2024年11月24日( 日 )

支離滅裂・悪行三昧菅義偉内閣

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 NetIB-Newsでは、政治経済学者の植草一秀氏のブログ記事を紹介する。今回は、「桜疑惑など、菅内閣発足とともに安倍晋三氏周辺への捜査が進展しているのは単なる偶然と考えられない。菅首相が安倍氏の影響力をそぎ落とすために安倍氏周辺捜査を誘導している可能性が高い」と訴えた11月26日付の記事を紹介する。


安倍晋三前首相の虚偽答弁が明らかになった。
桜疑惑について、安倍前首相は国会で再三、次のように述べていた。

安倍事務所は前夜祭の収支に関わっていない。
契約主体は前夜祭参加者で参加者とホテルが飲食の契約を行っており、安倍事務所は関与していない。
安倍事務所は受付で参加費を徴収したが、その参加費はそのままホテルに渡している。
参加者にはホテルが発行した領収書が手交された。
安倍事務所は前夜祭に関与しておらず、ホテルとの資金収支は存在しない。

ところが、事実は違った。
安倍晋三氏の事務所である「安晋会」がホテルと契約を締結しており、前夜祭費用を参加者が支払った参加費では賄うことができず、「安晋会」が不足資金を補てんして支出していた。
このことは、安倍晋三氏の資金管理団体が選挙区の有権者に寄附を行ったもので公職選挙法に抵触する疑いが濃厚である。

また、「安晋会」は前夜祭の資金収支を政治資金報告書に記載しておらず、政治資金規正法上の虚偽記載に該当する疑いが濃厚である。
安倍晋三氏は秘書が独断で判断して行動したもので、自分自身は不正に関与していないと主張している。

しかし、この主張を信じる者はほぼ皆無。
一部の腰巾着発言者が「安倍晋三氏は多忙で事実関係を把握できていなかったのではないか」と述べているのが例外で、正常な判断力を有する者は安倍晋三氏の弁明を単なる言い逃れとしか捉えていない。

驚くべきことは、この事実が明らかになったにもかかわらず、安倍晋三氏を糾弾する総意が国会で形成されないこと。

一国の総理大臣に関する疑惑が浮上し、このことについて、総理大臣が国会において明確に説明していた内容が、完全虚偽であることが判明したのである。
議会として虚偽発言を行った元総理大臣を糾弾すべきことは当然だ。
米国で大統領が完全虚偽発言をしたことが明白になれば、与党、野党に関係なく、議会がその大統領を糾弾するはずだ。

しかも、内容は単なる虚偽発言にとどまらない。
公選法違反、政治資金法違反という重大な違法行為に関わることだ。
選挙区の有権者に対する利益供与の問題で、これまでにどれだけの議員が辞職に追い込まれたか。

政治資金収支報告書への記載の問題では、民主党代表の小沢一郎氏が執拗な攻撃を受けた。
西松建設に関連する政治団体からの寄附を事実通りに収支報告書に記載した行為が「虚偽記載」だとされて秘書が逮捕された。
2004年10月に代金決済があり、05年1月に移転登記が完了した不動産取得についての収支報告書への記載が05年収支報告書においてなされたことが虚偽記載だとされて、現役国会議員を含めて3人が逮捕された事案もあった。

いずれも完全なる冤罪であったが、不動産取得の収支報告書への記載については、不当な裁判によって元秘書が有罪とされてしまった。

小沢元代表が巻き込まれた冤罪事案と比較しても、今回の安倍晋三氏資金管理団体による公選法違反、政治資金規正法違反事案は著しく悪質であり、まさに、「政治とカネ」問題の本質に関わる重大事案だ。
国会質疑で、ホテルと事務所との間に見積もりや支払いに関する書類が存在する可能性が高いことが指摘され、安倍元首相は何度も確認を促されている。

安倍氏は事務所の総括責任者の立場にあり、事務所がホテルとどのような契約を締結していたのかどうか、ホテルとの間でどのような資金収支があったのかどうかを把握する責任を負っている。
国会で問題が取り上げられた時点で、事実関係を確認しなかったことはあり得ない。

仮に秘書が独断ですべての情報を隠蔽して真実を安倍元首相に伝えていなかったのなら、安倍氏は担当秘書を懲戒解雇し、刑事告発していなければおかしい。
要するに安倍晋三氏が国会で意図して虚偽発言を繰り返したと推定するのが妥当なのだ。

一国の首相が刑事犯罪に関わる重大事案について、国会という国権の最高機関において虚偽発言を押し通した罪は万死に値する。
この問題の是非については与党も野党もない。
全国会議員が安倍晋三氏の議員辞職を求める決議を行うことが必要だ。

