2024年11月23日( 土 )

【凡学一生のやさしい法律学】自民党総裁選の意味するもの(2)

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(1)議院内閣制の最大の罪悪~総理大臣の大儀なき国会解散

 行政権と立法権が対立したとき、国会は内閣不信任を決議し、それに対抗して総理大臣は国会を解散する。この制度は本来であれば、国会と内閣の健全な抑制とバランスを前提としているが、すでに解説した通り、国会の多数派が内閣を組閣する議院内閣制では、国会と内閣が対立するという構図がそもそも存在しない。

 それにも関わらず、総理大臣が国会を解散する理由は、国会議員の任期満了が4年ごとには必ず訪れるため、もっとも多くの議席を有する政党にとって都合の良い時期に総選挙を実施するという「党利党略」のみである。世にいう、「大義なき解散」である。

 現在の自民党には長期政権による「おごり」の結果として、多数の政治的腐敗や政治犯罪問題が山積している。

 とくに巨額である河井夫妻買収事件の公訴が提起されたが、河井夫妻の有罪が確定となれば、政党交付金が原資となった事実も認定される可能性が高い。そのため、自民党は党利党略上の理由から、河井夫妻の刑事裁判が確定する前、佐川元国税庁長官に対する民事賠償裁判の判決が出揃う前に解散総選挙に打って出るという行動に早くも出ている。

 新型コロナウイルス感染症による政治経済の停滞は、本来ならば政治の責任とはいえない部分があるが、結果を重視する政治の世界では、このままでは感染症対策の失政が「政治の責任」として主張されるだろう。

(2)問題のさらなる本質

 なるべく早い総選挙を自民党が望むのは、十分な理由があるのだ。森友・加計学園事件、桜を見る会の公文書隠蔽破棄事件、河井夫妻買収事件、IR誘致をめぐる贈収賄事件などが選挙の争点となることは不可避であるが、河井夫妻の判決が出る前と出た後では、これらの事件への国民の批判には天国と地獄の差がある。自民党にとって不都合な事件として伊藤詩織事件もある。

 しかし、この状況では国会議員選挙は芸能人の人気投票にほぼ等しいと言えるだろう。タレント芸人はスキャンダルが報道された途端、表舞台から消え去るものだ。国会議員にも同様のことが当てはまる。このことは国民が国会議員の実態を知らず、そのうえで「人気投票」を強いられているという実態を意味しており、これはそのような状況を常につくり出してきた日本のマスコミによる報道姿勢に起因している。

 不正に関与した国会議員は、当選後には必ず選挙を「禊(みそぎ)」と言い換えるものだ。つまり過去の不正や腐敗は、選挙によって「禊」を受けたと主張するのである。こんな馬鹿げた論理が堂々とまかり通るのも、商業主義に毒されたマスコミ報道機関の国民を裏切る姿勢が基になっている。禊という概念そのものが、選挙とは無関係であり、選挙には禊の効果などもともとないことは当然であるため、とんでもない無罪放免論である。

 さらに、最大の政治責任問題を引き起こす事象が、東京オリンピック中止の問題である。もともと東京都民は東京でのオリンピック開催には消極的であったが、政治や利権をよく知らないアスリートたちが、「アスリートファースト」という美名のもとに担ぎだされ、オリンピックの東京開催を盛り上げる道具とされた。

 オリンピック誘致を勝ち得た理由は、政治的な常識に従えば、いまだ闇のなかにあるロビー活動である。これらの闇は、オリンピック開催が中止となれば、無駄となった膨大な出費に対する政治責任の追及にともなって、水面下から浮上してくる可能性が高い。そのためにもオリンピック開催中止が正式に決定される前に、総選挙を実施するつもりなのだ。

 政治評論家を名乗る有名な弁護士の橋下徹氏のテレビでの解説は、「木を見て森を見ない」内容に終始していた。自民党総裁選は与党内の当たり前の権力闘争で、その直後の解散総選挙も政治の世界での与党と野党間の権力闘争であり、当たり前のことであるとした。

 橋下氏は、政権与党の政治選択を、政治家として当然の行為である権力闘争という「正当業務行為」に言い換え、隠された真の目的・背景を政治的美名にすべて言い換えてしまった。全国に数多い橋下氏のファンは、「橋下マジック」により、隠蔽された不都合な真実を永久に知ることはなくなった。

(1)-(後)

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