高3,000億円を掲げる』ことを提案する。現在の2,000億円規模から50%加算する壮大な計画となる。過去のM&Aの積み重ねでも、本業ガスの供給を加算しても到底、実現するものではない。田中元会長が04年に八仙閣を買収したような新たな戦略が必要とされている。問われているのは『第二の田中優次が現れるか!』であろう。
【児玉 直】
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