最優先されるべきは選手の安全だ 福岡2-3名古屋
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サッカーJ1リーグアビスパ福岡は3日、ホームのベスト電器スタジアムに名古屋グランパスを迎えて第28節の試合を行った。
まず、試合経過を簡単に振り返っておく。この試合には、物議を醸す2つのシーンがあった。
シーンその(1)
2分、名古屋がアビスパのゴール前に送ったロングボールを背走して追ったDF宮大樹と、ペナルティエリアを出てこのボールを処理しようとしたGK永石拓海の両者が激しく接触。頭を打った2人がフィールドに横たわるなかで名古屋はプレーを続行し、DF森下龍矢がゴールを奪う。GK永石は脳しんとうの疑いがあるため、そのままGK村上昌謙と交代する。シーンその(2)
21分、MFジョルディ・クルークスが名古屋DFと交錯し、ピッチに倒れこむ。名古屋MFレオ・シルバはボールをフィールド外に蹴り出し、プレーを中断。アビスパボールのスローインで試合再開となり、スローインのボールを受けたFWルキアンがゴール前にクロスを送る。これをクルークスが落ち着いてシュートし、アビスパが得点する。一般に、(2)のように倒れた選手がいる際にプレーを切った場合は、再開後のスローインなどではプレーを切った側(この場合は名古屋)にボールを返すのが通例となっている。
その(2)の後、アビスパの長谷部茂利監督は(2)のシーンはフェアなプレーではないので、名古屋に1点取らせるようにと選手たちに指示。アビスパの選手たちが見つめるなか、名古屋FW永井謙佑がゴールを決めた。
試合はその後、両者が1点ずつ取り、2-3でアビスパが敗れている。
さて、ここからが本題である。(2)でのFWルキアンの行為がフェアプレーの精神に反しているという声があるが、もっとも重要なのは(1)の事象で、「選手の生命・安全が最優先されるべき」だ、ということだ。
Jリーグでは2021年から、通常の選手交代とは別に「脳しんとうによる交代」を可能とするルールを導入している。サッカーはヘディングでボールを争うという競技の特性上、プレー中に頭を強く打って脳しんとうを起こす事故が少なくない。脳しんとうを起こした選手が数日から数週間以内に再び脳しんとうを起こすと、ほぼ半数が死亡する(脳しんとうのセカンドインパクト症候群)という非常に危険なデータも出ており、選手の生命を守るために、細心の注意を払わなければならないのは明らかだ。
(1)での永石と宮は、全速力で走ってきた両者の頭と頭が激しく接触し、そのままフィールドに倒れこむという明らかに危険な状態。本来ならば名古屋の選手たちにプレーを止めることを望みたいが、仮に選手たちが状況を認識できていなかったとしても、目の前で見ていた主審にはプレーを止め、選手の生命の安全を守る責任があった。名古屋の選手たちからすれば「得点機会を阻止された」ということになるかもしれないが、試合よりも、サッカーよりも大切なのは「選手の生命」ではないのか。そのための「脳しんとう交代ルール」ではないのだろうか。
(2)でのFWルキアンの行為はフェアプレー精神からすれば容認されるべきではない。しかし、本人が試合後にSNSで「(1)の際に審判がプレーを止めるべきだった。だから(2)の行動を取った」と発言しているように、主審が選手の生命を第一に考え、プレーを止める勇気をもっていれば(2)のような状況は起きなかった、と考えることもできる。
試合後半では、アビスパの攻撃中、ペナルティエリア内で名古屋の選手の手がボールに触れる状況が二度もあった。それぞれハンドとは見なされなかったが、アビスパの選手たちや、サポーターのフラストレーションがさらに高まったのは間違いないだろう。
審判に求められるのは「公平・公正なジャッジ」だが、それ以上に重要なのは「選手が安全にプレーできるように、試合を管理すること」だ。審判、選手、そしてすべてのサッカー関係者には、フェアプレー精神や試合での勝利よりも、命を守る行動を心がけてほしい。
【深水 央】
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