2024年12月23日( 月 )

新型コロナウイルスは第3次世界大戦の幕開けか(1)

記事を保存する

保存した記事はマイページからいつでも閲覧いただけます。

印刷
お問い合わせ

国際未来科学研究所代表 浜田 和幸 氏

 国際通貨基金(IMF)のゲオルギエバ専務理事の発言が世界に波紋を投げかけている。曰く「2020年の世界経済は1929年に発生した世界大恐慌以来、短期的には最悪の不景気に陥る」。この衝撃的な見通しを述べたうえで、「もし、新型コロナウイルスの蔓延が2020年の前半で収まれば、2021年には部分的な経済回復もあり得る」と希望的観測も述べた。

 しかし、そうした希望的観測は「絵に描いた餅」に終わるだろう。なぜなら、4月頭に発表された国連の統計データを見れば、全世界の33億人の労働者のうち、81%が部分的ないし完全に職場を失っていることがわかるからだ。ゲオルギエバ女史によれば、「わずか3カ月前、2020年には160の国において人口1人あたりの収入が大きく拡大するとの見通しだった。ところが、今や170の国で大きく減少することが避けられない」。

 現在のパンデミックが2020年の前半で終息する見通しは立たず、事態は悪化する可能性が高い。感染者数でも死者数でも世界最悪のアメリカでは、4月第1週で失業保険手当の申請者が1,600万人に達した。中央銀行にあたる連邦準備制度(FRB)では2.3兆ドルの追加資金投入を発表したが、焼け石に水といった状況である。

 なぜなら、こうした資金は赤字国債を発行して賄うわけで、すでに財政破綻をきたしているアメリカにとっては国家破綻を先延ばしにするだけだからだ。さらにいえば、価値の裏付けのないドル紙幣を増刷することになるわけで、国際機軸通貨としてのドルの信用も失墜することになる。資本主義経済の旗頭であるはずのアメリカでは、国民の95%が何らかのかたちでロックダウン(都市封鎖)の影響下に置かれている。経済活動は低迷し、国民の生活は不安に駆られる一方である。

 イギリスに活動拠点を置く慈善団体オックスファムによれば、「現下の新型コロナウイルスの蔓延で5億人を超える人々が貧困層に陥ることになる」。しかも、「パンデミックが収まったとしても、その時点では世界人口の半分にあたる40億人近くが貧困生活を余儀なくされるだろう」との予測を明らかにしている。

 国連の一部を担う国際労働機関(ILO)の見立てでは、「今回のパンデミックは第二次世界大戦以降、最悪の危機」ということだ。そして、3月にOECDが発した警告では「世界経済が回復するのは何年も先のこと」らしい。グリア事務総長曰く、「我々は2001年の9.11テロや2008年の世界金融危機よりはるかに深刻な事態に直面している」。

 アメリカのメディアや保守層の間では、「日本軍による真珠湾奇襲攻撃を彷彿させる」といった見方まで出てくる有り様だ。我々日本人はどこまで、そうした世界の危機感を共有しているだろうか。緊急事態宣言は出たものの、その効果は見通せない。安倍首相はトヨタ自動車に人工呼吸器の製造を要請したが、厚労省の許認可を得る必要があり、何と「審査に半年ほど時間がかかる」との返事。さすがのトヨタも辞退を決めてしまった。

 一事が万事である。「全家庭にマスク2枚を郵送する」という決定を自信たっぷりに記者発表する総理の対応には危機感やスピード感は感じられず、国際的にも「日本は危ない」とのレッテルを張られてしまった。

 海外の日本を見る目が厳しくなるなか、安倍首相も小池都知事も「目に見えない敵」との戦いに勝利し、「2021年には完全なかたちでの東京オリンピックを目指す」という。新型コロナウイルスを「目に見えない敵」と表現することで、国民の警戒心を高めようとの考えだろうが、いくら緊急事態宣言を発しても、それだけでは国民の側もなかなか本気で戦う気が起きないだろう。第一、「敵を知り、己を知れば、百戦危うからず」の教えに反する。

 未曾有の敵との戦いに勝つには、まず、人類にとって感染症を引き起こす病原菌が地球上には数知れず存在していることを知る必要がある。動物から人間に感染する病気で世界的に蔓延した事例は、今世紀だけでもSARS、MERSについで3度目である。中国感染症研究センター(CCDC)とアメリカ国際開発庁(USAID)の専門家によれば、「動物から発生する未知の病原菌の数は170万種に達する。そのうち、50万種類は人への感染があり得る」とのこと。

 要するに、世界で人口が急速に増え、食糧を確保するために森や林が切り拓かれ、人やモノの移動が飛躍的に拡大した結果、それまで人類に知られていなかった病原菌も活動が活発になり、人に災いをもたらすようになったに過ぎない話なのである。1960年代には30億人だった世界の人口は倍以上の80億人に近づいている。グローバル化の影響で、人も食糧となる動物も世界を駆けめぐる時代である。

(つづく)

<プロフィール>
浜田 和幸(はまだ・かずゆき)

 国際未来科学研究所主宰。国際政治経済学者。東京外国語大学中国科卒。米ジョージ・ワシントン大学政治学博士。新日本製鐵、米戦略国際問題研究所、米議会調査局などを経て、現職。2010年7月、参議院議員選挙・鳥取選挙区で初当選をはたした。11年6月、自民党を離党し無所属で総務大臣政務官に就任し、震災復興に尽力。外務大臣政務官、東日本大震災復興対策本部員も務めた。最新刊は19年10月に出版された『未来の大国:2030年、世界地図が塗り替わる』(祥伝社新書)。2100年までの未来年表も組み込まれており、大きな話題となっている。

(2)

関連記事