2024年11月24日( 日 )

第3次補正予算組み替え必要不可欠

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 NetIB-Newsでは、政治経済学者の植草一秀氏のブログ記事を抜粋して紹介する。今回は、「第3次補正予算の『ポストコロナに向けた経済構造の転換』も『防災・減災・国土強靭化』も政治資金に群がる政・官・業の利権支出だけが目的の不正支出だ。宿泊療養施設の確保や検査体制確保などという、最優先されるべき施策に予算が計上されていない」と訴えた1月19日付の記事を紹介する。

ようやく通常国会が召集され、菅義偉首相が施政方針演説を行ったが、昨年の所信表明演説と変わらず、役所の提出した政策のつなぎ合わせに終わった。
演説の末尾に提示したエピソードは、梶山静六内閣官房長官の言葉。

「今後は少子高齢化と人口減少が進み、経済はデフレとなる。
国民に負担をお願いする政策も必要になる。
必要性を国民に説明し、理解してもらわなければならない」

「日本は経済発展を遂げたが、資源の乏しい日本にとって、これからがまさに正念場となる。
国民の食いぶちをつくっていくのがおまえの仕事だ」

この言葉を紹介して施政方針演説を締めくくった。

「国民に負担をお願いすること」と「国民の食いぶちをつくっていくこと」が自分の仕事だとアピールしたかったのだろう。
「コロナ対策で懲役刑を科すこと」と「GoTo事業を今後も推進すること」を正当化するための主張だとすれば、完全な勘違いだ。

政府の役割は、
「国民の命と暮らしを守ること」
「そのための負担を適正に求めること」
だ。

いまの日本で「国民の命と暮らしを守る」ために為すべきことは、コロナ感染を収束させること。
これが最優先課題だ。
コロナ感染を収束させれば、経済は自律的に回復する。

格差拡大の時代における「適正な負担の求め方」は「能力に応じた負担」。
消費税は能力の大きな者に軽く、能力の小さな者に重い課税方式。
消費税の比率を下げて、能力の大きい大資本と富裕層に相応の負担を求めることが適正だ。

コロナ感染が拡大するなかで政府が力を注ぐべき最大の課題は、すべての国民に対する生活支援。
すべての国民が最低限の生活を営めるようにすることが政府の責任。
このことは憲法が定めている。

感染収束を最優先し、すべての国民の生活を支えること。
もちろん、コロナ感染者に対する救済を徹底すべきことはいうまでもない。

感染収束に向けての基本は「検査と隔離」。
検査を広範に実施すること。
この検査によって感染者をもれなく捕捉する。
感染者を症状によって入院または宿泊療養させる。
そのための十分なキャパシティーを確保することが感染対策の基本だ。

国民の暮らしを守るには、「生活保障制度」の拡充が必要不可欠。
生活保護制度は、利用条件を満たす人の2割以下しか利用していない実態がある。
生活保護制度利用を妨害する有形無形の工作が施されている。

利用要件を満たす人が1人残らず制度を利用することを、政府が責任をもって実現すべきだ。
そのための第一歩として「生活保護」の用語を「生活保障」に変えることが必要だ。

GoTo事業は最悪の政策対応。
利益を供与される者が著しく偏っている。
医療従事者、介護従事者など、コロナ感染拡大でもっとも尽力している人々がまったく恩恵を受けない。

基礎疾患を持つ人、高齢者はGoToによって命の危険に晒される。
菅内閣はGoTo事業を強引に推進して感染爆発を引き起こした。
通常国会でGoToトラブル事業の中止を決めるべきだ。

英国でコロナ変異種が確認されたにもかかわらず、菅首相は1月13日まで外国人の入国規制措置を取らなかった。
そのために、変異種の日本国内における市中感染が確認された。
菅首相の責任は重大極まりない。

施政方針演説でコロナ感染の収束、国民の命と暮らしを守ることを明確に言明すべきだったが、ほぼ零点の演説内容になった。
日本国民は政治刷新を2021年の最重要課題に位置付ける必要がある。

