「政商」楽天、三木谷会長兼社長が大ピンチ~日米政府が中国テンセントから出資を得た楽天を監視する異常事態に!(後)
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楽天グループ(株)の三木谷浩史会長兼社長は、中国IT大手の騰訊控股(テンセント)子会社から出資を受けたことで、米国の虎の尾を踏んでしまったようだ。菅義偉首相とバイデン米大統領の日米首脳会議が4月16日、開かれた。対中国包囲網を築くべく、日米両政府は連携して楽天グループの監視を強めることで一致。「政商」として名を馳せた楽天グループのグローバル経営は曲がり角を迎えた。
赤字を垂れ流す携帯事業の起死回生策
楽天の三木谷浩史会長兼社長は起死回生の勝負に出た。4月1日、社名を楽天グループ(株)に変更。第三者割当増資行い、2,423億円を調達した。
日本郵政が1,500億円、中国ネット大手のテンセントグループが657億円、米小売最大手ウォルマート・ストアーズが166億円を出資。ほかに、三木谷氏の息子や娘らの資産管理会社(有)三木谷興産と(有)スピリットが合わせて100億円を拠出した。日本郵政が楽天の発行発行済み株式の8.3%を保有する4位株主、テンセントが3.65%の5位株主となり、ウォルマートは同株式の0.92%をもつ。
増資後の筆頭株主は三木谷家の資産管理会社、(同)クリムゾングループ(持ち株比率14.38%)、2位が三木谷浩史氏(同11.20%)、3位が妻の三木谷晴子氏(8.43%)と順位は変わらない。
資金使途は、携帯電話会社・楽天モバイル(株)の4G(第4世代移動通信システム)基地整備に1,840億円、5G(第5世代移動通信システム)基地局整備に310億円、4Gと5Gの共通の設備に250億円を投資する。合計すると、2,400億円。増資で調達する金額から手数料を除いたほぼ全額が、楽天モバイルの基地局設備に投資されることになっている。
基地局は、これまでKDDI(au)に月1,000~2,000円の費用を払って使わせてもらっていた。しかし、費用がバカにならないならないため、これをやめて、自前で基地局を設置することにした。
昨年4月に本格参入した携帯事業は、全国に基地局を広げている最中だ。しかし、基地局設置の前倒しなどによる先行投資の負担がかさんでおり、2020年12月期連結決算の純損失が1,141億円と2期連続の赤字となった要因は携帯事業の先行投資にある。自己資本比率は昨年末時点で4.9%と18年末に比べて5.6ポイント悪化した。数兆円単位の投資がかる携帯事業を展開するには、財務強化が課題だ。
三木谷氏が最も強いカードとされるスペードのエースとして切ったのが、日本全国に郵便局網をもつ日本郵政との提携だ。郵政は全国に2万4,000局の郵便局をもつため、郵便局の屋上に携帯電話の基地局を設置する。日本郵政のネットワークに段階的に担当者を派遣したり、特設ブースなどでオンライン申し込みを受け付けたりすることも想定している。
しかし、民営化したとはいえ、郵政株の過半数は政府が握る。公共性が高い郵便サービスを展開する郵政が特定の民間企業との間で、資本と業務の両面で幅広い提携関係を結んだことは、問題ありとされて物議を醸した。それにも増してテンセントからの出資は日米両政府の政治問題にエスカレートした。
「政商」三木谷氏が結びついた菅首相との関係が冷え込む
「政商」の異名が付く楽天の三木谷会長兼社長が、その本領を発揮したのは17年12月のこと。三木谷氏が安倍晋三政権の官房長官時代の菅義偉氏を後ろ盾に“第4の携帯キャリア”を表明した。これには業界関係者の度肝を抜いた。NTTドコモ、KDDI(au)、ソフトバンクの大手3社が設備投資を終えている4Gに今さら参入しても、太刀打ちできないからだ。
当時、既存大手の3社寡占に業を煮やしていた菅氏は、三木谷氏を”変革者”に見立てて、「料金引き下げの急先鋒になること」を促した。菅官房長官は18年8月に「携帯電話料金は4割値下げできる余地がある」と発言。さらに「2019年10月には楽天の参入によって、通信料金は値下げされるだろう」と語っていた。
ところが19年10月1日から「第4のキャリア」として参入するはずだった楽天モバイルがいきなりつまずいた。基地局の整備が遅れているためだ。楽天の本格参入が遅れたことで、値下げ競争も遅れる。三木谷氏は菅官房長官の面子を潰したのである。
これで菅氏は三木谷氏に見切りをつけたようだ。菅氏が携帯電話値下げのカードとして切ったのが、国策会社NTTによる(株)NTTドコモの完全子会社化だ。
昨年9月、菅政権の誕生とともに、NTTドコモの携帯電話料金の値下げを打ち出した。これにKDDI(au)、ソフトバンクも追随。菅政権の公約である携帯電話料金の官製値下げが実現した。
楽天は官製値下げの旗振りとして利用されただけで、お役御免。三木谷氏にしてみれば、「2階に上がってハシゴを外れた」心境だろう。これで携帯電話事業から撤退するかと思いきや、そうではない。
基地局を整備するため、大増資を敢行した。ところが、テンセントから出資を受け入れたことで、日米両政府の逆鱗に触れた。令和の「政商」と呼ばれる楽天の三木谷会長兼社長は、創業以来の最大の岐路に立たされたのである。
(了)
【森村 和男】
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