楽観的に準備し悲観に陥る菅内閣
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NetIB-Newsでは、政治経済学者の植草一秀氏のブログ記事を抜粋して紹介する。今回は、「感染収束を優先して、ブレないことが肝要なのだ。菅内閣は危機管理の鉄則に反して、楽観的に準備して悲観に転落している」と訴えた3月23日付の記事を紹介する。
菅義偉首相はギャンブル狂い。
そしてめっぽうギャンブルに弱い。昨年9月の内閣発足から5つのギャンブルに臨んだ。
そして、すべてに負けた。1つ目は日本学術会議の会員任命拒否。
日本学術会議法は学術会議が推薦した者を内閣総理大臣が任命することを定めている。法律制定時の国会審議で内閣総理大臣には任命拒否権がないことが確認されている。
ところが、菅義偉氏は内閣総理大臣の大権を強調したかったのだろう。
あえて、6名の候補者を任命拒否した。
強い政治力を示すギャンブルに突き進んだ。ところが、この対応が炎上した。
憲法が保障する「学問の自由」侵害に直結する重大問題。
戦前の経験を踏まえて学術会議の独立性が重視されてきた。
ここに踏み込んで炎上した。2つ目はGotoトラベルの強行。
Gotoは菅氏肝いりの政策。
7月22日に見切り発車した。
日本の感染第2波は8月7日がピークだから、感染が拡大し、ピークに向かう直前にGotoトラベル始動を強行した。東京都はGotoトラベルに慎重姿勢を示した。
妥当な対応だ。
すると、菅氏は東京都をGoto適用除外にした。神奈川県はGoto適用だから首都圏を目的地とする旅行は東京泊を回避して横浜泊などにシフトした。
東京都への嫌がらせを実行したのである。10月1日にはGotoトラベルに東京が組み込まれた。
東京からウイルスが日本全国に運ばれるようになった。
11月から感染第3波が鮮明になった。
Goto即時停止が必要だった。ポイントは11月21日からの3連休。
感染抑止を優先するなら連休前のGoto即時停止以外に選択肢はなかった。ところが、菅義偉氏はGotoトラベルを12月28日まで全面推進した。
Gotoトラベルを推進しても感染爆発は生じない。
菅氏はギャンブルに突き進んだ。
そして討ち死にした。感染爆発が生じて緊急事態宣言の再発出に追い込まれた。
菅義偉氏は緊急事態宣言の発出も忌避した。
宣言を発出しなくても乗り越えられると判断した。
これもギャンブルだった。しかし、小池百合子東京都知事に緊急事態宣言発出を迫られて白旗を上げた。
「後手後手対応」に対する批判がさらに強まった。3つ目は外国人に対する入国規制強化。
菅義偉氏は入国規制を強化しなくても構わないと判断した。
12月中旬に英国で変異株が確認された。
外国人の入国を規制しなければ変異株が日本国内に持ち込まれる。菅氏は12月28日に入国規制強化を発表したが、入国の太宗を占めるビジネストラック、レジデンストラックの入国停止を行わなかった。
菅氏は緊急事態宣言発出に際してもビジネストラック、レジデンストラックの入国停止を排除した。
これもギャンブルだった。この賭けにも負けた。
結局、1月13日になって両者の停止に追い込まれた。さらに、五輪組織委員会の森喜朗氏の差別発言、山田真貴子内閣広報官の違法接待問題発覚後も菅義偉氏は両者を続投させることを決めた。
これもギャンブルだったが、これも負けた。すべての問題で、根拠の乏しい楽観論で突き進んで敗北している。
危機管理の鉄則は「悲観的に準備して楽観的に対処する」こと。
菅首相は楽観的に準備して悲観に終わっている。
危機管理に最悪の首相である。菅首相はコロナ感染第4波に対しても「超楽観論」に立脚して対応している。
人流変化は新規陽性者数に影響する。
データを検証すれば、両者の因果関係は明らかだ。秋の人流ピークは11月21日だった。
3連休初日である。
感染第3波が明確になり、人々は防衛行動を強めた。
政府が能天気でも人々は自衛の行動を示す。11月21日をピークに人流は低下に転じた。
人流が最低値を記録したのは12月31日。
年が明けて菅内閣が緊急事態宣言を発出したのは、人流がボトムを記録したあとだった。それでも、緊急事態宣言が発出されれば人々の行動抑制は補強される。
しかし、緊急事態宣言解除が話題に上れば、人々の行動抑制が緩む。
2月中旬以降、この傾向が鮮明になった。ここに季節的な要因が加わる。
3月から5月にかけて人流が拡大しやすい。
狭い空間に閉じ込められてきた人々が行動を一気に拡大させる。
このタイミングに緊急事態宣言解除が重なる。3月25日には五輪聖火リレー出発が予定されている。
五輪ムードを盛り上げ、五輪開催を強行すれば、菅内閣支持率も急回復する。
菅義偉氏はこの楽観論に立脚している。楽観的に準備して、その先の楽観的世界を夢想している。
五輪開催に成功すれば自民党総裁に再選され、衆院総選挙を乗り切れる。
あと3年の総理生活が転がり込む。楽観的に準備して楽観的世界を夢想している。
しかし、甘い姿勢が辛い結果をもたらす。
人流拡大は3週間後の新規陽性者数拡大につながる。
3月20日以降の人流拡大は4月10日以降の新規陽性者数拡大につながる。
すでに3月中旬から新規陽性者数は増加に転じている。感染の中心が変異株に移行するのも時間の問題だ。
4月、5月に新規陽性者数が急増すれば五輪開催が困難になる。
少なくとも有観客開催は難しくなる。
楽観的に準備して悲観に転落する。
「五輪終」のシナリオ。政府の最大の役割は何か。
政府の最大の役割は国民の命と暮らしを守ること。
五輪やGotoはその先の課題。菅コロナ対応三原則は
「後手後手・小出し・右往左往」
すべての対応が後手に回る。
政策の打ち出し方が小出し小出し。戦力の逐次投入は費用対効果を最悪にする。
そして、感染抑止と感染促進の間で右往左往。日本のコロナ被害は東アジアで最悪。
感染収束を優先して、ブレないことが肝要なのだ。
二兎を追って、結局、一兎をも得ず、ということになる。「楽観的に準備して悲観に転落する」リーダーは危機の時代に最悪。
政権刷新が最大急務になっている。
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