2024年12月23日( 月 )

ポスト・コロナ社会(2)

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いまさらながら「一極集中」を問う

 さまざまな災害は、その社会の最も「脆弱な側面」を非情で冷徹な手段であらわにしていく。コロナ感染を防ぐキーワードは「3密」である。生活の場における「密集・密室・密接」の3要件がすべてそろうのがニューヨーク、東京、大阪といった大都市であり、現在、感染が最も拡大している場所である。今回のコロナ感染は、これからの「都市」のあり方にも大きな問題を投げかける。

 コロナ以前に話をもどそう。昨年末、NHKは一週間におよび首都直下大地震の特別番組を放送していた。30年以内に発生する確率が70%という大震災を、CGを駆使し、迫真の構成で訴えていた。この状況はコロナにかかわらず、今も変わっていない。

 震災被害を拡大する最大の要素が「密集」であり、その後の復興をさまたげる大きな要因が政治機能や本社機能の「一極集中」である。2020年のオリンピックの狂乱が、この密集に拍車をかけていた。これでもかと言わんばかりに積層する渋谷、丸の内などの再開発は「過密」以外の何物でもない。わずか数週間のイベントのために巨額の費用をかけ、競技施設や来訪者のための宿泊施設などを整備してきた。同時に、開催以前から1964年の東京オリンピックと異なり、開催の意義が国民に共有されず、盛り上がりに欠けていたのも事実だろう。

 1970年の大阪万博で、世界の英知を一カ所に集め「博覧」する意味が終焉し、情報社会へ急激にシフトしたように、4年に一度、開催都市に「密集」状態をつくり、限られた「臨場感」を商品化し、莫大な放映権を生むオリンピックそのもののあり方が問われていた。コロナ収束後に、過去の遺産のようなオリンピックを開催する意義を見出すことができるだろうか。今、コロナがとどめをさしている。そして首都直下型大地震が待ち構えている。

 コロナの直前まで、博多駅前の西日本シティ銀行本店について考えていた。世界的建築家、磯崎新氏による傑作であり、福岡市の都市景観の重要な資産である。だがすでに解体し、再開発することが決定している。「天神ビッグバン」とともに「博多コネクティッド」と称され、駅周辺の容積率を緩和し、経済原理にのっとり、最大限の土地活用をめざし東京を追随している。私は「守銭奴の愚行」と述べたが、今の状況を考えれば決して間違ってはいないだろう。

 設計当時の1968-1972年の4年間、磯崎氏は事務所を東京から福岡へ移転させていた。「世界の建築家で注目すべき人間が一国の首都に住んでいるのはパリと東京だけ…」と述べ、文化活動の東京一局集中に決別していた時期があった。その当時、西日本新聞が音頭を取り、民間主導の「九州自治州への提言」などをまとめ、九州からこの国の姿を変える血気盛んな運動を展開し、磯崎氏も参加していた。その後2016年、幻となった「福岡オリンピック」の計画は磯崎氏の手によるものである。首都ではなく、地方でオリンピックを開催する意義を問い、常設でなく仮設の競技施設などを提案していたが、あえなく「夢」となった。

 磯崎氏は今、東京からさらに距離を置き、沖縄に住んでいる。コロナの感染拡大防止、経済対策をめぐって中央政府の無能さ、危機管理能力の無さが際立ち、さまざまな判断を地方自治体の首長に丸投げしている。その自治体は、ここぞと言わんばかりにリーダーシップのアピール合戦である。学校の9月入学という教育改革を検討するならば、再度、一局集中を是正する「道州制」などの議論を、収束を前提に再燃させる絶好の機会であろう。

 コロナ収束後の都市のあり方は激変するだろう。今、都市の中心部はゴーストタウンとなり活気が失われた。多くの専門家が指摘するように在宅、リモートワーク、キャッシュレスなど非接触型の生活様式は加速度的に普及するだろう。自宅が労働の場となり、都心のオフイスが空白となれば、都市とは一体なんだったのか。地価の高い場所にオフイスを構え、通勤することが無意味となり、資産としての不動産の意味も失われる。都市を単に情報の集積と処理、不動産投機による収益の場と考える従来の視点は、完全に否定されたのではないか。今に始まったことではなく、アメリカの巨大企業GAFAなどの本社は都心の一等地ではない。また、徳島県の神山町や美波町など過疎の集落にIT起業家が集結している例も全国に多々ある。一方で、ヨーロッパの都市は、14世紀のペストのように壊滅的な疫病に襲われても、都市の魅力は失せてこなかった。都市の価値は3密である。コロナ収束後でも都市が存在する理由こそ、新たな3密の付加価値である。

 ポスト・コロナの社会とは、東京から人々を「引っ剥がす」好機と考え、よりその動きを加速させるべきである。リモートワークの可能性は自治体首長の反乱(リーダー的アピール)を契機に地方創生の実を取り、道州制などの議論を再燃させる。それが全国規模の「敗戦処理」ではないだろうか。

(つづく)
【佐藤 俊郎】

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