繰り返しになるが、驚くべきことは、このような重大事実が明らかになっているにもかかわらず、菅義偉首相が無関心、非関与を貫いていること。
菅義偉氏は安倍元首相と同じ発言を国会や記者会見で繰り返した。

菅氏は安倍氏に確認して安倍氏の発言をそのまま伝えただけだとして、責任を安倍晋三氏に押し付ける構えを示すが、菅氏自身が虚偽の事実を述べた事実は消滅しない。
国会での予算委員会審議に幕が引かれたと伝えられているが、この問題をこのまま放置するなら、野党もその責任を負うことになる点を見落としてはならない。

菅義偉氏は首相の椅子を奪取するために、権謀術数を駆使したと見られている。
首相奪取レースにおける敵対者は石破茂氏と岸田文雄氏だった。
菅氏自身は安倍後継への意欲を問われると、その考えがないことを強調し続けた。
これも完全虚偽だった。

菅義偉氏は二階俊博氏と連携して首相奪取レースを勝ち抜いた。

二階氏は石破氏と連携する素振りを示して安倍元首相の警戒心を煽った。
その結果として、安倍氏が石破氏にだけは首相ポストを譲らないとの判断を強めた。
党員投票なしの自民党総裁選は石破茂首相を潰すために提示された案である。

残る最大のライバルは岸田文雄氏。
この岸田氏の影響力を削ぐために19年7月参院選での溝手顕正氏の落選に総力が注がれた。
溝手氏は岸田派の重鎮であり、溝手氏を落選させれば、岸田氏の影響力低下を誘導できる。

そのために、河井案里氏が擁立され、自民党本部は1億5,000万円もの資金を河井陣営に投入した。
この1億5,000万円の資金の出所も重要問題だ。
河井克行・案里夫妻事件で、本来は当然のこととして自民党本部などへの家宅捜索が必要だが、家宅捜索はまだ実施されていない。
河井案里氏の当選=溝手顕正氏の落選に総力を注いだのが菅義偉氏だった。

さらに、岸田氏への攻撃はこれにとどまらなかった。
コロナ対策としての条件付き30万円給付を最終的にまとめたのは岸田文雄政調会長だった。

ところが、政府案が予算案として確定した段階で、激しい揺さぶりが生じた。
条件付き30万円給付を条件なし10万円給付に変更することが強行に展開された。
この政策転覆を推進したのが二階俊博氏と菅義偉官房長官である。

両氏は緊密な関係を持つ公明党と連携して30万円給付を10万円給付に転覆させた。
このことが、岸田氏が首相奪取レースから脱落した決定打になった。
さらに、菅義偉氏は岸田派の派閥組織である宏池会重鎮の古賀誠氏との連携を密にして岸田氏を孤立させることにも成功した。

6月19日に安倍・菅・甘利・麻生の3A+Sの会食があった。
コロナ自粛後、会食が解禁された最初の会合だ。
この時点から安倍元首相は辞意をほのめかしていた。

安倍氏は森友、加計、桜、河合氏夫妻事件のすべてに深く関わってきた。
コロナ対応では失態続きであった。
内閣支持率は急落し、首相辞任に追い込まれた。
その際、最大の留意事項になったのが、訴追回避だった。

石破氏が後継首相になればすべての事案についての再調査が行われる可能性が高まる。
岸田氏では再調査を防ぐことが危うい。
すべての問題に蓋をできる後継者として菅氏が選択されたと考えられる。

しかしながら、菅氏は単なるワンポイントリリーフに甘んじる人物ではない。
当然のことながら、本格政権を目指す。
その際に支柱の役割をはたすのが二階俊博氏。

米国大統領選にバイデンが就任することは菅氏にとっての朗報である。
トランプ再選になれば、安倍晋三氏が奥の院から口を差し出す可能性が高まる。
バイデン勝利は安倍晋三氏にとっての悪夢であったと言ってよいだろう。

菅氏に残された課題は安倍氏の影響力排除。
菅内閣発足とともに安倍晋三氏周辺への捜査が進展しているのは単なる偶然と考えられない。
菅首相が安倍氏の影響力をそぎ落とすために安倍氏周辺捜査を誘導している可能性が高い。

他方、党務では二階俊博氏がほぼ党内の実権を掌握しつつある。

安倍晋三氏問題を全面的に解明し、安倍晋三氏の責任を問うべきことは当然だが、そのすぐ脇で菅義偉氏が自分には関係のない問題として安倍氏関連事件を処理しようとしていることを見落とすわけにはいかない。

「好事魔多し」の言葉を菅義偉氏が実感することになる日は遠くない。


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植草一秀の『知られざる真実』

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