特措法改正については秋の臨時国会の会期中の昨年12月2日に野党4党(立憲民主、国民民主、共産、社民)が法案を提出した。
ところが、菅内閣は臨時国会を閉会し、法案を審議しなかった。

年初の1月2日に首都圏の4知事が緊急事態宣言発出を要請したとき、菅内閣は発出に後ろ向きの姿勢を示し、特措法改正が先行されるべきだと主張したと伝えられた。

緊急事態宣言は事態が緊急を要するから発出するもの。
特措法改正が優先されるべきと言っても、国会を閉会しているのなら、法改正などできない。
結局、世論の督促を受けて、菅内閣は緊急事態宣言発出に追い込まれた。
臨時国会を延長して特措法を改正しておくべきだった。

特措法改正案には時短命令に従わない飲食店に過料、入院勧告に従わない感染者に懲役刑を科す条文が盛り込まれた。
懲役刑まで定めている。

その一方で、感染拡大の政策を強行して感染を拡大させた政府の責任を問う条文がない。
あまりにもバランスを欠いている。
感染を拡大させる間違った政策を推進して感染を拡大させたら、その責任者に懲役刑を科すことを検討しなければおかしい。

政策運営を失敗して感染を爆発させることに対する責任追及がなく、感染拡大の被害を受けて、やむにやまれず営業を続ける事業者に過料を科すことはバランスを欠く。

感染が確認されて入院の勧告が出たにもかかわらず、それに従わない人に懲役刑を課すなら、感染が確認されて、入院措置か宿泊療養施設への収容を希望するのに、何らの手当ても受けることなく放置される場合には、放置をもたらす政策責任者に懲役刑を科すことを検討すべきではないか。

安倍内閣が新型コロナ感染症を第2類相当指定感染症に区分することを閣議決定したのは昨年1月28日。
冬季の感染再拡大は予想されていた。
1年間、本当に必要なことを何1つ実行してこなかった。
ただひたすら、利権支出のGoToを強行推進し、感染拡大をもたらしてきただけ。

罰則規定を盛り込む特措法改正案を審議する前に、政府の政策失敗責任を明らかにすべきだ。

田村憲久厚労相はPCR検査が「費用対効果がよくない」と発言したが、何を根拠にそう述べるのか。
感染を爆発させたGoToは、費用対効果が優れているというのか。
PCR検査の「費用対効果」が悪いとする算出根拠に使われているPCR検査費用は一体いくらか。

民間検査ではPCR検査が1回2,000円で可能。
政府が「費用対効果」を重視するなら、経済性の高い検査キットを利用すべきことは当然だ。

通常国会ではコロナ感染症対策としての「検査」と「隔離」についての審議を優先して行うべきだ。
「検査と隔離」のために必要な政府支出を計上するのが補正予算の役割だ。

ところが、通常国会冒頭で審議される20年度第3次補正予算は、感染爆発が明らかになる前に策定されたもの。

「ポストコロナに向けた経済構造の転換」が11.7兆円で最大の項目。
「新型コロナウイルス感染症の拡大防止策」が4.4兆円。
「防災・減災・国土強靭化」3.1兆円だ。

感染爆発を受けての宿泊療養施設の確保などという、最優先されるべき施策に対する予算が計上されていない。
すべての国民が、いつでもどこでもすぐに検査を受けられる体制確保も含まれていない。

その一方でGoToに、さらに1兆円もの血税が投下される。
特措法が急を要するなら特措法を十分に審議し、そのうえで、必要な政策対応を盛り込んで補正予算審議を行うべきだ。
補正予算の内容を見直しもせずに、そのまま可決成立させることはおかしい。

「ポストコロナに向けた経済構造の転換」も「防災・減災・国土強靭化」も政治資金に群がる政・官・業の利権支出だけが目的の不正支出だ。

野党は通常国会で菅内閣の基本姿勢を厳しく質し、政策の適正化を実現させなければならない。


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植草一秀の『知られざる真実』

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