バイデン政権下の米中関係と習国家主席の来日計画の行方(後)
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国際政治経済学者 浜田 和幸
バイデン大統領は「価値観を共有する同盟国と連携して、中国への圧力を強める」との発言を繰り返しているが、実現は難しいだろう。ブリンケン国務長官もケリー特別代表も、環境問題への対応では「中国の協力が必要」との立場を崩していない。実は、それ以外にもアメリカが中国との直接対決を回避しなければならない事情がある。
それはアメリカが中国から大量のレアアースを輸入していることである。アメリカのエネルギーや自動車産業にとって、中国からのレアアースは欠かせない。しかも、ミサイルや原潜など軍事関連にも中国産レアアースは不可欠となっている。
国家の安全保障上の隠された中国依存という状態に手足を縛られているのである。そのため、バイデン大統領は就任そうそう、トランプ前大統領が禁止した中国製エネルギー配電システム機材の輸入を復活させた。また、山東省のエネルギー会社による米国内の油田、ガス田の買収も承認したのである。表の対中強硬姿勢とは対照的に、裏では対中融和策に余念がない。
これは氷山の一角に過ぎない。なぜなら、アメリカ企業の多くは中国市場への依存度が高く、上海にあるアメリカ商工会議所の最新調査の結果を見ても、アメリカ企業の80%超は「中国に残る」と答えているからである。新型コロナ感染拡大やサプライチェーンの問題にもかかわらず、3億人の豊かな中間層を誇る中国の購買力には抗えないというのが、アメリカ企業の本音だろう。何しろ、24万5,000人のアメリカ人が、中国市場のおかげで雇用を維持できているからだ。
バイデン政権の本音は、「今の時点で中国と正面切ってことを構えるのは得策ではない」というもの。バイデン大統領の側近で国家安全保障担当補佐官のサリバン氏は、「アメリカは国内問題をまず改善すべきである。国内を分断・分裂状態に陥りさせている人種や地域の不平などを克服し、機能不全になってしまった地域経済の回復に取り組むのが先決だ」との見解。1972年のニクソン大統領訪中時の通訳を務めたフリーマン氏に至っては、「アメリカにとっては国内問題の解決が最優先されるべきだ」と言及している。
確かに一理あるだろう。しかし、TPP(環太平洋パートナーシップ協定)への再加入もためらうバイデン大統領を尻目に、習近平国家主席はRCEP(地域的な包括的経済連携協定)加入をはたし、今ではTPPへの加入にも積極的な姿勢を見せるようになった。中国の巨大な国内市場をテコに、世界最大の自由貿易圏を取り込もうとする戦略に違いない。
国境問題で対立するインドとの間でも、貿易量は増加の一途。インドにとって中国は最大の貿易相手(2019年に759億ドルだったが、2020年には770億ドルへ拡大)となった。
また、南シナ海での中国の動きをけん制するため、最新鋭の原子力潜水艦や軍艦を同海域に派遣したフランスであるが、マクロン大統領と習近平国家主席のトップ会談を通じて、気候変動やコロナ対策で協力することに合意。それだけでなく、両国が協力して中央ヨーロッパや東欧諸国の市場開発にあたることにもなった。
習近平国家主席は「フランスを欧州最大の金融ハブにしたい」という。中国は国内市場を武器にフランスを取り込み、「中国とEUは世界の2大パワー」という新戦略を打ち出しつつあるわけだ。その背景には、フランスの石油メジャー・トタル社がベトナム沖で油田開発に着手しようとしているため、ベトナムとフランスの共同事業を潰そうとする狙いも隠されていると思われる。実に強かな中国外交である。
15年に始めた「中国製造2025」や、08年から実施している世界の頭脳を集めるための「1,000人計画」に対する海外での評判が悪く、中国批判の材料となっている。このため、中国政府は「やり過ぎが失敗の原因だった」と受け止め、今後は「本音を隠し、静かに実を取る」という「あいまい路線」へ方向転換する模様だ。
習近平国家主席の訪日計画は宙に浮いたままである。だが、21年8月末にシンガポールで開催される世界経済フォーラムに、バイデン大統領や習近平国家主席も参加する見込みのため、菅総理も両首脳と直接面談する機会として参加を検討中という。
その場で日米中3カ国のトップ会談が実現すれば、年内あるいは年明けの習近平国家主席の来日につながる可能性が出てくるだろう。問題は、菅総理が強かな米中両国の最高指導者とどこまで渡り合えるかということだ。
(了)
<プロフィール>
浜田 和幸(はまだ・かずゆき)
国際未来科学研究所主宰。国際政治経済学者。東京外国語大学中国科卒。米ジョージ・ワシントン大学政治学博士。新日本製鐵、米戦略国際問題研究所、米議会調査局などを経て、現職。2010年7月、参議院議員選挙・鳥取選挙区で初当選をはたした。11年6月、自民党を離党し無所属で総務大臣政務官に就任し、震災復興に尽力。外務大臣政務官、東日本大震災復興対策本部員も務めた。最新刊は19年10月に出版された『未来の大国:2030年、世界地図が塗り替わる』(祥伝社新書)。2100年までの未来年表も組み込まれており、大きな話題となっている。関連キーワード
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