2024年12月29日( 日 )

QOLの向上は食事と運動にあり(後)

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大さんのシニアリポート第108回


サロン幸福亭ぐるり    少し古いが、朝日新聞(16年9月7日)に、「昨年6月、日本老年学会が『現在の高齢者は10~20年前に比べて5~10歳は若返っていると想定される』と発表。意欲や能力のある高齢者が就労やボランティア活動に参加していくことの重要性を指摘した」とある。さらに歩行速度も飛躍的に向上。歩行速度こそ高齢者の健康度を測る重要な指標になる。握力に関しても若返りが見られるという。6年後の現在では、その数字はさらに向上していると推測される。8年前に内閣府が「何歳から高齢者か」という問いに、当時は「70歳から」と「75歳から」が併せて57%という数字だったが、現在では「75歳以上」を高齢者、「80歳以上」を後期高齢者と呼んでも不思議ではないだろう。ただこの数字を声高に話すと、「お前は年金受給年齢引き下げ(上げ?)の賛同者か」と疑いをかけられそうだ。

 興味ある数字を目にした。朝日新聞(22年2月12日「be」)に、「最も長生きな種目はテニス?」と題して、デンマークと米国の研究チームがいくつかの代表的なスポーツの「長生き度」を紹介している。平均寿命+9・7歳でテニスがトップ。バドミントンが2位で+6・2歳。体操が+3・1歳で7位。ジムでのエクササイズが+1・5歳で8位。私が毎日やっているウォーキングはランク外である。研究チームはスポーツにともなう「社会的相互作用」が重要で、「テニスは1人ではできないスポーツだ。テニス仲間と会話し、社会的なつながりをもつことが肉体的、精神的によい効果をもたらす可能性がある」と指摘する。また「激しいジョギングをする人と、運動しない人は統計的には死亡率が一緒だった。テニスのダブルスのように、中程度の運動のほうが長生きにつながる可能性があります」と結論づけている。

サロン幸福亭ぐるり    肉や魚が好きな私には少しばかり気になる記事を目にした。朝日新聞(22年2月13日)の「フォーラム 動物の幸せって?」で、元パラスイマーの一ノ瀬メイさんがビーガン(卵や乳製品を含む動物性食品を口にしない完全菜食)であることを明言し、ビーガンのメリットを紹介している。「ビーガン食にしてから、おなかいっぱいに食べても体重が増えません。むしろ減って数カ月後の検査では体脂肪が減ったのに対して、筋肉量は落ちていませんでした」「朝練の後にたくさん食べてから午後の練習をこなしていましたが、食後に眠くならなくなったり、筋肉痛があまり出にくくなったり、スクワットやベンチプレスといった筋肉トレーニングでは最大値が上がりました」と述べている。ビーガン食でも普段通りに鍛えれば、筋肉量がアップするというのだ。動物性たんぱく質を豆などの植物性たんぱく質に代え、そのうえ腹いっぱい食べても太らないというのは、高齢者にとって朗報といえる。

 筋肉は40日で半分が入れ替わるという。筋トレは年齢には無関係に筋力アップにつながる。筑波大学教授で健康政策研究の第一人者久野譜也氏は朝日新聞(18年12月4日)で、「ウォーキングは有酸素運動としてはいい方法ですが、2時間歩いても筋力強化には効果はありません」「筋力は40代から毎年1%落ちていきます。低下を少しでも遅らせるにはやはり筋トレです」と明言する。高齢になっても社会に貢献する気持ち「利他」(他人の利益のために動くこと)とボランティア精神を維持し続けることも健康で長生きの秘訣だ。これから先の人生を見据えるうえで、筋トレは重要なファクターだと断言してもいい。

 「高齢者(動きが少ない)だから粗食で十分」という間違った知識を持つ人が現在もいる。「粗食」を「ビーガン食」に代えるだけで筋力もアップ。逆に体脂肪率が減り、体重が増えず、眠くなりにくい体質に変更が可能なのだ。これまでの発想を少し変えるだけで健康な老後を送ることができる。一考に値する。

(了)


<プロフィール>
大山眞人(おおやま まひと)

 1944年山形市生まれ。早大卒。出版社勤務の後、ノンフィクション作家。主な著作に、『S病院老人病棟の仲間たち』『取締役宝くじ部長』(文藝春秋)『老いてこそ2人で生きたい』『夢のある「終の棲家」を作りたい』(大和書房)『退学者ゼロ高校 須郷昌徳の「これが教育たい!」』(河出書房新社)『克って勝つー田村亮子を育てた男』(自由現代社)『取締役総務部長 奈良坂龍平』(讀賣新聞社)『悪徳商法』(文春新書)『団地が死んでいく』(平凡社新書)『騙されたがる人たち』(講談社)『親を棄てる子どもたち 新しい「姥捨山」のかたちを求めて』(平凡社新書)『「陸軍分列行進曲」とふたつの「君が代」』(同)など。

(第108回・前)
(第109回・前)

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