2024年11月22日( 金 )

モバイル産業スパイ事件騒動録~楽天モバイルに引き抜かれた転職者が、ソフトバンクの5G情報を持ち出していた!(後)

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 高速通信規格「5G」に関する技術情報を不正に持ち出した疑いがあるとして、ソフトバンクから楽天モバイルに転職した男が1月12日、警視庁に逮捕された。人材の引き抜き、情報の持ち出しをめぐり、ソフトバンク(株)と楽天モバイル(株)が激突する大騒動が勃発した。

IT業界は破格の報酬による引き抜きバブルの様相

 楽天モバイルによる基地局の整備を担う線路技術者の引き抜きは、氷山の一角でしかない。優秀な人材は、各社とも是が非でもほしい。IT業界では、人工知能(AI)など先端技術者に通じたエリートの転職、引き抜きは日常茶飯事だ。有能な人材を求めて、破格の報酬が飛び交い、さながら「引き抜きバブル」の様相を呈している。

 転職、引き抜きが広がる背景には、AIなどの技術革新にともない、各産業でビジネスモデルが変革期を迎えている事情がある、大企業といえども安住していては将来が見えず、新規事業を開拓する必要に迫られている。とはいえ、多くの企業では社内に先端技術に通じている人材が見当たらないのが実情だ。

 おじさん世代には、AI、あらゆるモノがつながるIoT、金融とITを組み合わせたフィンテックなどの意味はさっぱりわからないだろう。そこで、IT業界から引き抜いてくる。

 AIやIoTなど開発競争が激化する業種では、引き抜き競争が白熱しており、給料の2倍のオファーを受ける人もいるという。

 技術者を中心にした他社への人材流出に、各社とも頭を悩ましている。対策として守秘義務契約を交わしているが、何の役にも立たない。頭のなかにあるものまで制限をかけられないためだ。一定期間、同業他社に行けない契約があっても、関連会社に入社するなどの抜け穴はいくらでもある。転職者の良心に頼る以外、打つ手がないのが実情だ。

 楽天モバイルの転職者による産業スパイ事件は、米国にもあった。

元Google社員による自動運転技術の盗用事件

 ロイター通信(2019年8月27日付)は、「米連邦検察、元Google社員を起訴 自動運転技術の盗用で」と報じた。

 起訴されたのは、かつてGoogle系ウェイモで自動運転開発をしていたアンソニー・レバンドウスキー被告。センサー技術などのウェイモの自動運転車技術をダウンロードして盗み、盗んだ技術を米ライドシェア大手のウーバーテクノロジーズに持ち込んだとみられている。

 

 レバンドウスキー被告は営業秘密の窃盗の罪に問われたのだ。

 17年にGoogleが、レバンドウスキー氏が転職先のウーバーに機密情報を漏らしたとしてウーバーを相手どり民事訴訟を起こした。この民事訴訟では、訴えられたウーバーは18年に2億4,500万ドル(約270億円)相当の株を譲渡して和解。自動運転トラックの開発も撤退に追い込まれた。ウーバーとは和解したものの、Googleはレバンドウスキー氏を窃盗で訴えた。

 シリコンバレーでは優秀な人材はライバル企業間を渡り歩く。報酬を上げる最短手段であるほか、1つの会社に長く在籍していると無能と思われる風土があるためだ。

 知的財産はこれまで技術者個人のスキルと見られる傾向が強く、その技術でベンチャー企業を起こすのが普通で、企業からの技術の持ち出しなどに厳しくなかった。

 この事件について、検査官は「転職は自由だが、勤務先の財産をポケットに入れて退職するのは自由ではない」と述べたという。米中の技術覇権争いの影響で、米国の経済スパイ法による営業秘密侵害罪として対処していく方針が強化されたためと報じられている。

 Googleとウーバーの争いは、優れた技術者の獲得競争が過熱していることを浮き彫りにした。楽天モバイルに転職した合場邦章容疑者が、ソフトバンクの5Gの基地局の技術情報を持ち出したのと、まるっきり同じ構図だ。

 ソフトバンクは、流出した情報について「楽天モバイルがすでに利用している可能性が高い」として、営業秘密の利用停止や廃棄などを求める訴訟を起こす方針だ。楽天モバイルは「(合場容疑者が)前職により得た営業情報を当社業務に利用していたという事実は確認されていない。5Gに関する技術情報も含まれていない」とコメントしている。

 裁判で営業秘密の利用停止や廃棄が認定されれば、楽天モバイルが猛スピードで進めている5Gの基地局の整備にブレーキがかかる。楽天モバイルが受けるダメージは小さくない。

(了)

【森村 和男】

(中)

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