2024年12月22日( 日 )

『中国経済新聞』の徐静波氏が中国経済の動向を語る

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(株)アジア通信社
代表取締役社長 徐 静波 氏

 今年は、日中国交正常化50周年に当たる。この50年で中国は経済が成長し、それにともない日中関係も大きく変化してきた。中国情勢や経済動向について、(株)アジア通信社代表取締役社長・徐静波氏に聞いた。

中国経済の動向

(株)アジア通信社代表取締役社長・徐静波氏
(株)アジア通信社代表取締役社長・徐 静波 氏

    『中国経済新聞』を発信している(株)アジア通信社の代表取締役社長・徐静波氏が、生まれ育った中国の浙江省舟山市を離れて来日したのは、1992年に東海大学大学院文学研究科に私費留学したときだった。当時、国費の中国人留学生は優雅に暮らしていたが、徐氏は私費で留学していたことから、授業以外のほとんどの時間を授業料や生活費を稼ぐためにアルバイトに費やしていたという。

 『中文導報(電子版)』によると、2021年末現在で中国本土出身の在日中国人の登録者数は71万6,606人(前年末比7.9%減)で、毎年3,000~4,000人の中国人が帰化していることから、徐氏は「中国をルーツとする人は、約80万人近く日本に住んでいるのではないでしょうか」と語る。

 当時の中国人留学生はハングリー精神があったため、日本に留学した後、日本で起業したり、就職したりして、日本社会で活躍している人も多いという。一方、経済発展した今の中国では、日本への留学生は親から仕送りを受けている人も多く、留学生が過ごす環境や人生観も変わってきている。日本で暮らす中国人の子どもは、日本で生まれ育ったため資本主義の感覚が強く、留学する場合は米国を選ぶことが多いという。

 中国は都市部と農村部の経済格差が大きいが、北京や上海などの都市部は今では経済的に豊かになった。日本はバブル期以降、世界から見れば「モノ」が溢れる国になり、低成長時代が続いたため、国民はバブルのころのような物欲がなく「消費離れ」が進み、ハングリー精神が少なくなったと言われている。

 一方、中国の都市部は豊かになり、モノで溢れるようになったが、人々の消費はまだまだ旺盛だという。このことも中国が世界の一大市場となっている理由だろう。徐氏は「中国がバブルを経ても、日本のように『モノをほしくない』時代になるまでは、あと10年くらいかかるでしょう」と予想している。

 コロナ前の20年1~3月の「訪日外国人消費動向調査」によると、1人あたりの旅行中の支出は、中国は2位の24万円で、1位のベトナムの約25万円と並び、ほかの国を上回っている。日本のインバウンド市場は中国人観光客による影響を大きく受けており、中国からの観光客が戻れば、インバウンド市場が大きく回復することが見込まれている。

 中国が今後、直面すると想定されているのは、日本のような少子高齢化の問題だ。「中国では、一人っ子政策で子どもが減り、バブルで不動産の価格が高騰しているため、都市部の家賃や教育費が高く、結婚したくない若者が増えているため、ますます少子高齢化が進むと考えられます。農村部も都市部と同じように核家族化が進み、大家族制はなくなってきていますが、中国は日本より年金の格差が大きく、会社員や公務員ではない場合は任意加入のため、高齢化が進んだ場合に高齢者の暮らしの在り方が大きな問題になると予想されています」(徐氏)。

コロナ後の中国経済は「V」型回復が難しい

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 中国では「ゼロコロナ」政策で、省をまたぐ移動が厳しく制限されているため、欧米や日本などの外資系企業を含め、納期の遅れなど生産業や流通業などに大きな影響が出ている。米国や欧州はウイグル族に対する人権問題をめぐり、中国に対して制裁を行っているが、中国は大生産国であるとともに、車など世界中の企業が販売する商品の一大消費国ともなっている。そのため、欧米には消費市場を失いたくないという思いもあり、国際関係は複雑であるようだ。また、日本に輸出している中国企業は、円安により利益の幅が小さくなっているという。

 現在の国際事情について、「ロシアのウクライナ侵攻では、アメリカはウクライナを支援しているため、これまで米中対立に向けていた軍事力が分散し、中国への対立意識が少し和らいでいるのではないかと考えています」(徐氏)。

 今年は、日中国交正常化50周年に当たる。世界情勢が揺れ動くなか、日中関係は今後、どのように変わっていくのだろうか。徐氏は、中国と日本の関係を静かに見つめ続けている。

【石井 ゆかり】


<プロフィール>
徐 静波
(じょ・せいは)
政治・経済ジャーナリスト。(株)アジア通信社社長兼『中国経済新聞』編集長。中国浙江省出身。1992年に来日し、東海大学大学院に留学。2000年にアジア通信社を設立、翌年『中国経済新聞』を創刊。09年に中国ニュースサイト『日本新聞網』を創刊。22年に「中国経済新聞」のウェブ版を開始。著書に『株式会社中華人民共和国』(PHP)、『2023年の中国』(作品社)など多数。訳書に『一勝九敗』(柳井正著、北京と台湾で出版)など多数。日本記者クラブ会員。経団連、日本商工会議所、日本新聞協会などで講演。

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