2024年12月22日( 日 )

どんな小売業が生き残るのか(中)

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流通コンサルタント 神戸 彲 

 我が国の経済全般の停滞が言われて久しい。バブル以降の小売業を一言で表現すれば「供給過剰」だ。供給するモノが多ければその価格は上がらない。いわゆるデフレ状態だ。加えて、ここにきての急激な円安と原材料高が広範な業界にわたって影響をおよぼしている。消費低迷とデフレという停滞のなか、緩慢な競争を何とか生き抜いてきた小売業に、いま大きな転機が訪れている。

デジタルという新参者(つづき)

ホールフーズのチーズ売り場、世界700種をそろえる
ホールフーズのチーズ売り場、世界700種をそろえる

 そんなホールフーズが買収された体質上の原因は、商圏の枯渇だ。高い経費率を補うには、3.3m2あたり100万円を超える売上が必要だが、購入頻度の高い食品については、品質が良ければ高くても買うというお客は多くない。大都市やその周辺といった高額所得者が住む地域は大国アメリカといってもそう多くないため、最終的にはデトロイトなどの平均世帯所得が2万ドルというラストベルト地域のフードデザート地区にまで出店をしなければならないところまで追い込まれた。また、「クローガー」や「ウォルマート」などの大手小売業がホールフーズより安い価格でオーガニック食品を扱うようになったため、ホールフーズの原理原則が壊されたのだ。

 このままでは先がないと、ホールフーズ創業者のジョン・マッキーは判断して40年のホールフーズ人生に実質的な終止符を打ったのだろう。マッキーは22年9月、ホールフーズの経営から完全に手を引く。

 アマゾンは無人型の新店舗の実験を続けるとともに、ホールフーズの店舗も利用して食品宅配に乗り出している。アマゾンによる買収後、ホールフーズの商品、陳列に往年の面影はない。アマゾンは売り場の感動を丸ごと流し去った。なぜなら、ハイクオリティーな売り場と高い価格にアマゾンの興味はないからだ。アメリカの食料市場は外食を入れて200兆円前後だろう。高品質な商品の市場はその数%でしかない。ホールフーズが得意とする生鮮は全体の20%だ。アマゾンがその規模の市場を重視するはずがない。アマゾンに買収されたホールフーズの売り場崩壊は当然の帰結でもある。

 それではアマゾンの生鮮食品宅配はどうだろう。生鮮には鮮度と品質管理という顧客デマンドがある。しかも購入頻度が高い。高品質の商品をローコストで高頻度、しかも限られた時間内に届けなければならない。食品宅配事業が長い間が軌道に乗らなかったのは、解決すべき問題が少なくなかったからだ。今後、家庭食に占める生鮮の構成比が低くなるとしても、それが外食へのシフトであれば、スーパーマーケットの優位性にはつながらない。アマゾンが巨大なフルフィルメント配送センターに大きな投資を行う一方で、リアルの新型店に挑戦するのは生鮮食品が大きな理由のはずだ。アマゾンさえも解決できるとは限らず、その意味では今後も万全とはいえない。

 アマゾンの野望はそれだけで終わらない。このほど、ロサンゼルス郊外のショッピングセンターにあるファストファッションストア「フォーエバー21」の退店跡に新タイプのアパレル店をオープンさせた。アプリ、40もの試着室、バックヤードに置かれた在庫と、通販サイトとリアルを合体させたような新型リアル店舗だ。

 「すべてを疑い、すべてを飲み込む」。成功を収められるかは別として、これがGAFAの一角を占めるアマゾンの真骨頂だ。新参者が古参を凌駕するのが歴史の常だ。そんなアマゾンは、「ZARA」や「ユニクロ」など巨大アパレル小売業にとって、改めて脅威になるに違いない。

ウォルマートのオンライン注文の店舗受け取りコーナー
ウォルマートのオンライン注文の店舗受け取りコーナー

アナログなこだわり

 AIで販売数を予測、仕入れ、仕込みの適正化で食品ロスを削減。21年9月期決算で売上高や営業利益などが過去最高を記録した(株)FOOD & LIFE COMPANIESが運営する「スシロー」が、おとり広告で公取から摘発された。あきんどスシローの“あきんど”の名に恥じる行為だ。ウニ、カニの高級食材をたっぷりのテレビコマーシャルに胸躍らせて店を訪れた客の9割が広告商品を口にできなかったこともあるという。こんな商売をする組織をあきんどとは言わない。看板に偽りアリである。

 その逆を行くのがお客第一主義だ。お客からの商品および人的サービスの要求には100%応える。いわゆるお客の要望をできる限り聞くという小売業がある。この小売業は顧客要望をボードに掲示し、その高い実現力で好評を博している。寄せられる要望も多く、言い換えれば店に対してのお客からの信頼が極めて厚いということだ。このような店は客数が多いだけでなく、買い上げ点数も増えその単価も高くなる。多少価格が高めでもそれに余る価値をお客が認めているということに他ならない。

 総務省の家計支出調査から推計する我が国の食料品市場額は48兆円程度。そのうち、デリカを含む生鮮は20兆円前後と推計される。食消費市場の規模比較から見て、生鮮食品が占める割合はアメリカと比較して極めて大きい。ここにアナログ的経営の生きる道がある。すなわち商品と売り場のアナログ化である。

 もともと、スーパーマーケットの売上の大部分は生鮮と総菜、乳製品という鮮度保持が容易でないペリシャブル(傷みやすい)な商品が中心だ。このなかで、総菜と生鮮に生きる道を見出す。20兆円の生鮮食品市場のなかで、高質消費の占める割合は多めに見ても5%前後に過ぎないだろう。

 神戸の高質スーパー「イカリ」が関東に出てもうまく行かず、「成城石井」が従来の高質路線から駅ナカのおしゃれ型に転換せざるを得なかったのは、その市場が限られていることを物語る。しかし、市場が小さいだけにそれを極めようというライバルは少なく、そこに特別な生存領域がある。いわゆるニッチだ。ニッチは大手経営には馴染まない。そこに求められるのが情熱とこだわりであり、少数のお客を対象にした特殊な分野だからだ。

(つづく)

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