2024年07月16日( 火 )

盛況な「子ども食堂」にみる生活困窮者の実態(後)

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大さんのシニアリポート第114回

サロン幸福亭ぐるり    「ぐるり」で継続している子ども食堂が満杯状態であることは紹介した。突然飛び込みで懇願する親と子ども。間に入る社協にも電話が入る。コロナ禍でとくに要請が増えた。実際に食事を提供することはできない状態なので、現在はレトルト食品や菓子、弁当などの配布で急場をしのいでいる。コロナが終息しても生活困窮者が減るとは思えない。

 社会活動家の湯浅誠氏は、「こども食堂は単なる福祉の場、貧窮対策の場ではない。孤立無援を減らす可能性がある」(『朝日新聞』21年8月4日)と述べている。湯浅氏は、外部からは見えにくい弱い立場の存在を意識しながらも、訪れる人を幅広く迎え入れることを目的として、「全国こども食堂支援センター・むすびえ」を開き、現在その理事長を務めている。そこの調査によると、こども食堂は4年で16倍に増え、20年末で国内約5,000カ所(21年末で約6,000カ所に増えた)に達している。自治会・町内会長には男性が多いなかで、こども食堂の運営は地域社会の中核を担う女性が主力である。

 「コロナ前の『平時』から多世代型交流の輪がある地域では、こうした『非常時』にも活動が生んだ縁を生かし、孤立無援になる人を減らすことができる」「いま大変な『赤信号』の子だけ助けようとしても問題は解決しない。一歩手前の『黄信号』の子にも目が行き届くような、あらゆる層にとっての居場所づくりが大事」(同)と湯浅氏はいう。湯浅氏は、民主党政権下で内閣府参与として国の政策づくりに関与した経験をもつ。今後の目標は、25年に2万カ所、全国のすべての小学校区にこども食堂がある状態を目指す。その精神には、子どもだけではなく孤立しがちな大人にも目が行き届く社会を目指していると思う。

サロン幸福亭ぐるり    大阪市西成区にある「にしなり・子ども食堂」は開室して約10年。代表の川辺康子さんたちが市営住宅の一室で月火曜日の週2回開いている。夕食食べ放題で無料。さらに川辺さんは、「にしなり★つながりの家」という“地域の実家”を立ち上げた。「いつでも開いていて、高齢者がきて、子育て相談ができて、子どもたちが帰ってきて、ご飯を食べて、お風呂に入って…。さまざまなかたちで出会い、ゆっくりできる場所にしたい。築40年の鉄筋平屋を改修し、65m2の広々した食堂やホール、多目的室を設ける。クラウドファンディングで1,979万円集まり、費用の半分ほど支援してもらえた。700人もが応援してくれている」(『朝日新聞』22年6月11日「多事奏論」)が9月18日オープン予定だ。「たくましさに希望がある。自分にも何かできたらという思いをもつ。川辺さんのような人が全国にいる。これまで私も関西や沖縄、九州、首都圏の子ども食堂を訪ねた。やり方はそれぞれだが、そこはみんなの居場所で、出会いの場だ。いろいろな人がいて、いろいろな生き方があると知ることができるのが魅力ではないのか。しかも一緒においしく食べて。地域も自分もちょっと変われる気がする」と河合記者は結ぶ。

 愛媛県宇和島市にある「ぐらんま子ども食堂」(19年4月開設 NPO法人「うわじまグランマ」松島陽子代表理事)では、「食堂を開くと無料の子どもだけではなく地域のお年寄りらも多く集まる。ボランティアとして中高生も毎回のように参加し世代を超えた交流の場になっている」(『朝日新聞』20年11月4日)という。子ども食堂は貧困家庭の子どもばかりではなく、大人も集える開かれた地域の居場所という性格をもたせるべきだろう。

 さて、わが「ぐるり」の子ども食堂はどうだろう。利用する子どもの家庭の「食育」をも担うというコンセプトは霧消した。子どもだけを「ぐるり」に預け、親が来ることはほぼない。利用者と(ボランティアを含む)地域住民との結びつきは、これから先の生活に欠かせないと思うのだが……。

(了)


<プロフィール>
大山眞人(おおやま まひと)

 1944年山形市生まれ。早大卒。出版社勤務の後、ノンフィクション作家。主な著作に、『S病院老人病棟の仲間たち』『取締役宝くじ部長』(文藝春秋)『老いてこそ2人で生きたい』『夢のある「終の棲家」を作りたい』(大和書房)『退学者ゼロ高校 須郷昌徳の「これが教育たい!」』(河出書房新社)『克って勝つー田村亮子を育てた男』(自由現代社)『取締役総務部長 奈良坂龍平』(讀賣新聞社)『悪徳商法』(文春新書)『団地が死んでいく』(平凡社新書)『騙されたがる人たち』(講談社)『親を棄てる子どもたち 新しい「姥捨山」のかたちを求めて』(平凡社新書)『「陸軍分列行進曲」とふたつの「君が代」』(同)など。

(第114回・前)

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