旅の本質に見え隠れするもの(前)
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コロナ禍で「利他(りた)」(自分を犠牲にしても他人の利益を図ること)について考えてみた。運営する「サロン幸福亭ぐるり」(以下、「ぐるり」)も地域の高齢者のための居場所である。一定程度の公的な援助や入亭料はあるものの、不足分は自分で負担している。何もそこまでして地域住民のために…、と思うこともあるが、「公的な機関がやってくれないなら自分でやってしまえ」と勝手にはじめたのだから、文句をいえる筋合いのものでもない。ただ、与えられることに慣れている住民には、筆者の真意は伝わりにくい。その1つが「金(きん)力より筋(きん)力」ということだ。
筋肉を鍛えることは何歳からでも有効だ
筋肉を鍛えることは何歳からでも有効だと説くのは、中高年の体力トレーニング、健康政策研究の第一人者、久野譜也教授(筑波大大学院スポーツ医学専攻)である。「アンチエイジングという点で、筋肉は最も効果をあらわす『臓器』なのです」「一定のスピードで歩くという筋力が必要なのです。歩く速さは、ピッチ(回転)×ストライド(歩幅)です。老化とともに落ちていくのはストライドの方で、安全に移動するためにも歩幅を維持する筋力をキープしたいものです」(『朝日新聞』2018年12月4日付)と説く。
ウォーキングは脂肪燃焼効果、血流促進、低体温改善などの効果があり、ダイエットには最適だといわれている。加えて中性脂肪の減少、安定した血圧、血糖値にもよい影響がある。ただし、毎日続けることが大切で、歩く姿勢も重要だ。
世の中には「同じ歩幅で歩くこと」を強いられる人もいる。当然筋力アップにもつながり、体力と胆力を身につけることができたにちがいない。日本国中を測量してまわり、初めて日本地図「大日本沿海輿地全図」(伊能図)を完成させた伊能忠敬(1745~1818)である。
「忠敬は上総国の小関(現・千葉県九十九里町)の出身。下総国の佐原(現・同県香取市)で事業家として成功。幼いころの『地球の大きさを知りたい』という夢をあきらめきれず、50歳で江戸に出た。門前仲町に居を構え、正確な一歩を積み重ねる歩測の練習をしながら浅草の暦局に通って、暦学や天文学を学んだ。その後、55歳から17年間にわたり、全国測量の旅に出かける」「歩測しながらの過酷な旅は、数カ月から時に約2年にもおよび、忠敬自身の全旅行距離は計3万5千キロ」(『朝日新聞』2021年2月22日付夕刊)という。凄まじい距離だ。
「正確な一歩を重ねる歩測の練習」とあるくらいだから、同じ歩幅で歩くことを求められた「歩行術」なのだろう。筆者のようにその日の気分でいいかげんに歩くのではなく、「同じ歩幅で長い距離を歩く」ことは、想像を絶する精神力と体力を求められた。当然、筋力アップにつながったはずだ。73歳という高齢(江戸時代の平均寿命は32歳~44歳、『寿命図鑑』、いろは出版)で死去したというのも、忠敬の体力(筋力も含む)と健康のたまものだろう。「伊能図」は忠敬の死から3年後の1821(文政4)年、門人らの手で完成。幕府に献上された。明治時代に皇居火災により正本が消失したものの、最近複製が発見され東京都江東区の富岡八幡宮境内にある資料館に展示されている。
<プロフィール>
大山眞人(おおやま まひと)
1944年山形市生まれ。早大卒。出版社勤務の後、ノンフィクション作家。主な著作に、『S病院老人病棟の仲間たち』『取締役宝くじ部長』(文藝春秋)『老いてこそ2人で生きたい』『夢のある「終の棲家」を作りたい』(大和書房)『退学者ゼロ高校 須郷昌徳の「これが教育たい!」』(河出書房新社)『克って勝つー田村亮子を育てた男』(自由現代社)『取締役総務部長 奈良坂龍平』(讀賣新聞社)『悪徳商法』(文春新書)『団地が死んでいく』(平凡社新書)『騙されたがる人たち』(講談社)『親を棄てる子どもたち 新しい「姥捨山」のかたちを求めて』(平凡社新書)『「陸軍分列行進曲」とふたつの「君が代」』(同)など。関連キーワード
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