【広島】コロナで「人が消えた」地方の歓楽街 除菌徹底や割引で苦境に抗う風俗業者
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感染拡大が止まらない新型コロナウイルス。東京都の小池百合子知事が「接客をともなう飲食の場で感染を疑われる事例が多発している」として、バーやナイトクラブ、酒場などへの出入り自粛を呼びかけたことなどにより、都下の歓楽街は閑散とした状態となった。では、地方都市の歓楽街はどういう状況なのか。週末、広島の夜の街で話を聞いた。
女性従業員の人件費を払えず休業する店も
広島市の松井一實市長が東京都の小池都知事と同様の呼びかけをしたのは、4月2日の会見でのこと。夜間から早朝にかけて営業しているバーやナイトクラブ、カラオケ、ライブハウスが「いわゆる3密(密閉・密集・密接)がより濃厚な場所と重なる」と指摘し、「出入りを控えていただきたい」と求めたのだ。
この日広島市は、1日では最多となる4人の新型コロナウイルス感染者が判明。これまで明らかになった市内の感染者にはキャバクラの関係者も複数いたため、そのような呼びかけに踏み切ったようだ。
これにより、広島の夜の街はどうなったのか。筆者が市内最大の歓楽街「流川」を訪ねたのは、市長の呼びかけがあった翌日(3日)、金曜日の夜のこと。普段の週末なら日が落ちる前後の時間帯から多くの人が行き交う流川だが、案の定、この日は夜6時を過ぎても閑散としていた。
ソープランド、ヘルス、ヌード劇場、キャバクラ、ガールズバーなどさまざまな業種の店に話を聞いて回ったが、客入りについては「普段の半分以下」「3割減った」「10分の1になった」……と答えはさまざま。全業種が例外なく大きく落ち込んでいるようだった。
メイドの衣装にジャンパーを羽織ったガールズバーの女性従業員はこう話した。
「常連さんが来てくれないのがしんどいですね。営業の電話をしても、『ごめんね。会社から外出せんように言われとるんよ』と言われたりして。うちは路面店なので、飛び込みのお客さんがたまに入ってくれますが、ビルの中で営業する店はそれすらないので、もっと大変みたいです」
大手カラオケ店は各都道府県知事の外出自粛要請を受けて臨時休業していたが、キャバクラやガールズバーのなかには「客がこないので、女の子の人件費が払えない」という経済的事情から近く休業する予定の店もあるという。
ソープは感染防止のため待ち時間の外出を可能に
では、各店は前代未聞の試練にどう対処しているのか。
「お客さんにはまず、店に入る時に手などをアルコール消毒してもらいます。店内には除菌グッズや(ウイルス対策に効果があるといわれる)加湿器を置き、女の子がお客さんの水割りをつくる時もその都度、手をアルコールで拭くようにしています」
こう語るのは、昼から営業しているキャバクラ『Pal』の店長。先のガールズバーの女性従業員も「仕事中、お客さんの持ち物をとってあげることもありますが、そのたびに手に除菌スプレーをかけています」と語るなど、どの店も感染防止に気を遣っているようだ。ヌード劇場では、「ショーの合間の休憩のたびに劇場を換気するようにしている」(案内係の男性)という。
一方、ソープランドの『EIGHT』は、客に入店時、アルコールスプレーで手などを消毒してもらうほか、待合室や各部屋に次亜塩素酸を噴霧。客同士が接触しないようにするため、「受付後、待ち時間は外出可能」とし、順番がきたら電話で店に呼ぶようにしたという。
さらに同店は苦境打破のため、割引イベントも実施。40分コースの料金は通常、「午後5時までが1万4,000円、以降が1万6,000円」という設定だが、現在は1万円まで値下げした。店長は、「自分で言うのもなんですが、うちはけっこう人気のある店で、これまで経営はずっと順調でした。今は厳しい状況ですが、何とか乗り切りたいです」と話した。
国の「職業差別」に風俗事業者は案外冷静だが
ところで、首長たちがバーやナイトクラブ、酒場への出入り自粛を呼びかけながらも、名指ししされた業種の売上減少への補償は何もないのが現状だ。風俗店の従業員は、子どもが通う小学校などの休校にともなって仕事を休んでも厚生労働省の「保護者の休業助成」の対象にもならない。こうした取り扱いには、ネット上などで「職業差別だ」との批判が渦巻いているが、当事者らはどう受け止めているのか。
先の『Pal』の店長は、「やはり補償などは検討してほしいと思います」との意見だが、「こういう状況ですから、私たちのような店への出入り自粛を呼びかけること自体は悪いことだといえないと思います」と理解を示した。
一方、先のガールズバーの女性従業員も案外さばさばしていた。
「実際問題、私たちは日によって収入が大きく増減します。今の店で働いていることや収入がどれほどあるかを証明するのは難しいので、休業補償を受けるのは難しい気がします」
そもそも、風俗事業者たちで「お上(かみ)」に対して自分の権利を強く主張する人はあまりいない。職業差別的な扱いをされることに慣れていることもあるのか、今回の職業差別的な取り扱いも冷静に受け止めているようだ。
もっとも、「女の子たちはみんな事情があって風俗で働いている。子どもがいるからこそ、風俗で働いている女の子も多い」(風俗無料案内所の男性)という現実がある。コロナ騒動が続く中、風俗店が救済されずに次々に潰れ、多くの従業員が路頭に迷えば子どもたちにもしわ寄せがいくことは確実で、負の連鎖が起きる可能性は高い。
風俗店の従業員たちが厚労省の「保護者の休業助成」の対象にならないことについては、性風俗従事者の支援団体『SWASH』が同省に見直しを求める要望書を提出。風俗事業者への国などの差別的取り扱いについては、メディアも総じて批判的で、今後も問題はくすぶり続けそうだ。
【ジャーナリスト/片岡 健】
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